9/4に開催された第184回社会保障審議会介護給付費分科会から、次期報酬改定に向けた議論はいよいよ第2ラウンドに突入した。(参照:第1ラウンドを終えた介護報酬改定議論

そこでは早速、居宅介護支援におけるコロナ対応のICT活用特例の恒久化等が議題となった。これだけリモート会議が普及したなかで、サービス担当者会議のリモート実施が否定される理由は何もない。これは恒久化されて当然だろうし、さして反論もないだろう。

問題は月1回のモニタリング訪問である。オンラインを通じて利用者の状況確認ができれば何も問題ないといえるが、そうではないという意見もある。オンラインでは家の中を確認できず、虐待等を見逃す恐れが指摘されるなどの反対意見が出されている。しかし訪問しても玄関口で対応するだけというケースも多いので、それと比してリモートモニタリングが著しい障害であるとは言い難い。是非モニタリングのリモート化も実施し、ケアマネジャーの業務負担軽減に結び付けてほしい。

ところで次期介護報酬改定を巡っては、関係者の間に感染予防費用などを上積みした基本報酬の引き上げの要望が強く、その実現可能性は高いとみる向きもあるようだ。

しかし4日の審議では、健保連や日経連の代表委員から報酬引き上げを強くけん制する意見が出されている。

基本報酬の引き上げは、40歳以上の保険料(2号被保険者の保険料)の引き上げに直結し、労使折半分の負担増を懸念した経済界からは、報酬をプラスする分はマイナスすべき分から補填する形で行うように要望が出されている。経済界としては何としても介護報酬アップを避けたいわけだ。

どちらにしても次期報酬改定では大幅な基本報酬の増加は期待できず、小幅な改定になると予測する向きが強くなっている。

そんな中で、「働き方改革」が、介護事業経営に大きな影響を与えている。

特に影響が大きいのは、「同一労働同一賃金」の義務化である。この義務化は大企業が2020年4月1日から、中小企業への適用は2021年4月1日からとなるが、介護事業者の場合、「常時使用の労働者数が100名を超える事業者」が大企業に該当し、すでにこの義務適用を受けている。規模は事業所単位ではなく法人単位で見るので、該当する介護事業者は結構多いだろう。

しかし大企業に該当し本年4月から、「同一労働同一賃金」にする義務がある事業者でなくとも、来年4月以降はこの義務を履行しなければならない。よって来年4月は、介護報酬が改定されると同時に、この義務適用が行われる事業者が多くなるのである。その備えは出来ているだろうか・・・。

この義務に違反しても法律上のペナルティはない。だからと言ってこの義務を果たさないと経営上の大きなリスクに結びつく。なぜなら法律上のペナルティと損害賠償義務は異なるからだ。

働き方改革で新たに生じた義務を履行しないことによって、非正規職員などに不合理な待遇を与え続けた場合、それを理由に労働者から訴えられたときには、事業者側の敗訴は間違いないだろう。その際は差額の支払いののみならず、差別された職員に対する精神的苦痛に対する賠償責任も生じ、高額な損害賠償金が発生するリスクが高いのである。

そうであるがゆえに、この義務をきちんと果たすために規定等を変更しておかねばならない。厚労省からこの取り組みに向けて、「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」が出されてるので参考にしてほしい。

正社員と同一の能力・経験を有する非正社員には能力・経験に応じた部分について同一の基本給を支給しなければならないが、それだけではこの義務は果たせない。

例えば正社員に退職金があるのに、長期間働いてきた非正社員には退職金が全くないことが「不合理な待遇差」とされた裁判例では、退職金のうちの少なくとも「功労報償」部分は支払わなくてはならないといった形で均衡待遇が求められた判例がある。平たく言えば、退職金を支払わなかった職員に対し、退職金を支払った職員に対する退職金の額から、掛け金を自己負担させた分を除いて事業者が負担して支払えと言う判例だ。これも今回の「同一労働同一賃金」義務において均等化することが求められるだろう。

賞与についても、会社の業績等への貢献に応じて支給するものについては、正社員と同一の貢献がある非正社員には貢献に応じた部分につき同一の支給をしなければならない。社員と準社員という身分差だけで賞与の支払い率などに差をつけてはならなくなる。この差の解消が必要になる。

福利厚生・教育訓練についても正規職員とそれ以外の職員に差を設けてはならなくなる。

僕が以前勤めていた社福では、正規職員だけ民間社会福祉事業職員共済会に加入していたが、そうした差別は許されなくなる。共済会に加入して会員としての福利厚生を受けるならば、非正規職員等もすべて加入させる義務が事業者側に生ずるわけだ。

このように少なくともフルタイムで働く非正規職員は、正規職員と同じ待遇への改善が必要とされるのである。

このあたりの規定の見直しもしなければならないが、どちらにしても一連の働き方改革による変更は、ほぼすべてにわたって事業者責任と支出の増加につながっている。介護報酬改定で基本報酬が多少引き上げられるとしても、働き方改革での支出が増える分を考えると事業収益は減る可能性が高いのである。

介護事業者は、正規労働者以外に非正規労働者を数多く抱えて、その待遇差で収益を挙げてきた小規模事業者が多いので、この問題は案外深刻である。

だからこそ経営努力はますます必要になると考えなければならず、特にランニングコストの削減努力は怠らないでほしい。(参照:介護事業のコスト削減は電気代とガス代の見直しから始まります

介護事業経営はこのような厳しい逆風にさらされているが、このブログで何度も指摘しているように、今後10年間を睨んでも介護市場には、介護サービスを利用する人の増加によって莫大な資金が流れ込むのである。そこで収益を挙げる方法はいくらでもあると言ってよい。要は時代の変化に合わせた柔軟な発想と、他の事業者とは差別化できる創意・工夫が求められているだけである。

そこで勝ち残る戦略をきちんと立て、経営基盤を強化することが、まさに今求められているということを忘れてはならない。少なくとも「働き方改革」に対応した規定変更もできない事業者であってはならないということを強く自覚する必要があるのだ。

なお6日(日)から、「介護施設等の人員配置基準緩和(削減)に関するアンケート」を行っている。その結果はこちらからも見ることができ、すでに多くの方々の協力を得ているが、引き続き介護実務に携わる人の生々しい声を集めたいと思っているので、投票がお済でない方は是非協力をお願いしたい。
リスクのない方法で固定費を削減して介護事業の安定経営につなげたい方は、電子ブレーカーで電力料金を賢くコストカットしませんか?をクリックしてください。
まずは無料見積もりでいくらコストダウンできるか確認しましょう。

登録から仕事の紹介、入職後のアフターフォローまで無料でサポート・厚労省許可の安心転職支援はこちらから。




※別ブログ
masaの血と骨と肉」と「masaの徒然草」もあります。お暇なときに覗きに来て下さい。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。

masaの最新刊看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。