対人援助に携わる人間にとって、「無差別平等」の精神を常に忘れないことは重要である。
私たちの差し伸べる手は差別なく、みなひとしなみに届けられなければならない。そうしなければいかなる行為も社会福祉にはならず、ただの欺瞞とわがままの行為にすり替わってしまう。
しかし皆が等しければそれですべてが許されるということにはならない。平等だけを目的化する欺瞞ほど、人を不幸にするものはないのだ。なぜならそこでは低き方向への均等化が意図される恐れが生まれ、人が良い状態や、幸福な状態にならなくとも、均等均一ならば良いというおかしな考えが生まれかねないからだ。
特に対人援助は、人の暮らしに関わる問題であり、平等の精神が単なる機会均等とすり替えられ、すべての人間が社会の底辺で息をひそめて生きていくような状態も、大多数がそうであれば許されるという誤解につながることを、何よりも恐れなければならないのである。
そのため社会福祉援助の領域では、無差別平等に人が幸福になるという方向が歴史的にも模索されてきており、今もそれは続いているという理解が必要とされるのだ。
こんなふうに私たちが求める平等とは、人がより良い状態で生きていくのにより必要な方向に実現化されるという視点が必要になる。そうした右上がりのベクトルをイメージしながら、無差別平等の精神を忘れないという戒めが必要だ。
ところがこの平等の精神や意味を、自分にとっての都合の良い理屈として悪用する人がいたりする。例えば昨日の記事でも話題にした兵庫県の井戸知事は、国が決めた慰労金の支給方法にいちゃもんをつけて、一旦は兵庫県では慰労金を支給しないと決めた経緯があり、そのことの批判を受けて記事に書いている会見につながった。
しかし井戸知事を支持する一部の関係者等からは、知事の考えや発言を擁護する声もある。その中には、「知事は、慰労金の支給対象は介護施設、障害者施設は含まれているが、児童福祉施設などの児童福祉分野が入っていないのは不公平であるという理由で、不支給や支給先限定という判断をしたもので、そこにはそれなりの理屈がある。」という意見がある。
しかしこれこそ、「悪平等」の典型で、支給されない分野があるのだから、支給されない方に横並びさせることが平等になり、不公平感を生まないという、権力者側の傲慢なる屁理屈でしかない。
児童福祉分野が慰労金支給の対象に入っていないことを不公平と考えるなら、国が予算化した慰労金をすべての対象者にくまなく配ったうえで、児童福祉分野にも同じような対策を求めていくというソーシャルアクションを起こすことこそ、すべての人が等しく良い暮らしを送ることができる道につながるのであって、低きに慣らすことを平等だと勘違いしてもらっては困るのである。
「介護職は何にもしていない」という問題発言に加えて、平等の精神を捻じ曲げて政治を行なおうとする点においても、井戸知事は政治家としての資質がないと烙印づけされてしかるべきである。
この悪平等は介護業界の至る所にはびこっているので注意が必要だ。特に処遇改善加算については、この加算によって給与改善されない職員と、改善される職員の両方が生ずることから、処遇改善されない職員の不公平感を慮るという理由で、加算算定せず給与改善しないという低い方向で横並びさせる事業者が存在する。
特定加算の場合も、医療機関と併設されている介護事業者の場合、医療機関に同様の加算がないことから、医療機関職員とのバランスが取れないとして、加算算定可能な介護事業者の職員が、それを算定支給されずに泣き寝入りの状態が続いているケースもみられる。
このように加算算定できるのに、あえて算定せず待遇改善を行っていない事業者は、まさに悪平等の屁理屈の渦に巻き込まれて方向性を見失っている事業者と言ってよく、それに気が付いていない状態で経営が続けられている場所に明るい未来はない。そうした職場に勤めている人は、一日も早く職場を替えたほうが良いだろう。信頼できる転職支援サイトなどを利用するのも一つの手である。
繰り返しになるが、平等とは単なる機会均等ではないのである。それは個によって異なる状況にも対応して判断や処理などが偏っていないことを云うのであって、要介護3で認知症があるという状態像の人が、等しく同じケアサービスを受けるということでもない。
認知症の人でも、症状やパーソナリティに違いがあるのだから、それに適応した最もふさわしケアサービスの方法を探して提供されるのだから、個々のサービス内容は違って当然である。
不平等な状態とは、ある人には最も適したサービスの方法を一生懸命に探してサービスに結び付けているのに、ある人にはそのような努力もせずに、漫然と画一的なサービスに終始してしまうことである。
対人援助という領域に関わる私たちはこの違いを常に意識して、人を幸せにしない悪平等を徹底的に排除するように、権力者の傲慢なる屁理屈と戦っていかねばならないのである。
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