今年度からの介護保険制度改正は、昨年6月に国会通過した法律によって行われ、そのに伴う省令改正等によるルール変更がそこに加わっている。

その中には、一昨日の記事で指摘したように、低所得者と高額所得者がともに大きな負担増となる変更も含まれているが、当初の改正議論における国民負担増と利用者負担増に関するものは、主要なものがすべて先送りされている。

例えば2号被保険者の年齢引き下げ(最終的には20歳以上としたいと国は考えている)と、1号被保険者の年齢引き上げ(例えば70歳からしか1号被保険者としないなど)も睨んだ被保険者範囲・受給者範囲の拡大も先送りされた。

「現役並み所得(自己負担割合が3割の対象者)」と「一定以上所得(自己負担割合が2割の対象者)」の所得基準を引き下げて、その対象割合を増やそうとする案も先送りされている。

そのほか自己負担化されていない老健・介護医療院の多床室の室料負担や、居宅介護支援費の自己負担導入、軽度者の生活援助サービスや通所介護等の地域支援事業への移行も先送りされており、骨抜きの改正ともいわれている。

しかしそれらの案は消滅したわけではなく、先送りし今後2024年の制度改正案として再度検討されることになる。

その先駆け議論として今年4月から財政審での議論(というか財務省の一方的な指摘に近い)が行われ、その建議が5/21に公開されている。それを読むと給付抑制と自己負担増のオンパレードだ。ただ財務省がそうした方向で建議するのはいつものことではある。その内容を下記にまとめたので参照していただきたい。

・利用者負担を原則2割とすること、2割負担の対象範囲を拡大することを検討していくべき。
・居宅介護支援のケアマネジメントにも利用者負担を新たに導入すべき。
・福祉用具貸与のみを行うケースの報酬を引き下げるなど、サービス内容に応じた報酬体系へ改めるべき。
・老健、介護医療院、介護療養病床の多床室の室料相当額を、基本サービス費から除外する見直しを行うべき。
・様々な政策上の配慮を理由に、限度額の対象外に位置付けられる加算が増えてきていることから、こうした例外措置を2024年度の報酬改定で再考すべき。
・介護保険の居宅療養管理指導や訪問看護などは原則、「通院が困難な利用者」に対して給付を行うこととなっているが、実態としてそれ以外の利用者にもサービスが提供されていないか、速やかに把握して適正化すべき。
・定期巡回・随時対応サービスなどの普及を図る観点に留まらず、サービス見込み量を超えた場合に、市町村が都道府県への事前協議の申し入れや指定拒否ができるようにすることで、自治体が実際のニーズに合わせて地域のサービス供給量をコントロールできるようにすべき。
・市町村の総合事業の事業費の上限額の仕組みが機能せず形骸化していることから、速やかに上限超過を厳しく抑制すべき。
・サービスの質を確保しつつ、より少ない労働力でサービスを提供していけるよう、人員配置基準の緩和なども行いながら、テクノロジーを活かした業務の効率化を進めるべき。
・経営主体の統合・再編などによる事業所の運営の効率化を促す施策を講じるべき。
・事業所の財務諸表などの報告・公表を義務化し、その経営状況の"見える化"を速やかに推進すべき。

今、この制度改正議論は一段落しているが、年明けからは介護保険部会の改正議論が本格化することになり、それが終われば介護給付費分科会の報酬改定議論に移っていくことになる。

そうなるといつも介護事業者は、制度改正と報酬改定に振り回されているような印象になるが、保険給付費で運営している以上それは仕方のないことで、常にその情報にチャンネルを合わせていかねばならないのは介護事業者の宿命だ。

耳の痛い話、厳しい経営状況につながる話だからと言って、決して耳をふさいではならない。どのような状況にも対応策はあるのだから、常に新しい正しい情報をキャッチし、その対応を考えていく必要があるのだ。

報酬改定の部分で言えば、次の改定は診療報酬とのダブル改定になる。限りある財源を医療と介護で引っ張り合いをするわけであるが、消費税増加分の改定とあわせて3期連続のプラス改訂となっている介護報酬への風当たりが強くなることが予測される。診療報酬もその風当たりの強さは同様で、常識で考えると次の改正・改定時は、コロナ禍で疲弊した経済の立て直しが優先される中で行われるので、その風当たりは大幅なマイナス改定につながる可能性もある。

ただ社会情勢や政治情勢は流動的な部分が多い。今年度の介護報酬改定も、今回はプラス改定とすべき財源がないため、マイナス改定が必至と言われる中、コロナ禍という予想外の感染症や、首相交代という政治状況が報酬改定上は順風となるなどの状況が生まれている。

そのように流動的要素はたくさん存在するが、情報をいち早くキャッチし続けることが、そこに順応できる唯一の策につながることを忘れず、怠けずに対応していく必要がある。

そのことをしっかりと心していただきたい。
登録から仕事の紹介、入職後のアフターフォローまで無料でサポート・厚労省許可の安心転職支援はこちらから。

※介護事業経営に不可欠なランニングコストをリスクゼロで削減できる新情報を紹介しています。まずは無料診断から始めましょう。電気代でお困りの法人・個人事業主様へ、電気コスト削減!【ライトでんき】





※別ブログ「masaの血と骨と肉」と「masaの徒然草」もあります。お暇なときに覗きに来て下さい。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。

masaの最新刊看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。