昨日表の掲示板で速報を流したが、特別養護老人ホーム「あずみの里」(長野県安曇野市)で利用者の女性がドーナツを詰まらせ死亡した事故を巡る刑事裁判の控訴審判決が二十八日、東京高裁で言い渡され、罰金20万円とした一審判決を破棄、無罪を言い渡した。
判決骨子
この裁判については、「誤嚥死亡事故?で特養の准看護師に有罪判決の問題点」 ・ 「特養あずみの里裁判の控訴審について」という二つの記事を過去に書いており、有罪という判決は、介護の場で仕事をする人間に、あまりに過酷な注意義務と過度な責任を負わせるものではないかと批判してきた。

昨日の高裁判決はそれを覆すもので、この結果によって介護サービスの提供方法が個人の刑事責任を恐れて、過度の管理に傾くことの防波堤になるものと評価できるのではないだろうか。

それが証拠に、判決を受けて幾人かのか介護関係者から声を拾っているが、判決に安どしたという声ばかりである。

准看護師に20万円の罰金の支払いを命じる有罪判決が出された一審・長野地裁松本支部は、女性の死因はドーナツを詰まらせたことによる窒息と認定していた。この際に注視義務違反は認めなかったが、約1週間前に窒息防止などのため女性の間食をゼリー状のものに変更していたことなどから、間食の形態を確認して事故を防止すべき義務があったとして、求刑通り罰金20万円の有罪判決を言い渡したのである。

しかし間食をゼリーに変更した理由は、嚥下状態を問題にしたのではなく、おなかの具合から消化がよいゼリーにしただけであった。しかも死因は、窒息死ではなかったのではないかという疑いあり、控訴審では窒息死という病死認定がそもそも違っているのではないかと新証拠が提出されていた。

その新証拠はいずれも「脳梗塞説」を補強するものだったが、東京高裁は証拠採用をしなかった。これによって東京高裁の裁判官は、原審での鑑定に基づいて被害者の気道からドーナツが出てきた以上、窒息死説をひっくり返す気は全くなく、高裁判決も再度有罪が言い渡されるのではないかという憶測が飛び交っていたが、控訴審判決はその憶測をも覆す内容となった。

控訴審の争点は、「女性の死因は、ドーナツによる窒息か」、「ゼリーではなくドーナツを配ったことが過失と言える」という2点に絞られた。

このうち死因については判決理由の説明において、「起訴から5年以上経過しており、その検討に時間を費やすのは相当ではない」として判断を示さなかった。そのうえでドーナッツを配ったことに過失はないとしたのである。

つまり過失責任がそもそもなかったために、逆転無罪判決のために死因を特定する必要もなかったというのである。そのため死因が窒息死ではないという新証拠を採用する必要はなかったということで、先の憶測が取り越し苦労の結果ともなった。

判決文には今後の介護サービスの在り方に大きな影響を与える示唆が多々ある。

例えば食事やおやつについて判決では、「人の健康や身体活動を維持するためだけではなく、精神的な満足感や安らぎを得るために重要だ」と言及している。

これは食事提供について、身体への危険性が常に懸念される医療行為ほどの注意義務が求められるものではないとの見方を判示した考え方である。そのうえで被告がおやつの内容変更を確認せずドーナツを提供したことに刑事責任は問えないと結論づけたものであり、その意義は大きく、窒息の危険性を否定しきれないからといって食事の提供が禁じられるものではないとも言及したものである。

このように事故が起きずに生命を維持するためだけの、味気ない満足度に配慮のない食事提供であってはならないことに言及している意味は大きい。すべての介護の場が、すべての介護関係者が、この判決文を読んでその意味を理解してほしい。

またおやつの形態を変更した申し送りについて、被告となった准看護師が確認していなかった点については、「介護職員間の情報共有であり、日勤の看護業務を続ける中では容易に知り得なかった」として、過度な注意義務を准看護師に負わせなかった点も評価できる。

一審の有罪判決後に、おやつの提供を中止したり、固形物ではなくおやつはすべてゼリー状のものを提供するようにした施設が相次いだが、今回の判決により、そうした管理重視のおやつや食事の提供の在り方を見直す必要が生じたと言えるだろう。

この高裁判決をきっかけとして今一度、委縮した精神で考えられた介護サービスの在り方を見直して、本当に必要な介護サービスの在り方を考え直す必要があるのではないだろうか。

同時に食事だけではなく、移動・移乗介護中の転倒骨折事故などについても、過度な責任と注意義務を問うような判決を見直してほしい。例えば移乗介助を拒否した認知症のない人が、トイレの中で骨折した責任を、介助を拒否されトイレ内を見守ることができなかった介護職員に負わせるなんてことは過剰な責任追及だ。そのような責任の押し付けをなくしていかねばならない。

本来は必要不可欠なサービスが、事故を恐れる委縮した精神によて失われてしまうということがないようにしなければならないのである。

今望みたいのは、検察側が上告をあきらめることと、仮に上告審が行われることになっても、今回の判決が覆られないことである。それが世のため人のためである。
※8/7東京高検は本件の上告を断念したことを公表しました。これによって上告期限の8/11に被告の無罪が確定することになりました。:8月7日追記
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