介護職員の不足感が一段と強まっている。

介護労働安定センターが毎年実施している「介護労働実態調査」の昨年度の結果が8/7に公表されたが、全体の69.7%の事業所が介護職員不足であると回答しており、過去10年で最高の数字となっている。

不足感が最も高い職種は訪問介護員で、その数字は81.2%にものぼっている。訪問介護員は、高齢化してリタイヤする人が多い反面、若い人にとっては将来がなく魅力に欠けるために成り手がないという問題があり、そのサービス自体の存続が危ぶまれている。しかし解決の処方箋は見つかっていない。(参照:訪問介護員の絶滅を防ぐ手立てはあるのか?

本調査における不足感の数値を高めている最大の要因は、訪問介護員の成り手が急速に減っているということであることは間違いのないところだが、しかしその他の介護事業種別でも介護職員の充足は一番の課題で、それは介護事業経営を継続するための一番の戦略上の課題ともなっている。

この調査が10月に行われていることから、数字は特定処遇改善加算の算定前であるということで、新加算の影響で改善が期待できるかもしれないという声もある。しかし周囲の介護事業者の状況を見渡しても、新加算で劇的に職員募集の応募が増えたとか、待遇が改善されて将来の不安がなくなったというポジティブな声が全く聞こえてこないところを見ると、さほど期待ができないと思える。

介護職員が不足している原因では、90.0%が「採用が困難」と答えており、その理由を尋ねたところ、「同業他社との獲得競争が激しい(57.9%)」が最多となっている。つまりどこの事業所でも介護職員は足りておらず、人材確保の部分でも競合せざるを得ないという実情が表されていると言える。

職員の獲得競争に勝てない事業者は生き残ることができないのである。

我が国の昨年の死者数は137万8906人と過去最高となり高齢者の数も減っているが、それ以上に少子化で生産年齢人口の減少スピードの方が速くなっている。介護の絶対必要量も2040年あたりから減っていくと予測されるが、減ったサービスを支える人員さえも十分に確保できないほど生産年齢人口の減少は急である。そのため介護人材不足の解決の糸口さえ見えないというのが実状であり、日本全国すべての介護事業所の人材不足問題が解決する目途は立たない。

このように人材確保は国の施策に頼ってもどうにもならない問題であり、介護事業経営者や管理職が、「国や都道府県が何とかしてくれる」と思っている事業者は、早晩どうにもならなくなるのだ。介護事業を続けるための人材確保は他の事業者との差別化を図って、法人等単位で独自の解決策を図っていくしかない。

しかし介護事業は人に相対する職業であり、誰でもよいから雇ってできる職業でもない。人に相対するスキルのない人を雇って、まともな教育もしない状態で実務につかせるという、サービスの質を現場に丸投げしてしまう状態では、様々な不適切行為が生ずる可能性が高くなる。

例えば、感情のコントロールができない職員が増えて、暴言が飛び交う介護の場となったときに何が起こるだろう。介護サービスの場には様々な形で情報社会のコンテンツが入り込んでいる。それが人権意識の高まりと相まって、それまで見逃されていたかもしれない小さな不適切行為も、ネットを通じて表に出る社会となっていることを忘れてはならない。

年上の利用者に対して、荒い言葉で対応する職員の姿は、いつネット上にさらされることになってもおかしくないのである。そしてその姿が虐待だと糾弾されることになれば、そんな事業者にあえて就職しようとする人はいなくなるだろう。ますます職員募集に応募がなくなるのである。

介護事業経営者や管理職・指導担当者の中には、人がいないところに、やっと応募があって雇った職員に、あまり厳しいことを言っても辞められたら困ると言う人がいる。しかしまともな教育ができていない状態が、不適切行為をはびこばせる一番の要因なのだ。特にサービスマナー教育をしていない事業者が、虐待報道によって事業が続けられなくなっているケースが増えている。

そもそも対人援助の場で本当に必要とされる人材は、介護サービスを利用する人が邪険に扱われ、尊厳を奪われている職場になんか就職しないし、就職したとしてもそんなところに長くいようとはしない。介護スキルの高い人ほど人を傷つける扱いに対する嫌悪感は強いのだ。そういう人たちは、教育システムがしっかりしていて人権意識の高いサービス提供に努める事業者に集まる傾向にある。

人手不足だからサービスの質が落ちるのではなく、人手が不足すればサービスの質などどうでもよいと考える人しか集まらなくなり、そこからさらに有能な人材が逃げいく。そのような場所は永遠に人手不足が解消されずに、サービスの質はますます低下していき、やがて虐待が生まれ、そのいくつかが表に出て報道されているのである。

つまり不適切行為で事業継続の危機に陥ることを防ぐ対策と、有能な人材確保の対策はリンクするのである。利用者の尊厳を護る質の高いサービスを実現するための人材教育を行っている場所に、有能な人材は集まり定着するのである。そのことはいくつもの事業者で証明していることであり、新人教育としてOJTに入る前の基礎座学で一月を費やして、人材確保に困らなくなった社会福祉法人もある。こうした実効性のある教育システムを完成させる対策には、いくらお金をかけて良いのである。なぜならそのこと自体が法人の財産となるからだ。

一方で、募集広告費にお金をかけて採用人数を増やしても、まともな職員が定着しないのであれば、その広告費は無駄金・死に金である。嫌なことがあればほかの職場にすぐにでも変わってよいと考えがちな派遣職の採用にお金をかけるのも無駄金・死に金である。

お金の使い方を間違ったまま経営している法人は倒産予備軍である。

この違いをはっきり意識して、人材を確保し定着させるためにお金と知恵を使いたいものだ。では職員教育や定着の具体策とは何だろう。介護実務指導ができるOJTツールの内容は、どのような内容になっているかも具体的に示してみよう。(明日の中編に続く)
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