次期介護報酬改定議論が煮詰まってきている。

8/19の介護給付費分科会では、訪問介護の通院等乗降介助の見直しが検討された。(参照:第182回社会保障審議会介護給付費分科会資料

現在通院等乗降介助は、「自宅〜医療機関の間の送迎」しか認められていないが、病院間を移送するケース、あるいはデイサービス・ショートステイの事業所から直接病院へ移送するケースなどについて、新たに対象に含めるか否かが議論の俎上に上っている。

このルート拡大案は大いに認めるべきであろうと僕は思う。

医療がより専門的に分化されて提供されるようになった現代社会において、複数の疾患を持った高齢者が一つの医療機関の外来受診だけで慢性疾患を管理できるとは限らない。同じ内科でも循環器内科・消火器内科・呼吸器内科についてそれぞれ別の医療機関を受診している人は増えている。そのため病院受診する日に、複数の医療機関を掛け持ちで受診するというケースは高齢者の本来ニーズと言える。

しかし通院等乗降介助を利用する必要がある人の場合、現行ルールでは病院間の移動にそのサービスは利用できないため、一つの医療機関に受診した後、必要もないのに一旦自宅まで戻って、そこから他の医療機関に向かうなんていう無駄で滑稽な方法で通院等乗降介助を利用しているケースがある。ルールとは言え、これはあまりにも時間を無駄にする行為で、社会的な損失とさえ言えなくもない。

ショートやデイサービス利用後の受診も同じような指摘ができる。サービス利用日に機械的に病院受診するのは不適切ではないかという声もあるが、せっかく外出してサービスを受けている日に、そのサービスが終了した後に時間があって、近くに医療機関があるとしたら、その際に病院受診もついでに行いたいというのは決して不当な要求とは言えない。当たり前に考えてそれはニーズと考えられる。

一般の人がごく普通に行っている行為が、介護保険のルールによって制限を受けている実態があるとしたら、それは即ちバリアである。それを取っ払う勇気こそが、制度の光を世間にあまねく届けることにつながるのではないだろうか。

そういう意味でも、是非通院乗降介助の移動ルートの弾力的運用が行われるようになってほしい。その先にはもしかしたら訪問介護の生活援助や身体介護の、「居宅にて」・「居宅から」・「居宅まで」の原則も弾力化される方向につながっていくかもしれない。それは絶滅危惧サービスともいえる訪問介護事業者にとっても求められることではないのだろうか。

次に取り挙げたいのは居宅介護支援・予防介護支援の議論である。

次期介護報酬改定で注目点の一つに挙げられるのは、介護支援専門員の処遇改善である。しかし19日の分科会議論ではそのことは全く取り挙げられなかった。その理由は、現在議論されているのは各サービス種別ごとの各論であって、ケアマネ処遇改善については全体的な報酬体系構造の総論部分に関することなので、居宅介護支援費の議論ではないということだろう。ケアマネの処遇改善が実現するかどうかは不透明だが、この議論は別に必ず取り挙げられるので、ケアマネジャーの皆さんは注目しておいていただきたい。

さて19日の審議では、居宅介護支援の基本報酬の引き上げを求める声が続出した。

居宅介護支援の2018年度決算の利益率はマイナス0.1%である。ケアマネ1人あたりの利用者数が30人台の事業所、特定事業所加算の(II)以上を取っている事業所は黒字を出しているものの、全体でみると介護保険サービスで唯一のマイナスとなっている。このため厳しい経営状況にある事業所が少なくないこと、ケアマネのなり手が急減していることを基本報酬の引き上げ理由にあげる委員が多かった。

一方では要支援を対象とする介護予防支援のケアマネジメントをめぐり、来年4月の改定で報酬の引き上げなどを行うよう促す意見が複数の委員から出された。これは地域包括支援センターの業務が予防プランで忙殺され、他の業務に手が回らない状態が生じていることが背景になっており、その足かせの最大の理由が予防プラン作成費の低さが居宅介護支援事業所への予防プラン委託を阻害しているからであり、プラン委託推進するためには介護予防支援費(431単位)の引き上げと、予防プラン作成業務の簡素化が不可欠であると考えられているためだ。

しかしケアマネの処遇改善・居宅介護支援事業の基本報酬の引き上げ・予防プランの基本報酬の引き上げという3点がすべて実現するのだろうか?それはあまりに都合の良いことのように思え、どれかの引き上げが実現するとすれば、それはほかの要求の足かせにもなりかねないと思え、要望する職能団体は、その優先順位をもっと指し示すべきではないだろうか。

当日の資料を読むと、居宅介護支援・介護予防支援の論点としては、「地域包括支援センターについて、機能や体制の強化を図る観点」・「業務負担が大きいとされる介護予防ケアマネジメント業務について、外部委託を行いやすい環境の整備を進める観点」が示されているものの、居宅介護支援費の基本報酬の単価アップに直接結びつく文章は見当たらない。

さすればこの部分の改善は、予防支援事業の基本報酬をわずかにアップするだけにとどめ、居宅介護支援事業所は、基本単価が挙げられた予防プランを数多く受託して収益増・事業の黒字化を図れべしと誘導されかねないという懸念がぬぐえない。ここは職能団体の代表委員の手腕にかかってくる問題でもある。

他の論点としては感染予防対策に関連して、「ケアプランへの同意について、電子署名などの手段による代替を可能とする」・「介護支援専門員のモニタリング訪問、サービス担当者会議については、テレビ会議、ビジネスチャット等のICT活用による訪問等の代替」については、業務軽減策にもつながるので実現可能性が高いと思う。

しかしAIを利用したケアプラン作成事業所への新加算については、実績が出ていないことを考えると時期尚早ではないかと考える。

僕個人としては、前回の報酬改定で公正中立なケアマネジメントの確保、ケアマネジメントの質の向上の観点から取り入れられた、「一定回数を超えたの訪問介護(生活援助中心型)を位置付ける場合には、市町村にケアプランを届け出ること」としたルールの一連の要件や機能がどう働いているのか、機械的な回数制限につながっていないのかということについて検証していただきたいと願うのである。
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