課題分析の結果となっていないケアプランの例より続く)
利用者や家族の意向を、そのままプランニングするのではなく、その意向をきちんと課題分析して、自立支援に資する課題を把握しなければならないとは言っても、アセスメントツールは自動的に自立支援に資する課題や、利用者ニーズを抽出するほど絶対的なものではない。

仮にAIを搭載したケアプラン作成支援ソフトを使ったとしても、それらは自動抽出できるものではないのである。

「自立支援に資する課題」の把握や、「デマンドよりニーズを引き出す」という作業自体は、最終的に計画担当者の主観によっても左右されるものであり、それが正解かどうかは誰にもわからない。

だからこそ自立に資する課題を把握しているかを確認すると同時に、ケアマネジメントは利用者の希望を削り取ったり、思いを奪ったりするものではないという考え方が一方で求められるのだ。

デマンドに過ぎないと思われていた利用者の希望そのものが、真のニーズであったと後からわかることがある。人間の感情が結果に影響する、「暮らしの支援」とは、そこが一番難しいところなのである。

僕は若いころ、利用者の希望を単なるデマンドであると思い込み、それを安易に切り捨てて大失敗につながった苦い思い出がある。

特養で暮らしていた80代の女性が、夜ベッドサイドにポータブルトイレを置いて欲しいと要望した。しかしその方の居室はトイレのすぐ目の前で、当該利用者のベッドは廊下側であった。つまり廊下をはさんですぐの場所にトイレがあり、その方自身は歩行器を使った自力歩行ができ移動能力に問題はないとされていた。

だから僕は、その方はポータブルトイレを使う必要性がないと考え、ポータブルトイレを使わないでトイレで排泄するように説得し、その方にポータブルトイレを使わないことを、「渋々」ながら納得させた。

その方がなぜ歩行できるにもかかわらず、夜ベッドサイドにポータブルトイレを置きたいと思ったのかという気持ちを推量することもなく、その思いを受容することもなく、説得に走ったのである。

その結果、その方はポータブルトイレを使用しないで過ごしていたが、実は夜こっそりバケツに排尿して、朝方職員に見つからないように居室のキッチンシンクに尿を捨てていることが分かった。

その方は、夜間におしっこがしたくなって目が覚めた時に、僅かな距離であっても、ベッドから降りて歩行器を使いながらトイレまで歩いて排泄するという行為が、「しんどかった」のだろう。僕はそのことを理解できなかったのである・・・というか理解しようとする態度に欠けていたとしか言えない。

その方にとっては、トイレに行って帰ってくるだけの行為がしんどくて、目が冴えてそのあと眠れなくなったりという現実があったのである。

このケースでの夜間のポータブル利用が、自立を阻害するかという観点から言っても、そんなことはなかった。日中、歩行機会が十分あり、排せつも自立している80代の高齢者に対して、夜間の排泄まで「頑張ることを強制する」必要性は全くなかったのである。むしろ夜間のトイレの不安を解消することが、精神的な健康を保ち、自立性を担保すると考えても良かったのである。

こうした間違いや見当違いは、人であれば常にあるのだから、自分がケアマネジャーでアセスメントをしているからと言って、自分の考えるニーズだけが本当のニーズであると考えたり、自分の価値判断における自立支援に資する課題が絶対的なものであると考えるのは危険すぎると思う。

だからこそ利用者が自ら口にできる、「表出された意向」は、疑うのではなく最大限に尊重することを第一に考えたほうが良いのではないかと思う。その意向をニーズであると理屈づけるマネジメントが必要だと思う。

なぜなら意向とは希望であり、それは願いとか欲求であるだけではなく、人によっては、「救い」になるからである。

希望というものは、時に自分を救う唯一のものになり得るものだ。それは他人が与えようとしても簡単に与えられないものなのだ。

自分の中でゆっくりと養い育てるのが希望である。その希望は支援者一人一人が、真綿にくるむように大切にし、壊れないようにする必要があるのだ。「それは単なる希望で、ニーズじゃない」と切り捨ててよいものではないはずのものなのである。
希望は新たな意志である
希望は生きていくうえで必要な杖である。その時胸に抱える希望は、たった一本しかない生きる杖なのかもしれない。

「課題分析の結果、それはあなたの望みでしかなく、真のニーズではありません」として、たった1本しかない杖を奪われる結果になって、生きる希望を失う人がいるとすれば、それは人を絶望の淵に追い込む悪魔の言葉でしかない。

ケアマネジャーが悪魔であれば、介護は悲劇でしかなくなる・・・。
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