昨日(10/30)、第31回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会がWeb会議で開かれ、そこに資料として、令和2年度介護事業経営実態調査結果の概要が提出された。(資料はこちら)
これは令和2年に調査した結果であって、決算年度は令和元年であり、平成30年度決算の収支差率との比較が表で示されている。それは以下の通りである。

このように居宅介護支援事業以外は、すべて黒字決算となっている。しかし令和元年度の収支差率が平成30年度収支差率よりプラスとなっているのは、「訪問入浴」・「訪問看護」・「特定施設入居者生活介護」・「福祉用具貸与」・「小規模多機能居宅介護」の5サービスのみで、他のサービスは収支差率が下がっている。
全サービスの平均収支差率は2.4%で、一昨年度の3.1%から0.7ポイント下がった。特に訪問介護や居宅介護支援、グループホーム、看護小規模多機能などの下げ幅が大きい。
収支差率が下がっている一番の要因は人件費の高騰だろう。介護人材不足の解消見込みがない中で、人手の確保のために給与等の待遇を改善しなければならないことに加えて、人材募集の広告費、派遣職員の確保のための紹介料の高騰などが収支率の悪化につながっている。
報道によるとこの数字について厚労省の担当者は、「事業所の収支は総じて悪化した。経営環境はより厳しくなっている」と見解を述べたとのことだ。
そうすると来年4月の介護報酬改定にとって、このデータはプラス改定の追い風になる可能性がある。コロナ禍は、令和元年の決算時には影響しておらず、今年度の決算時の収支差率は、さらに下がることが確実なのだから、この状況でのマイナス改定はあり得ないだろう。
むしろ現在開かれている国会では、首長答弁として介護人材確保に取り組むとの発言や、感染予防対策はさらに充実を図る旨の発言もあったのだから、その分が介護給付費に上乗せされる期待感は高まっている。
プラス改定の抵抗勢力としては、財務省のほか保険料支出が増える経済団体などが挙げられるが、そうした反対の声と、財源が潤沢ではない中で、どれほどの改定率になるかが注目されるところだ。その数字はあと50日程度後に示される。
それにしても、この調査の対象事業者はどのように抽出されているのだろう。
この調査は介護保険の全サービスが対象。3万超の事業所に昨年度の経営状況を尋ね、1万4376事業所から有効な回答を得ているそうである。しかし僕が特養の総合施設長を務めていた間に限って思い出しても、この調査の対象になって経営状況を尋ねられたことはない。
僕が施設長になったのは、その社会福祉法人が設立されて20年以上経って以降のことであるから、経営年数もそれだけ長く、職員の就業年数も長く、人件費率は7割近くに達していた。特養の収支差率が10%を超えていると批判されていた時代に、僕の法人ではとてもではないが、そのような高い収支差率は考えられず、こうした法人を何故調査対象に含めてくれないのかと思ったことがある。
調査対象が介護保険制度以後に事業を立ち上げた若い経営主体ばかりなら、自ずと収支差率は高くなってくるわけで、事業年数の均等化は、調査対象を選ぶ際の視点としてあるのかが疑問として残される。
しかしいったん示された数字はそれが独り歩きして、根拠の一つであるとされていくので、この数字をもとに介護報酬の改定率や、各サービス別の報酬単価が決定されていくことになる。今後の改定議論の動向に同行につながっていく数字として注目していく必要がある。
なお介護事業の中で唯一赤字決算で、昨年度の収支差率がマイナス1.6%となり、前年度(マイナス0.1%)から大幅に収支差率が悪化し、経営環境の厳しさが増していることが浮き彫りになった居宅介護支援費については、改めて来週中にその対策を含めた解説記事を書く予定なので、その時は参照願いたい。
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