介護報酬改定の論点の一つは、「介護人材の確保・介護現場の革新」である。
人材を確保するといっても、介護事業者で働く人の数を飛躍的に伸ばすことが出来る魔法はない。むしろ減り続ける生産年齢人口を考えると、今後も介護人材を確保することが難しい状況は続いていくと予測される。
そのため外国人が介護福祉士の資格を取ることによって、その人たちが実質的に日本に永住して、介護事業者で働き続けることができるような対策を講じたり、外国人実習生が介護事業者で働くことが出来る期間を延ばしたりして、日本人以外の労働力をより多く介護の場に張り付けようとしている。だがそれでも介護事業を支える働き手は充足しないというのが大方の見方だ。
そこで登場するのが、「介護現場の革新」である。何が革新なのかというと、人に替わるテクノロジーの導入がその意味であろうと思われる。
ロボットやセンサー、ICTなどの活用により、人手をかけずにできることを増やすことで、人手不足の解消を図ろうというものだ。それらの機器を導入することを条件に、配置基準を緩和(人員を減らす)という考え方も、その延長線上にあるものだ。
この考え方は国が示しているだけではなく、一部の介護事業経営者や職能団体も要望しているという経緯がある。
例えば介護報酬改定のために8月に行った関係団体ヒヤリングでは、日本グループホーム協会が、「見守り機器の導入やオンコールの緊急対応要員の確保などにより、入居者に支障がなく、安全が図られる場合には、事業所の状況に応じて柔軟に対応できるよう、2ユニットで1人の夜勤も認めて頂きたい」と要望している。
GHの夜勤配置基準は、ユニットごとに夜勤者1名の配置を求めているが、介護保険創設時には2ユニットの場合、「夜勤者1名+宿直者1名」で可とされていた。しかし長崎や札幌で相次いだGH火災で、夜勤時間帯に数多くの利用者が避難が出来ずに死亡した事故を受け、配置基準が今のように改正されたのである。
ところが昨今の人手不足を受けて、夜勤者の確保が難しくなり、事業を継続できないGHが増えていたり、夜勤配置のために日中の勤務人員が減り、その業務負担の増加がさらに募集に応募をかけても人が集まらない状況に拍車をかける結果になっていることに危機感を持つGH経営者が増えているのも事実だ。
そもそもGHのユニット利用者の上限は9名だから、一人の夜勤者で2ユニットを兼務しても、対応する人数は18名が最多人数である。それに比べて広域型の特養や老健施設の場合、夜勤者一人当たりの担当件数は20名程度が平均である。基準を緩和しても、夜勤者は特養等より少ない人数を担当するだけであり、その業務負担は介護施設と比べても過酷とは言えず、火災などの事故対応も、宿直者を加えることで複数職員での避難誘導が可能になるという点では、ユニットごとに夜勤配置を求めている現行基準と変わりないといえる。
よって日本グループホーム協会の要望は、決して検討に値しない要望とは言えないものだ。大いに議論される価値はあるだろう。
しかしながら、現実にGHで夜勤業務を行っている職員の考え方はまた別である。すべての利用者が、認知症という症状を持つ人であり、行動・心理症状のある人も多いGHを、他の介護施設と比較してもらっては困るという意見を持つ人もいるし、何より夜間時間帯に自分が担当してケアを行う利用者数が、現行の9人から一気に18人になることに不安を持つのは当然である。
そういう意味では、日本グループホーム協会は国に要望する前に、足元の会員施設の職員の意思統一を図る広報を行ったり、経営者側と職員の意見交換の場を作る必要があったのではないのだろうか。
なぜなら9日の介護給付費分科会では、多くの委員がGHの夜勤配置基準の緩和に対し、「既存の職員の負担が増す」・「サービスの質の低下につながる」・「利用者の安全を守る観点から緩和すべきでない」という反対意見が出され、それを知った現場職員の間からも、「その通りである」という意見が多数聴こえてくるからである。
GHの各論審議の場はこれで終了となると思われ、こうなるとGHの夜勤配置基準緩和は見送りの公算が高くなった。ただしケアマネ配置基準の緩和は実現しそうだ。
グループホームの計画作成担当者は、認知症介護実践者研修を修了したケアマネ配置が条件で、ユニットごとに計画担当者を置かねばならないが、複数ユニットの場合、ケアマネ資格のない計画担当者を、ケアマネ資格を持つ者が監督することで可としている。この基準を緩和し、ケアマネがすべてのユニットの計画担当者となり、ほかに計画担当者を置かなくて可とする緩和である。
少なくとも2ユニットのGHには、その緩和基準が適用されることになるだろう。基準が緩和されても、一人のケアマネが担当する計画者数は18人だから、これも施設や居宅介護支援事業所のケアマネジャーの担当件数と比較しても少ない件数で、過重負担とは言えないので、この改正は多くのGH関係者に歓迎されるものとなるのではないだろうか。
また全サービスに渡って適用される改正案としては、常勤配置を求められている職種の配置基準緩和も実現可能性が出てきた。
各サービスの管理者・介護施設のケアマネジャーや生活相談員、訪問介護のサービス提供責任者などは常勤配置が求められる職種だ。
これらに該当する職員が産休、育休を取る場合に、同じ資格を持つ複数の非常勤職員を常勤換算することにより、運営基準を満たしたと見なす特例の導入を俎上に載せられた。
果たしてそうした専門職等の休みに対応して、資格や能力を持つ非常勤職員を臨時に雇用できるかどうかは別問題として、現に働いている人に今以上の業務負担を背負わせることなく、配置基準を満たして運営する方法が多様化することは歓迎されることだろう。
一方で、今後議論されるであろう介護施設等の配置基準緩和は、介護職員に今以上の業務負担を強いる結果になる懸念が高い問題である。
一番実現に近い方向で議論されているのは、ユニット型施設の1ユニットの人数制限緩和である。現行10人程度とされている基準を、15人とする案が示されている。
さらに昼間については、ユニットごとに常時一人以上の介護職員又は看護職員を配置することとされている配置規定を緩和し、常時一人以上の介護職員又は看護職員を配置することを求めるユニット数を2ユニットまでにしようとしている。
そのことが認められると、職員の業務負担は大幅に増すことが予測され、現場で働く人たちの不安の声が高まっている。(参照:配置基準緩和に対するアンケート結果)
この影響で、介護施設で働こうとする人がますます減ってしまうのではないかという懸念の声も高まっている。そうなればその改正は、革新にも人材対策にもなるどころか、それに反した結果を生み出すだけの愚策になってしまう。
次の特養の報酬改定議論の最大の注目点は、そこになるのではないだろうか。
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