僕の大学時代の所属は文学部社会福祉学科である。
現在のカリュキュラムのように、そこから高齢者福祉専門課程とか、福祉計画専門課程とかのコースに分かれてはいなかったので、社会福祉全般について4年間の専門教育を受けたわけである。
ただしその中でも得意、不得意の科目があって、老人福祉論は不得意な学問で、「可」で何とか単位を取った。
僕の得意科目は、「児童福祉分野」であり、実習も児童相談所で行っている。だから卒業後に、特養で高齢者福祉に係るようになった以後も、自分の専門分野と言ってよい児童福祉の領域にはいつも興味を寄せていた。
1990年(平成)はそのような時期であったが、その年に児童福祉と高齢者福祉関係者に大きなインパクトを与えたのが、「1.57ショック」であった。
この年厚生省(当時)が、「平成元年人口動態統計」を公表したが、その中の合計特殊出生率が1966年(昭和41年)の丙午の年の1.58を下回り、統計史上最低の1.57になった。そのニュースが老人福祉法を改正する法案を審議する国会開催中に明らかになったことで、このままでは日本の高齢者福祉制度は崩壊するとして、そのショックが国会を駆け巡ることになった。
同時に児童福祉分野では、政府・全国団体・地方自治体などから次々と児童福祉施策に関する提言や計画が公表されるきっかけにもなった。
合計特殊出生率 (合計出生率)とは、1人の女性が一生の間に何人の子を産むかを表す数字で、1974年(昭和49年)から一貫して減少傾向をたどっていたが、まさかその数字が1.57まで落ち込むことは誰も予測していなかったわけである。
子供は一人では産めないわけで、合計特殊出生率が2を下回っているということは、一組二人の夫婦が一生の間に産む子供の数が2未満であるということになり、これは人口の減少が止まらないことを表す数字でもある。このままでは日本という国は、次第に社会の活力を失い、経済力も低下していくことがわかってはいたが、そのスピードがあまりにも早いことがわかり、日本中にショックをもたらしたわけである。
ところがその数字にショックを受けた過去など、終わりの始まりに過ぎないということが、今はわかってきた。それ以降も合計特殊出生率の低下が止まらない今日、それは高齢者介護問題の終わりの始まりでもある。
厚生労働省が昨日(6月4日)、昨年の人口動態統計を発表したが、合計特殊出生率が前年から0.02ポイント下がって1.34となっている。地域別で最も低いのは東京都の1.13。最も高いのは沖縄県で1.86だった。
このように1.57ショックどころの騒ぎではないわけだ。
2020年に国内で生まれた日本人の子どもは84万832人と、前年より2万4407人(2・8%)減って過去最少となり、90万人を初めて割り込んで「86万ショック」と呼ばれた19年の86万5239人から、さらに大きく減ったわけである。この数字は政府の推計よりも3年早い減り具合だ。
しかも婚姻数も前年より12・3%減の52万5490組と急減し戦後最少となっている。新型コロナウイルスの影響も重なり、日本の少子化が加速していることがわかるが、それはここ数年のうちに合計特殊出生率が回復する見込みがないことを示すものだ。
すると昨年生まれた子供が小学生に上がる2026年頃は、小学校の教室にさらに使われない空き教室が増えることになるばかりではなく、その子らが成人式を迎える2040年には、生産年齢人口の数が国の予測よりはるかに少ないことになる。
そこで次のグラフを見てほしい。

このように2040年になると、団塊の世代は90歳を超え、急激にその数を減らしていくが、その時に団塊ジュニア世代がすべて65歳以上になるわけである。
団塊の世代の介護を、団塊ジュニア世代が支えていたような次の塊が我が国には存在しないのだから、2040年になると高齢者の数は減って、要介護者の数も減って、特養も通所介護も今より数が減っていくことになるが、そこで働く生産年齢の人の数は今以上に少なくなり、その減少数とスピードも、いま国が予測している数とスピードを上回ることになる。
つまり国の施策はそこに追いつかないのである。
2021年度の制度改正と報酬改定は、2040年度を睨んだ施策を取っているものだが、それをさらに加速した制度改正と報酬改定が2024年度に向けて必要になるということだ。財源と人材がさらに減ることにどう対応するかというために、より厳しく強い施策がとられていくことになるということだ。
そんな中で今後20年以上、介護事業を続けていくつもりの事業者は、人材対策を国に頼ってはならないと覚悟すべきだ。国に頼るだけでは人材は確保できないことを前提にした人材確保と育成システム策を独自で構築しなければ事業が続けられなくなる。
今まではそんなものがなくてもなんとかなった事業者であっても、今後は何とかならないのだ。今ここから始めないと、少子化の進行過程で数年のうちに事業廃止に追い込まれることを覚悟しておかねばならない。
これは脅しではなく、現実である。
※登録から仕事の紹介、入職後のアフターフォローまで無料でサポート・厚労省許可の安心転職支援はこちらから。
※介護事業経営に不可欠なランニングコストをリスクゼロで削減できる新情報を紹介しています。まずは無料診断から始めましょう。電気代でお困りの法人・個人事業主様へ、電気コスト削減!【ライトでんき】





北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。
・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。
・masaの最新刊「看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。