認知症の人の中には、自分が年を取ったという記憶をなくしてしまっている人がいる。

そういう人は鏡に映った自分の年老いた姿を見ても、それが自分だとは認識できずに、鏡に映った自分を見てそこに知らない誰かがいると思い込む。そして鏡に向かって、「お前は誰だ」とか、「人の家になぜ勝手に入ってきてるんだ」と怒ったり攻撃的になったりする人も多い。

当然その姿は鏡に映っているのだから、目の前にいる自分の知らない誰かが、自分を攻撃しようとしていると思って、鏡にものをぶつけて壊してしまう人もいる。こうした事例は決して少なくなく、僕は過去にそういう人の住む家の鏡や、グループホームの鏡を幕で覆って、必要な時以外鏡を使わないようにして、こうした行動・心理症状を防いだ経験を数多く持っている。

どちらにしても、年を取ったという記憶をすっぽりと失ってしまって、実年齢より若いと思い込んでいる認知症の人はたくさん居られるのは事実だ。

その中には子供の頃に戻っているかのような言動をとる人がいる。いわゆる子供返り・幼児化という現象である。

そのような症状を呈する人に対して、介護従事者はどのように接すべきだろうか。相手が子供に返っており、自分は小さな子供だと思っているのだから、介護支援の場でも、介護従事者がその気持ちを尊重して、子供に相対するように接するべきなのだろうか・・・。果たしてそれは、受容というべき態度なのだろうか。

僕はそうは思わない。

そんな考え方は間違っているし、それは人の心を受容する態度ではなく、相手の状態を深く理解しないまま、自分の狭い価値観や低い見識によって思い込んだ、間違った価値観による不適切な態度だと思う。

以前にも認知症の記憶について何度かこのブログに書いているが、「感情の記憶は認知症の人にも残ります」でも指摘しているように、認知症の人であっても、かなり晩期まで失われない記憶があり、何かの拍子にその記憶がよみがえってきたりする。特に感情の記憶や手続き記憶は残っているのである。

子供返りしている認知症の人であっても、子供そのものになっているわけではなく、自分が生きてきた記憶の中の子供のイメージに返ってしまっているだけであり、そのイメージの中には、自分が大人になった後に、子供に対して抱いた感情も大きく左右しているのである。

そもそも子供返りしている人に対しても、きちんとした丁寧な言葉かけをして問題が生ずるわけではない。幼児言葉で話しかけないと不穏になることなどほとんどあり得ないことだ。

先日書いた、「丁寧語は使い分ける必要がない」でも指摘した通り、節度ある丁寧な言葉遣いは、相手や場所を選ばずに使うことができ言葉であり、そうした言葉遣いをはじめとした、マナーに徹した対応を行うことによって、認知症の人の行動・心理症状は改善するのである。

今では幼児・児童教育の現場でも、教育者が命令調の言葉や幼児言葉を使わずに、正しい丁寧な日本語で幼児や児童に接しようという考え方が徐々に浸透してきている今日、幼児そのものではなく、大人であり、人生の先輩である高齢者に向かいあう介護サービスの場で、専門職と言われる介護従事者が、「幼児に話しかけるような言葉遣い」しかできないのは、介護の貧困さを表すものでしかない。

大人に向かって幼児に話しかけるような言葉遣いしかできない介護従事者のその低能ぶりは、介護業界の恥の象徴でしかない。

介護を必要とする認知症の人の背中には、その人の歩んできた人生が背負われているのだ。その背中を見つめて愛おしく思っている家族も存在するのだ。

そうした方々すべてが、私たちの介護支援を受けてよかったと思うことができる介護サービスでなければならない。

自分の親が、認知症になって子供返りしているかのような言動をとるからと言って、日常支援に従事する介護職員までが、自分の親をまるで子供であるかのように扱うと言って泣いている家族が何千人・何万人いると思っているのか・・・。

そうした恥ずべき対応をなくしていかねば、介護の仕事は誰にでもできる仕事と思われ続け、時に必要悪なんて罵声を受けたりすることがなくならないのだ。

もっと誇り高い仕事を目指してほしい。もっと人を人として敬い、愛おしく思ってほしい。

だからこそもっと勉強してほしい。無知は罪なのだ。

認知症の研修の必要性が高まっているが、講師もきちんと選ぶべきだ。認知症の人に対する本物の介護実務論を語ることができる人でなければ、研修を受けても何も変わらないのである。

そういう意味では今回の介護報酬改定・基準改正の中で、法定資格のない介護職員に義務付けられた認知症介護基礎研修の受講義務も、今の内容のままである限り、介護の質を引き上げる効果にはつながらないと指摘しておきたい。
無題
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