今週の月曜(8/3)に行われた第181回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)では、令和3年度(2021年度)介護報酬改定に向けて、事業者団体のヒアリングが行われた。(※資料はこちら

その中で、各種団体から見守りセンサーなどの介護ロボットやICTの導入を推進するインセンティブ措置を講じる意見と、それらの機器の活用を前提として、サービスごとに人員配置基準と資格要件を大幅に見直す要望が相次いだ。

つまり機器導入のインセンティブ報酬(新加算)と人員配置規準の緩和を求めたということだ。

この背景には、今後も十分なマンパワーの確保はますます難しくなっていくという共通認識があることは間違いのないところだ。

そしてその議論の中でも、「生産性」という言葉が飛び交い、これらの要望が介護の生産性を高めるという論理で、要望の正論化が図られようとしている。

しかしこれらの要望や意見がすべて介護現場を代表した声だと思ってもらっては困る。少なくともその声は、介護事業経営者の声であって、介護現場で汗する従業員の声を代表したものではない。

生産性を高めようとすれば従業員の意志は無視され、事業者の決め事から外れる労務はすべてカットされることは間違いないところだ。従業員は機械的に決められたスケジュールをこなす方法に誘導され、それによって利用者ニーズは切り捨てられていくことも明らかだ。そのことは、「生産性向上論の落とし穴」という記事に詳しく書いているので改めて参照していただきたい。

そもそも対人援助サービスの分野で、数値化できる形で生産性の向上を実現することはさほど難しくはない。そこでは利用者の、「こうしてほしい」という要望の声をできる限り無視して、最低限のサービスしか提供せず、従業員は分刻みで決められた作業労働をこなし、決められた時間で作業を終え、決して残業しないようにすればよいだけである。

その時に用いられるのが、「デマンド(希望)は、単なる利用者のわがままな望みでしかなく、ニーズ(必要性)ではない」という論理だ。ニーズとデマンドの境界の見極めは非常に難しいことを無視して、そうした冷たい論理で利用者のサービスを切り捨てていけばよいのである。

しかし労働時間が管理されて残業がないからと言って、従業員の仕事が楽になるわけではない。その分就業時間にびっしりと作業が詰め込まれるからだ。しかもこの部分について、さらに生産性を上げるために人手をより少なくするわけである。人が少なくなった部分を本当に機械が代替してくれるならよいが、そんな機械もロボットも存在しない。むしろ高性能なセンサーによって、人が呼び出される機会が増えて、対応しきれないという状況も生まれる。

管理的な分刻みの作業労働は、時として人の心を壊す例は、メッセージが経営していた、「アミーユ川崎幸町」の事件を見ても明らかだ。そのことについては僕とFBで繋がっているルポライターの中村 淳彦氏が、『川崎老人ホーム連続殺人犯の元同僚が証言「私が見た”闇”の実態」』という記事にしてネット配信しているので、そちらを参照してもらった方がよいだろう。

ここに書かれているように、「Sアミーユ川崎幸町」では、より少ない人数で合理的に運営する方針に基づいて職員の心身に過度な負荷をかけていたわけである。その時使っていたシステムとは、介護職の一日のスケジュールをコンピューターによって割り出し、分単位で介護労働を徹底するという、あの悪名高い「アクシストシステム」という管理システムである。

その結果アミーユ川崎幸町は、現在1審で死刑判決を受け控訴審で係争中の今井被告による一連の殺人事件と、中村氏のリポートに書かれているような虐待事件を引き起こし、親会社のメッセージは損保ジャパン日本興亜ホールディングスに事業を売り渡すことになった。そして全国展開されていた有料老人ホーム及びサ高住のアミーユは「SOMPOケア そんぽの家」に名称変更され、地に堕ちたアミーユブランドは消滅の憂き目にあわざるを得なかったわけである。

このようにアミーユ事件は即ち、生産性向上を目的にした対人援助がいかに危ういかということを示した失敗の典型であると言わざるを得ない。

今回の要望の結果は、アミーユの失敗を全国的に繰り広げることになりかねないのである。

人と同等か、それ以上の仕事をしてくれるロボットやセンサーが存在しない現状で、人員配置規準の緩和を強行すれば、介護サービスの場で働く職員は疲弊し、その負の影響はケアサービスの品質の低下となって現れるという結果にしかならないことは、「人員配置基準緩和で喜ぶ職員なんて存在しない」でも指摘している通りである。

全国の介護事業者で、日々利用者に寄り添いながら汗を流し続けている従業員の皆さんは、自分たちの声を代表すべき委員会出席者が、このような荒唐無稽の理論展開を行い、従業員の心身を疲弊させるような要望を行っていることを知らなければならない。

この要望が実現した先には、利用者の要望を無視して、嘆きや悲しみを振り切りながら仕事をし続けなければならなくなる自分の姿があることを想像しなければならない。

時間とスケジュールに追われ、心を壊していく自分の姿を想像しなければならないのである。

配置規準緩和の要望は、事業者の収益を上げる結果にはつながるかもしれないが、その反動は従業員の心身の疲弊と、アミーユ川崎幸町で起きたような心を壊した職員による暴言や暴力につながっていくのかもしれない。

なぜなら、わずかな加算とセットで人員配置基準が緩和されれば、配置基準がこうなったという理由だけで、従業員の労務負担が今以上に増えることを無視して、介護現場からの従業員数減らしが強行されるのからである。現場が廻らないから人をもっと雇ってくれという声は、今以上に上に届かなくなるからである。

介護事業者の従業員の皆さんは、自分たちを代表する委員が、介護給付費分科会という場で、こんな荒唐無稽で勝手なことを言っているのを、いつまで許しておくつもりなのだろうか。

どちらにしても闇雲に配置人員を削る結果は、従業員の労務負担増加と、心身の疲弊に結び付き、ケアサービスの品質低下に直結するのだから、そうした試みをしようとしている事業者に勤めている人は、一日も早く職場を替えたほうが良い。

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