8日の経済財政諮問会議で、政府は今年の「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の原案を提示した。
そこには、「人手不足に対応するとともに、対面以外の手段をできる限り活用する観点から、サービスの生産性向上に重点的に取り組む」と記されている。さらに見守りセンサーやインカム、ICT、ロボットなどの現場への導入について、「効果検証によるエビデンスを踏まえ、次期介護報酬改定で人員配置の見直しも含め後押しすることを検討する」と明記されてる。
その意味は、介護ロボットや見守りセンサーを導入した場合に人員配置規準を下げて、人手が少なくて済むようにするという意味だが、これで喜ぶ現場職員はいない。
アニメの宇宙戦艦ヤマトに登場するアナライザーのようなロボットが存在して、人に替わってロボットが介護業務をしてくれるのであれば人員を削減できるのだろう。しかし人と同等かそれ以上の仕事をしてくれるロボットやセンサーが存在しない現状でこの方針を強行すれば、介護サービスの場で働く職員は疲弊し、その負の影響はケアサービスの品質の低下となって現れるという結果にしかならない。
そういう意味では、ロボットや通信技術が人に替わることができるという妄想で、配置規準を下げたときに、一番被害を被るのは質の低下したサービスに甘んじねばならない利用者なのだと言えるわけである。
このことはこのブログで再三主張してきたが、ロボットやセンサー・ICTが人にとって代わることで、介護人材不足を補うことができるという幻想的主張が、国の会議で繰り返されているのだから、その反論となる主張も繰り返していかなければならないのだ。
配置規準などいじられる状況にないことは、介護施設の看護・介護職:利用者比が3:1であるにもかかわらず、多くの施設でその配置では職員の負担が多すぎて、2:1に限りなく近い配置をしたり、しようとしている現実を見れば明らかだ。3:1の配置基準自体が形骸化して、それ以上の職員配置が必要とされている中で、実用化されてもいない介護ロボットに頼る配置基準の引き下げができるかどうかという答えは明白なのだ。
要介護3以上の人がほとんどの施設で、自分自身が夜勤をすることを想像してみてほしい。今存在するあらゆる機器を備えた施設があったとして、それを理由にして今より一人少ない夜勤者で対応できるだろうか・・・。
現在介護施設の夜勤配置者基準では、利用者が100人の場合、4名の夜勤者が配置されておればよいことになっている。つまり一人平均25名の利用者の対応を、10時間を超える夜間勤務中にこなさねばならないのだ。
勤務時間が10時間を超えるからと言って、夜勤時間帯には利用者が眠っている時間が大半だから実労時間は少ないし問題ないだろうと考える人は、介護の現状を全く分かっていない人だ。
100人が暮らす施設であれば、夜勤時間帯にすべての人が眠っている時間などわずかであり、何らかの理由で誰かが起きており、その対応もせねばならないし、起きていない人の体位交換やおむつ交換といったルーチンワークも絶え間なく行う必要がある。そのため決められた仮眠時間さえ取れないことがあるのが夜勤の実態だ。その業務に対応する職員が対利用者比25:1なのである。
そこに高性能の見守りセンサーがいくら設置されたとしても、見守りセンサーは実際の介護をしてくれるわけではなく、人間に替わるアナライザーも存在しないのだ。そんな現状で、どこかの時間帯の夜勤職員を4人から3人に減らせるわけがないのである。減らしたとしたら、それは残り3名の夜勤者の業務負担が増えるだけの結果にしかならないのである。夜勤者はそこで体と心壊していくことだろう・・・。
勿論これらの主張は、介護ロボットや見守りセンサー・ICT等を介護サービスの場に導入することを否定するという意味ではない。それはもっと数多く導入すべきだし、導入した機器が人間の手助けになるように技術革新もすべきである。それは生産年齢人口がさらに減少し、介護人材の減少を防ぐ手立てとして決め手が見つからない対策の一つとしては重要だ。
だからこそ機器技術進歩のための研究助成金などにお金をかけることは否定しないし、一番進歩した機器を早急に介護サービスの場で使いこなせるように、導入補助を行うことは否定しない。
しかし同時に、介護職員を減らせるほど機器技術は進んでおらず、介護の場で実用化できるとされている介護ロボット・介護支援ロボットも、限られた場面でしかその機能を発揮できないという現実を知るべきでなのである。
開発した製品を早くたくさん売りたいメーカーの甘言に躍らされて、実際以上にその効果を高く考える政治家や官僚が多すぎるのだ。自分で介護ロボット等を使ったことがない人間が、メーカーの担当者の口車に乗って、ありもしない効果があると信じる有識者によって、介護事業者はバーチャルリアリティの中で仕事を強いられることになる。
そんな現実感に欠ける場所で口にされる、「効果検証によるエビデンス」など幻にしか過ぎず、そこでは空しい悔悟サービスが展開されざるを得ないのである。
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