科学的介護とは、すべての介護事業者が根拠ある介護を実践し、利用者の自立支援と生活の質の向上という結果を出す方法論である。

そうした介護を実現するために科学的介護情報システム(LIFE)は、日本全国から介護のデータを集めて解析しているわけであり、それは日本で唯一・最大の介護データベースである。そこで行われるデータ解析が介護のエビデンスにつながっていくとされているのである。

しかしそれだけでは科学的介護は実現しない。科学的介護の実現のキイとなるのは、そのデータをどう活用するかが問題となってくるのである。そのためLIFEは介護事業者に情報提出を求めるだけではなく、フィードバックをPDCAサイクル活用し、より結果が出る方法を求めている。このことについて、「科学的介護情報システム(LIFE)が求めているのは根拠と結果」で解説したところだ。

このことに関連して、6/30に開催された介護フォーラムに登壇した岡山大学客員教授の宮島俊彦氏(元厚労省老健局長)は、「LIFE」を基盤に科学的介護を推進する国の方針について、「本当に成果が出るかどうかはこれから。それはまだ分からないが、成果を出そうということで始めたのは思い切った政策判断。」と述べた。 加えて氏は、「私が局長の頃は、こういうことをやろうとしても"エビデンスが出ません"などと言われてしまい、なかなか前に進まなかった。10年くらい経つとやっぱり世の中は変わるなと。そんな感じがしています。」と説明した。

しかし氏が言うように、LIFE運用が時代が前に進んだ結果なのかどうかは大いに疑問である。むしろ前のめりの姿勢が、介護の質の変化にはつながっても、それは事業者に都合の良い品質変化でしかなく、むしろ利用者に歓迎されない結果を招くのではないかという恐れさえ感じている。

科学的介護とは、根拠と結果が問われる方法論であり、「こうすればこうなる」という因果関係を見つけ出して、その因果関係を生み出す方法を実践する介護であるが、一人ひとり違った感情を持つ人間という存在に対して、大多数の人に有効となる支援方法が導き出せるのかという問題がある。

個性の異なる人間に対して、同じやり方で結果も同じになるとは限らないからだ。

生活歴も生活習慣も異なる人々に、共通の答えを出すことができる方法論なんてあるんだろうか。10年前には厚労省内でさえも、「エビデンスが出ません」と言われていたのは、このような困難性に起因していたからではないかと思え、案外それが真実だったりするのではないのか。

10年という月日の流れは、この部分で人間に進化・進歩をもたらしたのであろうか。

むしろこの10年で個人のライフスタイルは益々多様化し、個人の価値観にも差が生まれているのではないのか。そうであれば大多数の介護サービス利用者の共通項を見つけ出すことの困難性は、10年前より高まっているのではないのか・・・。

そういう意味では、介護のエビデンスが生み出される可能性は、決して10年前に比べて高くなっているようには思えない。

しかしLIFEは、介護のエビデンスが生まれることを前提に運用がスタートしている。科学的介護という看板を高く掲げて走り始めた今の状態は、必ずエビデンスを示さねばならないという様々な圧力がかかるのだから、エビデンスという名のフィクション介護を生み出す危険性を高めていると言えなくもない。

だからこそ私たちは、「科学的介護」とは、テクノロジーを使って人の省力化を図る介護ではないということをしっかり理解したうえで、何が本物の科学的介護なのかということを見極める目が必要とされる。

嘘と屁理屈で固められた、「偽物の科学」に、しっかりと異を唱える姿勢も求められる。

そのためには私たち自身が、本物の介護の実践者でなければならない。本物とは根拠に基づいた結果を出し続ける介護実践者のことを言う。

私たちには小さな力しかないのだけれども、私たちが関わる利用者の方々が、私たちが関わる以前より少しだけでも幸せに過ごすことがで来ているという結果を出し続ける介護実践だけが本物なのである。

その実践の根拠をしっかり語ることのできる理論武装が、本当の科学的介護と言えるのだということを、肝に銘じなければならない。
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