僕が特養の生活指導員として就職した三十数年前、特養の利用者の方々は子だくさんの方が多かった。子供が5人も6人もおられる方というのは決して珍しいことではなかった。

しかし今現在、特養の利用者の方々も子供が3人いれば多い方だという状態になっているように思う。

そういう方々が長生きしていく過程で、一人か二人しかいない子供さんの方が先に亡くなられ、子供さんがいない状態で高齢期を過ごす人も増えている。

さらに核家族化の進行と少子化に加えて、故郷にとらわれずに、職場や生活圏域を広範囲に移動・選択できるグローバル社会になってきたことにより、親類縁者との関係性が希薄になっている人も多い。

戸籍上の親類縁者は存在していても、事実上孤独で身寄りのない人は確実に増えているのである。

さらに3.11から来年で10年を迎えるわが国では、あの震災と津波で家族を失い、縁故者も全くいなくなった人たちが、今後続々と身寄りのない高齢者となっていくのである・・・。

そういう意味では、国民一人一人が高齢期に、「ひとりで生きていくための準備」が求められる社会になっているし、介護支援専門員をはじめ介護関係者は、一人で生きる人の支援をより強く意識しなければならなくなってくる。

特養やその他の居住系施設(グループホーム・特定施設を含めた有料老人ホーム・サ高住等)では、それらの身寄りのない高齢者の方々の看取り介護も求められてくることになる。

そうした支援が必要な方々であっても、認知機能に障害がない状態で意思表示できる状態であれば、その意志に基づいて必要な準備を進めればよい。しかしすべての人が終末期まで認知機能が保たれる保証はないし、認知症とは無縁だった方がある日急に意思表示ができなくなることも考えておかねばならない。

だからこそ自分の意志で物事が決定できる段階で、終活の一環として人生会議を行い、終末期に向けた希望を確認しておくことは大事だ。特に意思決定できる段階から、任意後見人を定めておくことは重要な終活である。(※判断能力があるうちに、将来、自らの判断能力が低下した場合における財産管理や介護サービス締結等の療養看護に関する事務について、信頼できる方に依頼し、受任契約を結んでおく人を任意後見人という。)

そして介護支援専門員を含めた相談援助職は、それらの人が意思決定できない状態になった場合に備え、あるいは身寄りのない認知症の人を担当したときに備え、様々な準備をしておく必要がある。

例えば認知症になった人が、病気になって手術が必要になった際に誰が同意できるのか、同意の効力は法的にどれほどの有効性があるのか、成年後見人はその同意が可能なのかなどを学んでおく必要がある。(参照:医療機関が求める手術同意書。 ・ 家族と成年後見人の医療侵襲同意権について

成年後見人が専任されている身寄りのない認知症の人が、終末期と診断されて、施設で看取り介護を受けるかどうかの判断と同意が必要になったとしても、重大な医療行為については成年後見人であっても同意権はないと考えられており、延命治療を受けるか否かの同意は誰からも得ることはできない。

こうした場合には、本人にとって最善の利益となるのはどういう状態かという視点から、医師の裁量で医療行為を行うか否かを決定せざるを得ず、そのことに違法性はないと解される。

よってこうしたケースについては、医師が終末期と診断したうえで、終末期で治療の必要性がないので入院しないと判断することが第1段階である。そのうえで施設内で看取り介護に移行することが最善であるという理由で、施設で最期までケアする看取り介護計画を立て、それに対する同意を成年後見人から得るというふうに段階を進めることになる。

看取り介護計画の同意は、延命治療を受けるか否かの同意ではなく、単なる介護計画の同意であって、通常の施設サービス計画書の同意と同じで、成年後見人が同意権を行使できるのである。

ただしこうした一連の段階をどのように踏み、法的にそのことが許されるのかどうかという判断を、対象者が終末期になって慌てて確認するようなことになっては思わぬ齟齬が生じかねない。

だからこそそうなる前に、「人生会議」を行っていることが重要になる。人生会議という過程を何度も踏んで、施設関係者や成年後見人が医師の専門的判断や意見を聴きながら、利用者本人の推定意思に基づく最善の判断ができる下地を作っておくことが大事なのである。

在宅の方であれば、この過程で医療関係者と利用者を適切につなげる役割として、居宅介護支援事業所の介護支援専門員の働きかけが重要になってくる。そのために介護支援専門員は、適切な時期に終活支援を行うという考え方も必要である。

そのための知識を得ておくことも大事で、例えば終活の講師として活躍できる終活ガイド上級講座を受けておくこともお勧めだ。(参照:変化する意思に対応する終活支援のために、講師となり得るスキルが得られます

どちらにしても今後の地域社会では、あらゆる場所で身寄りのない高齢者支援が必要になってくるし、その中でも特に認知症で判断納能力のない単身者支援が大きな課題になってくる。

それに備えた関係者のスキルアップが求められてくるのは必然であり、相談援助職は今以上に守備範囲を広く取って、多くの人々に専門的な支援を行なえるように、知識と技術の向上の努力を惜しまないようにしていかねばならない。

そのことが制度の影に、光を届ける原動力となるだろう。
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