特養に入所している人の健康管理は、原則として特養に配置されている施設配置医師によって行われる。

だからと言って特養は医療機関ではないので、利用者に対する医療行為について特養が診療報酬を請求することは出来ない。そのため配置医師による利用者の医療処置が必要になる際の治療については、施設配置医師が所属する医療機関の外来診療扱いとして、医療機関から診療報酬を請求することになるわけだ。

よって医療機関に勤めていた医師が退職し、医療機関に籍がない状態であっても、医師という資格に基づいて特養の施設医師として配置されることに問題はないが、その際に利用者に必要な治療行為やその際の薬剤等について、診療報酬を請求する手立てがなくなってしまうため、実質医療機関に籍のない医師を施設配置医師とするケースはほとんどないのである。

利用者に対する治療を行った際に、外来扱いで診療報酬を請求するためのルールについては、「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」という医政局通知が各診療機関に向けて発出されている。

その最新のルールについては、「短期入所生活介護の診療に対する誤解をなくそう」という記事の中で解説しているが、特養利用者が医療機関を外来受診するなどして、施設配置医師以外の治療を受ける際には、「配置医師の専門外」・「配置医師の求め」・「緊急の場合」のいずれかに該当する必要があるという規定がある。これは短期入所生活介護についても同様に適用されるルールである。

よって自宅で暮らしていた際に、「かかりつけ医師」がいた方であっても、特養に入所する際には特養の配置医師が主治医となるために、原則として日常的な疾患管理のために、かかりつけ医師のいる医療機関に外来受診することは出来なくなるわけである。

だがそうしたルールを定めている医政局通知の強制力がどこまで、どれほど及ぶのかということになると、これはまた別の話である。

そもそもこの通知は医療機関に向けて発出されている通知であり、特養の関係者がその内容を知らなくても施設運営上の責任は生じない。自分の所属事業を利用している方々の医療にかかわるルールを知らないことについては、専門家としての責任感が低いのではないかという誹りは免れないとしても、法令上の罰則を受ける立場にはならないわけである。

よって特養に入所した人が、以前からのかかりつけ医師の診断しか信じないというような信者的患者で、家族もそれを望んで、利用者を定期的に特養入所前のかかりつけ医師の所属する医療機関の外来受診のために定期的に家族送迎で利用者を外出をさせようとする場合、それを完全に拒むことは難しい。勿論、この場合は特養に外来受診の送迎を行うという責任が課せられている部分は適用されず、送迎は家族等が行うことになる。

そもそも外来受診をすることを隠して、外出希望が出されたら拒みようがないわけである。その際に、「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」についてのルール違反を問われるのは、外来受診した医療機関側だけであり、特養が違反を問われることにはならない。

しかしこうした受診を行った結果、医療機関が診療報酬の支払いを拒まれたとか、保健所の運営指導を受けたというケースを僕は聴いたことがない。実質、それはチェック不可能で、医療機関に善処を求めることしかできないと言えるのではないだろうか。

さてこうした利用者等の強い希望によって施設配置医師以外の医療機関受診する行為とは別に、「セカンドオピニオン」の問題が今後クローズアップされてくる可能性がある。

セカンドオピニオンとは、患者が検査や治療を受けるに当たって主治医以外の医師に意見を求める行為を指す。この考え方は、主治医に「すべてを任せる」という従来の医師患者関係を脱して、複数の専門家の意見を聞くことで、より適した治療法を患者自身が選択していくべきと言う考え方に沿ったものである。

そうすると特養の利用者にもその権利は当然認められてしかるべきであり、施設配置医師ではない医師の意見を聞くために、他の医療機関を外来受診したいと希望する人は今後増えることが予測される。

特に人生会議(ACP)がの重要性が叫ばれる今日、自分の終末期の医療や介護の最善の在り方についてどのように考えるかという過程で、リビングウイルへの関心が高まることで、施設配置医師以外の医師によるセカンドオピニオンを求める人が増えてきてもおかしくはない。

看取り介護に関連して考えると、施設配置医師の終末期診断が正しいのかという確認のためのセカンドオピニオンニーズも増すだろう。回復不能の終末期と診断され、看取り介護に移行することを打診された対象者の家族が、本当に自分の身内が治療効果がなく、そのまま看取り介護とされて良いのだろうかというセカンドオピニオンを求めるケースがいつあってもおかしくないのではないのである。

こうしたセカンドオピニオンは、それを受ける権利が保障されなけれなならず、「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」の制限規定を縦に認めないという行為は、利用者の権利侵害として賠償請求などの対象行為となり得るので、十分な理解と注意が必要だ。

利用者やその家族がセカンドオピニオンを求めた場合は、同通知に言う「配置医師の専門外」・「配置医師の求め」に準する扱いとして認められると考えなければならない。

特養の相談援助職は、そうしたニーズへの支援も重要な役割になっていくことを自覚しなければならない。

同時にすべての介護関係者に新たな覚悟が求めらえることも自覚しなければならない。それは、「人生会議」という愛称が浸透し、アドバンス・ケア・プランニングの意識が国民全体に高まる先には、セカンドオピニオンはより重要な課題となり、介護関係者もそれを保証する役割が求められていくという覚悟である。
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