介護報酬改定議論は最終盤を迎えつつある。そこから見えてきた施設サービスの方向性は、介護職員の業務負担増加が確実視されるものだ。
すべての施設サービスと通所サービスは、CHASE(チェイス)への情報提供が報酬評価となることが確実になっている。
CHASEは、高齢者の状態やケアの内容など幅広い情報を蓄積して、「科学的介護」の基盤となるデータベースである。すでに来年4月からは、通所リハビリなどのリハビリ情報に特化した「VISIT」と一体的に本格運用されることが決まっていたが、VISIT以外の情報にも範囲を広げ、施設・通所全サービスを対象にするというものである。
報酬評価の形は新設加算ではなく、既存加算の新区分として繁栄するとのことで、11/5の同分科会では、個別機能訓練加算や口腔衛生管理加算、栄養マネジメント加算などを対象に新区分を設ける案が示されていた。
しかし昨日の介護給付費分科会資料では、『サービス提供体制強化加算が、質の高い介護サービスの提供を目指すものであることを踏まえ、施設サービスや入所系サービスにおいては、サービスの質の向上につながる取組の実施(ICTやロボットの活用、介護助手等の元気高齢者の活躍、CHASE等への参加、多床室でのポータブルトイレの不使用など)を算定に当たっての要件とすることを検討してはどうか。』という形で、サービス提供体制強化加算の上位区分という考え方が示されている。
CHASEへのデータ送信は、事務職員によって行われるだろが、データは介護の場の実務上の数値が求められるので、介護職員等には情報を集めて事務担当者に伝えるという作業が加わることになる。それは大した業務ではないなんて言える人は誰もいないだろう。今現在だって、施設の介護職員はフルスロットルで業務を回している状態なのに、これ以上どうすればよいのだろうと戸惑う人が多くなるのではないだろうか。
次に介護人材不足への対応として、特養においては入所者の処遇に支障がないことを条件に次の兼務が認められる。
・従来型とユニット型を併設する場合における介護・看護職員
・広域型特養と併設する小規模多機能型居宅介護における管理者・介護職員
・本体施設が特養である場合のサテライト型居住施設における生活相談員
さらに地域密着型特養(サテライト型を除く。)については栄養士を置かないことを認める方針だ。
介護施設すべてと短期入所生活介護の個室ユニット型施設については、1ユニットの定員を現行の「おおむね10人以下」から15名程度以内に緩和し、ユニットリーダーについて原則常勤を維持しつつ、出産・育児などやむを得ない場合については、一時的に非常勤職員で代替することを認めるとともに、本人が復帰した際は短時間勤務を認めることとしている。
このように現在と同じ配置人員で、対応する利用者数が5人程度増えるのだから、その分職員負担は増すことになる。さらに時短職員を認めるということは、それ以外の職員の業務負担が増えることにもつながることも覚悟しなければならない。
また特養と老健の、「排せつ支援加算」については、取組を促進する観点から、毎月算定できるようにすべきという考え方に加えて、現在はプロセスを評価する加算であり、結果的に排泄動作の改善がなくとも算定できる加算であるが、これに加えて、おむつから卒業しトイレで排せつできるというアウトカムを評価するという考え方も示され、上位算定区分がつくられる可能性がある。
しかしその考え方は、「おむつはずし加算に隠された陰謀」で指摘した、、介護報酬から『オムツ代』を除外して自己負担化し、給付費を下げるという考え方に先祖返りさせようとするものである。関係者はこのことに十分注意して、監視し続けなければならない。
介護ロボット、ICT等のテクノロジーの活用により介護サービスの質の向上及び業務効率化を推進していく観点から、平成30年度介護報酬改定で導入された見守り機器を導入した場合の夜勤職員配置加算や、夜間における人員配置について、さらなる見直しが進められることも、業務負担の増加に結び付くと思われる。
夜勤職員配置加算は、1 日平均夜勤職員数を算出するための延夜勤時間数が配置基準を1.0以上上回った場合に算定できる加算だが、見守りセンサーを対利用者比15%設置しておれば、配置基準を上回る延べ時間数が0.9以上となれば算定できることになっている。この15%のセンサー設置を10%に緩和することが決まっている。
さらに全ての入所者について見守りセンサーを導入した場合の新たな要件区分を設け、この場合は述べ勤務時間数が配置基準より0.5以上となれば算定できることとされる。下記がそれを示した表である。
この基準は特養のほか、介護老人保健施設、介護医療院及び認知症型共同生活介護についても拡大適用されることになる。
しかしこのブログで何度も指摘してきたが、センサーの反応で対応するのは夜勤職員である。機会が人に替わって対応してくれるわけではないのだ。そうであるにもかかわらず、センサーの設置で配置数の基準を下げることは即ち、実際に夜勤業務に就いている職員の労務負担増につながる問題で、この変更による過重労働が懸念されるところである。
これが生産性の向上であると言われても、現場の職員にとっては何の意味もないだけではなく、疲弊するだけである。テクノロジーを導入しても仕事はきつくなるばかりで、労働環境はさらに悪化するのではないだろうか・・・。
さらに次の見直しも通常勤務の職員にとっては頭の痛い問題となりかねない。
離職防止(定着促進)を図る観点から、人員配置基準が見直され以下の取扱いが可能になる。
1.「常勤換算方法」の計算に当たり、育児・介護休業法による短時間勤務制度等を利用する場合、32時間を下回る場合でも常勤換算での計算上も1と扱うことを可能とする。
2.「常勤」の計算にあたり、育児の短時間勤務制度に加え、介護の短時間勤務制度等を利用した場合に、30時間以上の勤務で常勤として扱うことを可能とする。
3.「常勤」での配置が、人員基準や報酬告示で求められる職種において、配置されている者が、産前産後休業や育児や介護休業等を利用した場合、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算で確保することを可能とする。
この方針は施設経営上は、時短勤務で配置基準を下回ることがないという点でメリットと認めるだろうが、職員には負担感が増すものだ。3はともかく、1と2についていえば、時短職員が常勤とみなされることで、介護の場で実務に就く職員が減ることにつながりかねず、時短勤務以外の職員負担は増すことにつながるからだ。
また運営基準の改正の中では、高齢者虐待防止の取組を強化する観点から、障害福祉サービスにおける対応を踏まえながら、介護保険サービスの各運営基準において、虐待防止委員会の設置、責任者の研修受講などの体制強化に関する規定が設けられる。
今まで設置していなかった委員会の設置と運営、義務研修の実施なども業務負担増につながっていくだろう。
報酬体系の簡素化という論点では、介護保険制度の創設時と比較すると、加算の種類は増加している状況にあり、訪問介護は3から20に、通所介護は5から24に、特養では8から55に、老健では8から54に増加している問題が取り上げられているが、それらは具体的にどう整理するのか明らかになっていない中で、新設加算や上位区分加算の創設がしきりに議論されている。
このように業務負担が増す施設サービスは、ますます重労働のわりに対価が低いというイメージが広がりかねない改定になっていることを懸念せざるを得ない。
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