訪問介護崩壊の序曲が聴こえるより続く)
地域包括ケアシステムは、住み慣れた地域(自宅等)で住民が暮らし続けられるために、医療・介護・福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で提供される仕組みのことを言う。

暮らしの場は、「自宅」とは限らず、心身の状態に応じて住み替えが必要となる人にとっては、サ高住等も住み慣れた地域における暮らしの場である。そうした様々な居所での暮らしを支えるためには、訪問介護はその基盤となるサービスと言ってよいはずだ。

しかし昨日の記事で指摘したとおり、国は報酬改定で訪問介護費をバッサリと切り捨てている。それは何故なのだろう。

今後、人件費アップがままならずにヘルパーが集められない訪問介護事業所の廃業が相次いだとしたら、それは地域包括ケアシステムの崩壊につながらないのだろうか。国はそのことをどう考えているのだろうか。

現役のヘルパーは高齢化が進行している。下記は2年前に厚労省が公表した現役ヘルパーの年齢構成を図にしたものであるが、それよりさらに高齢化は進行し、現役を引退するヘルパーが今後続出する。しかし若い世代はヘルパーにならないのだ。
訪問介護員年代別分布図
だからヘルパーがいなくなって経営できなくなる訪問介護事業所は増えることになる。事業経営者に事業継続意欲があり、経営資金があったとしても、ヘルパーがいなくなるのだから事業が続けられないという事業所も続々と出現してくる。しかしそんなことは国も承知していることだろう。それなのになぜ人件費を上げられるように訪問介護費を上げないのだろう。それには当然理由があるはずだ。

若者がヘルパーを敬遠する理由は給与だけの問題ではない。密室化する利用者宅でサービスを展開する訪問介護は、セクハラやパワハラが起こりやすく、若い女性から敬遠されがちな仕事でもある。家事を含めた多様なサービスを決められた時間で卒なくこなしながら、利用者と良好な関係を築かねばならない点では、人生経験が大きくものをいう場面も多い。そのために若者がヘルパー職に就いてくれないという状況は、多少訪問介護費を上げても大幅な改善が難しいのである。

だから貴重なプラス改定財源を、自然消滅に向かう訪問介護にはさほど多く回さずに、おざなりなプラス改定としたという意味が一つ・・・。

それとともに国は不必要な訪問介護サービスが数多く存在していると考えており、その影響も否定できない。

平成30年度の改定で、生活援助の訪問回数が多い利用者等のケアプランの検証の仕組みを導入したのに加え、今回の改定では区分支給限度基準額の利用割合が高く、かつ訪問介護が利用サービスの大部分を占めるケアプランを作成する居宅介護支援事業所を事業所単位で抽出するなどの点検・検証の仕組みが導入されることになった。

やり玉に挙がっているのはすべて訪問介護なのである。このように不適切サービスが横行していると国が疑っている訪問介護費については、その適正化が先の話で、報酬アップはサービスの適正化が行われた後に行うという考え方が強いのかもしれない。

さらに制度改正・報酬改定の度にやり玉にあがる軽介護者の生活援助の問題がある。果たしてそれは保険給付してよいサービスと言えるのかという議論が繰り返されているが、いざ給付除外を議論すると反対論も根強い。しかし将来的には軽介護者の生活援助は給付除外していかねばならないと国は考えていると思える。

そうなると報酬単価が厳しければ厳しいほど、その中でヘルパーを何とか確保して営業を続ける訪問介護事業所は、必然的に生活援助に重点を置いては厳しい経営になるため、身体介護サービスにシフトしていくことになる。この状況が軽介護者の生活援助のケアプランの適正化と相まって、徐々に軽度者の生活援助のみのサービスは減っていくのではないかという期待もあるのではないか。そのことが将来の生活援助の完全給付除外にたどり着くという見込みも持っているだろう。

どちらにしても国は、訪問介護事業所が減っていく中で、地域包括ケアシステムという地域丸投げの仕組みを機能させて、地域の高齢者を支える新たな仕組みをつくろうとしており、訪問介護というサービスを護るという視点は2の次、3の次なのだと思う。

当然代替サービスは必要なわけだが、そのサービスの最たるものとして国は、「小規模多機能型居宅介護」を考えているものと思う。

他国のどこにもモデルがない小規模多機能型居宅介護は、厚労省が考え出して誕生させた我が国オリジナルサービスである。そして厚労省老健局の誰しもが、小規模多機能型居宅介護のサービスは優れたソフトであると評価している。だからこのサービスを護りたいし、その数をもっと増やしたいと考えているのである。その延長線上に、訪問介護が足りない地域で、それに替わって小規模多機能型居宅介護が増えればよいとする考え方があってもおかしくない。

特に財源論から今後は、出来高報酬システムより、月額定額サービスに各サービスを移行させるという考え方が厚労省内部にはある。今回も夜間対応型訪問介護の基本報酬からでき高を外して、完全定額制としたことでもその考え方は表面化している。(※そのほか療養通所介護も月額定額性に移行したし、通所リハビリでは実現はしなかったものの、月額定額性と出来高報酬制の選択報酬という議論も行われた)

すると出来高報酬の訪問介護が減って、月額定額性の小規模多機能型居宅介護が増えていくのは、その方向性ともマッチしてくることになる。

ではその小規模多機能型居宅介護の報酬改定はどうなっているか、今後の経営課題は何かなどについては、明日開設することにしようと思う。(小規模多機能居宅介護の経営戦略に続く)
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