いくつかの介護事業者に顧問やコンサルタント・外部講師として関わっている。

関わり方は個々の契約事項なので様々な形だが、その中には既に5年以上にわたって関係を持ち、定期的に訪問している介護施設もある。

職員の虐待が明らかになったことがある介護施設では、それ以前から当時の施設長の独善的な方針と態度によって、やる気を失った職員に不平・不満が広がっていた経緯もあり、一時期職員の退職者が大幅に増え、それに対して欠員補充もままならずに、慢性的に職員不足・業務過多という状況が続いていた。そのため、ますます働くずらい職場・従業員が集まりにくい職場になっていた。

こういう職場は職員募集の方法を工夫して、応募者が増えるようになっても職員が充足することにはならない。採用する職員が増えたとしても、定着せず短期間に辞めてしまう人数が増えるだけの結果にしかならないからだ。

この施設の場合、経営者である理事長が覚悟を決めて、当時の施設長をはじめとした管理職等を大幅に刷新したうえで、僕をはじめとして幾人かの外部の専門家とアドバイザー契約をして、経営刷新・現場改革に取り組んだ。

この時点でお金と時間を掛けて改革に取り組む覚悟を持った理事長の英断がこの施設を大きく変えていくことになったのである。

人が少ないからそれ以上の人員減少がないように、辞めるのを恐れて十分な教育上の注意・指導ができなくなっていた風潮を改め、スタッフ教育も一からやり直して、法人としての方針を明確にしたうえで、それに従うことができない従業員は辞めていただいても良いという方針を取った。

加えて介護施設のケアサービスの本質は、利用者の暮らしを豊かにするものであるとの理念を実現するために、介護マニュアルの見直しから始まり、スタッフ間の業務分掌の明確化、コミュニケーションの改革、サービスマナーの確立などの課題解決に心を折ることなく取り組んできた。

その後紆余曲折があり、その途中では指定ベッド数の補充率が一時7割を切り、ショートステイも一時休止せざるを得ないという厳しい経営状態に陥る時期を経てきたが、改革をあきらめずに続けてきた。

その成果は職員の充足率の改善に直結している。

昨年度1年間で介護スタッフの退職者は、「寿退職1名」のみで、補充採用も既に終えており、出産育児休業者が数名いるものの、その人たちも復職意思が強くあり、新年度の求職者には、「次の募集があるまで応募をお待ちください」というアナウンスができるようになった。

勿論、ベッド稼働率は入院者を除いて100%である。何より異なるのは、職員のモチベーションである。今いる職員の半数以上は、虐待事件が起きた当時の施設を知らない人であるが、彼ら・彼女らの表情は豊かで、笑顔も多く見られている。

上司の呼びかけに返事も返すことなく、殺伐とした空気の中で、いくつもの小さな仲良し集団に分かれて、他のグループとはまともな会話も交わさずに、業務が流れ作業のように行われていた当時とは同じ施設とは思えない雰囲気である。

この施設では今でも年1回だけ、「サービスマナー研修」を担当させてもらっているが、それも確認するというレベルでしかなくなった。職員間にはマナー意識が確立され、新人職員も先輩の態度や言葉遣いを見て・聴いて、正しい対応方法を覚えている。20代の若い職員が利用者に対して、「かしこまりました」と普通に応えている姿は頼もしく見える。

毎月マナー研修を行って、それでもなかなか成果が出なかった時期を思い出すと、それは隔世の感がある。

しかしここまで来るのには、約5年間という月日を要しているのだ。良い方向に流れるようになったことを実感できるようになったのも、改革を実行して1年半を過ぎたころからであったように記憶している。

この間、僕は何人のスタッフに、「介護の仕事に向いていないんじゃないの」・「その考え方では、ここで働き続けるのは難しいのではないですか」と肩たたきをしたことだろう・・・それだけ一旦荒れた職場を元に戻し、それ以上に引き上げていくには時間とエネルギーが必要になるということだ。

だから今、健全な状態の職場であればあるほど、その状態を保つための検証とメンテナンスは欠かせないと考えなければならない。マンネリズムは転落の大きな落とし穴になるし、言葉や態度のちょっとした乱れが、大きな感覚麻痺を生むので、「介護サービスの割れ窓理論」は常に意識の内に置いておかねばならない。

健全な状態を保つことは、今のままに留まっていることでは実現しない。健全なる職場環境とは、改良を常に続けていくことでしか保持しえないことを思い知らねばならない。
5/22鷲別川沿いの八重桜
※画像は、今朝5/22午前7時頃の鷲別川沿い(自宅横)の八重桜です。
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