制度改正・報酬改定は、地域包括ケアの更なる推進を目指して行われている。
その目指すものの一つに、『認知症になっても尊厳が護られて、住み慣れた地域で必要なサービスが切れ目なく提供される仕組み』をつくるというものがある。
そうした地域社会を実現するためには、サービスを提供する側に認知症とは何かという基礎知識や、認知症になった人にはどのような対応が求められるのかという専門知識と援助技術が求められる。そのための教育は最も重要になると言っても過言ではない。
そのため2021年度基準改正として省令改正が行われ、新年度以降3年間の経過措置を設けたうえで、介護サービス事業者の介護に直接携わる職員のうち、医療・福祉関係の資格を有さない者について、認知症介護基礎研修を受講させる義務を課した。(※ただし新たに採用した無資格の介護職員については、採用後1年以内に研修受講しなければならない。)
あらためて研修を受けなくともよい法定資格の対象は以下の通りである。
看護師、准看護師、介護福祉士、介護支援専門員、実務者研修修了者、介護職員初任者研修修了者、生活援助従事者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、訪問介護員養成研修1級課程・2級課程修了者、社会福祉士、医師、歯科医師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、精神保健福祉士、管理栄養士、栄養士、あん摩マッサージ師、はり師、きゅう師
このことについてQ&A vol.3(2021.3.26発出)では、上記の法定資格取得者以外の受講義務について、次のように告知している。
・認知症介護実践者研修、認知症介護実践リーダー研修、認知症介護指導者研修等の認知症の介護等に係る研修を修了した者については、義務づけの対象外
・介護福祉士養成施設を卒業したが、介護福祉士の資格を有していないものについては、卒業証明書及び履修科目証明書により、事業所及び自治体が認知症に係る科目を受講していることが確認できることを条件として対象外とする
・福祉系高校の卒業者については、認知症に係る教育内容が必修となっているため、卒業証明書により単に卒業が証明できれば対象外とする
・認知症サポーター等養成講座修了者は、義務付けの対象外とはならない。
・人員配置基準上、従業者の員数として算定される従業者以外の者や、直接介護に携わる可能性がない者については、義務付けの対象外である
またこの研修はeラーニングによるオンライン受講で完結できるようにするとしているが、外国人の介護職員が増えていることから、フィリピン、インドネシア、モンゴル、ネパール、カンボジア、ベトナム、中国、タイ、ミャンマーの言語を基本として、外国人介護職員向けのeラーニング補助教材を作成することもQ&A vol.3の中で明らかにしている。
この研修受講義務によって介護関係者の認知症の知識レベルが上がり、それは即ち認知症の方々への対応スキルの向上につながるという期待の声がある。介護給付費分科会でも、認知症関連団体の代表委員などが、そのような期待の声とともに、この義務規定の新設に感謝の声が挙がっていた。
しかし本当にこの省令改正が、それらの期待の声に方える結果を得られるだろうか?
介護職員の学びの機会を創ることにいちゃもんをつけるつもりはないが、この研修の中身が明らかになるにつれ、そうしたスキルアップの期待については、日の日に疑問符が増すばかりである。
なぜなら現行の認知症基礎研修は6時間のプログラムであるが、今回義務付けた研修については、その時間をさらに短縮して、2時間程度で受講できるようにするからだ。現在国はその再プログラミングのための作業を行っている最中だ。
介護の場で働く人が受講しやすいように時間短縮を図るということの理解はできるが、既に介護事業者で何年も実務に就いている人が、改めて認知症介護基礎研修として2時間程度の講義をオンラインで受けたからと言って何か意味があるだろうか・・・。
そもそも介護事業者では運営基準に沿って、職場内で様々な研修機会を設けているはずである。そこでは必ず認知症をテーマにした研修も行われているはずで、認知症の理解に関する研修を全く受けていない職員はほとんどいないだろうし、認知症が原因となっている行動・心理症状(BPSD)への対処法もほとんどの介護職員は学んでいるはずだ。
そしてありきたりの講義で学んだ対処法が通じないケースの方が多いことも、実地業務の中で思い知らされているはずである。
そういう人たちにとって、現行の認知症介護基礎研修をさらに2時間に内容を凝縮させた(というより単に時間を削ったと言った方が正解だろう)講義を受講してどのような効果が期待できるるというのだろうか。
どうせ時間を割いて受講しなければならない講義であるのなら、実践論を凝縮して、実務に生かすことができる方法論を講義すべきである。例えば僕の認知症の理解に関する講演なら、2時間でも実務に生かせる方法を盛り込んで、役に立つ研修にできるのだがと思ったりするが、国がプログラニングする講義に、それを期待する方が無理というものだろう。
それはほとんど無意味な講義であり、仕事を終えた後、疲れて体を休めるために、2時間座って、場合によっては眠りながら受講するだけの意味のない儀礼的な研修になってしまうのが落ちだろう。
そういう意味では、この研修受講義務を盛り込んだ運営基準改正は、認知症の人たちが住みやすい地域をつくるために、国として介護に直接携わる職員の資質向上を図っているというアリバイ作りにしかなっていない。
ということで改めてこの研修を受講する皆さんには、e-ランニングで講義を受ける時間は、体をゆっくり休める時間だと割り切って、居眠りを気づかれないようにうまく時間を過ごしてほしいと思う・・・。
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