訪問介護員が、認知症の方のお宅を訪問するに際してあいさつ代わりに、「私のことわかりますか」・「覚えていますか」と尋ねている姿を時折見かけたりする。

介護施設等でも、介護職員がそのような声掛けをする場面にしばしば出くわすことがある。

しかしこれは極めて不適切な声掛けである。

なぜなら認知症の人の記憶種害は本人の責任ではないからだ。認知症の人が親身に世話をする家族や、介護支援サービスを提供する頼りになる介護職員の顔や名前を覚えられないのは、認知症という症状の中核症状なのである。

記憶の障害は、認知症の人自身の能力とか、性格とか努力といった問題とは何も関係ない問題なのに、認知症の人の記憶力を確かめてどうしようというのだろう。

そもそも認知症の人が、毎日世話をしてくれる介護職員の顔がわからなくなったり、覚えていないのは、忘れてしまうからではなく、記憶にならないからである。

アルツハイマー型認知症の人の脳の画像診断では、ほとんどの人の海馬周辺に血流障害が生ずることがわかっている。そのため海馬が機能不全に陥っているのだ。

海馬(かいば)とは、見たり聞いたりしたことをいったんここに貯めて、記憶として信号を送り出す器官である。その機能が不全状態になっているということは、新しく見たり聞いたりしたことを記憶として脳内に残せないということだ。この部分に現代医学は手が届いていない。予防も治療も不可能な部分なのである。

よって認知症のために記憶を保持できない人に対して、自分の顔を忘れないでいてくれと望むのは、「ないものねだり」でしかないのである。

私のことわかりますか」・「覚えていますか」と尋ねる人は、そのことで一体何を期待しているのだろう。認知症の症状程度も様々だから、介護職員の顔を覚えている人もいる。だからと言ってそれを確認してよいことが何かあるのだろうか?

むしろ確認されても、介護職員の顔や名前を記憶できない認知症の人にとってそれはデメリットにしかならない。

新しい記憶を保持できない認知症の人はそのとき、「知らない人がいったい何を言っているのか」・「誰かわからない人が、気安く人を馬鹿にしたような声をかけてくる」・「いったい何を言っているんだ。怪しいぞ。」という気持ちにしかならない。

だからそのような声掛けは、気分を害して混乱を生じさせ、行動・心理症状(BPSD)につながるきっかけを作ってしまうことになる恐れがあるのだ。

認知症の人を試すような声掛けは、忘れてしまったことをなじるようなものだ。勿論、本人は忘れた自覚もないので、場合によってはそれは馬鹿にした言葉にしか思えなくなるのは前述したとおりだ。

僕が総合施設長を務めていた特養や通所介護では、こうした声掛けは決して行わないように指導していた。

しかし職場でそんなルールを決めなくとも、認知症とはどういう症状なのか、記憶障害とはどのように生ずるのかという基本を理解して、認知症の人の記憶を確かめようとすることの無駄と、デメリットに気づく人になってほしいと思う。そのために、「日々の学び」は必要不可欠である。

福沢諭吉の残した言葉に、「学べばすすむ」という言葉があるが、人という存在は、「学ばねば進まない」のではなく、「学ばねば後退する」ものなのだ。介護のプロである以上それは許されないことだ。

認知症の基礎知識をしっかり身に着けて、そこに人に対する興味と、人に寄せる人間愛というエッセンスを十分に盛り込んで、温かな手を専門知識の上に乗せて差し伸べてほしい。
5/21室蘭市高砂町の八重桜並木
今、登別では八重桜が満開の花を咲かせ、一部の木はその花びらを散らし、桜並木には、咲き誇る花の下に桜の絨毯が伸びている。(※画像は登別市美園町の、今朝7時頃の桜並木

認知症の人は、この桜並木を見て美しいと思うことができるが、その美しいと感じた記憶を保持できない人が多い。しかし記憶は保持できなくとも、そこでその瞬間に美しく咲き誇る桜を見て感動することには意味がある。

嬉しい・楽しいという感情の記憶は、海馬を通さず小脳に残るので、人の顔や名前を記憶できない人も、嬉しかった、楽しかった、辛かったという記憶は残り、積み重なっていくからである。

だからこそ・・・どうぞ認知症に人を試す人にならないでください。そして・・・どうぞ認知症が、その瞬間瞬間を豊かに過ごすことができるように、その人と共に歩む人になってください。
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