1日に発出された介護保険最新情報のVol.854は、2017年8月から実施されていた高額介護サービス費の激変緩和措置が、今月いっぱいで終了することを告知する内容となっている。
介護保険制度改正によって、2017年8月から所得区分「一般」の月額上限額は、3万7200円から4万4400円へ引き上げられているが、向こう3年間に限った激変緩和措置として、年間の上限額を44万6400円(3万7200円×12カ月)と定め、対象世帯の負担額が実質増えないようにしていたものであるが、この上限が今月末で廃止される。
これによって所得区分一般に属する、「住民税が課税されている世帯で、現役並み所得の層に該当しない世帯」も年間の負担上限額が532.800円(44.400円×12ケ月)となるわけである。
もともと激変緩和措置は、所得が増えていないのに負担上限額を引き上げられる対象者からの強い不満の声に応えたものだが、この措置がなくなることで、国民の負担はさらに重くなる。特に対象世帯は、決して裕福でお金が余っているような世帯ではないので、ある意味自己負担割合が2割に増やされた世帯より、生活の困窮感は深くなるやもしれない。
それが政治家や官僚の痛みとセットであれば納得もいくというものだが、国民の痛みだけが増やされる現状は大いに非難されるべきである。他の国なら国民の暴動が起こりかねないほどの問題だと考えるのは僕だけではないだろう。
そんな中、介護保険サービスの利用者負担に関連して、認知症の人と家族の会が7/1付で、「新型コロナウイルス感染症に係る介護報酬の特例措置による サービス利用者への負担押し付けの撤回を求める緊急要請 」を国に提出した。
これは通所サービス事業所が、毎月一定の回数に限り実際にサービスを提供した時間の報酬より2区分上位の報酬を算定できる特例算定について、その撤回を求めた要望書である。
要請書の内容は、6/25の介護給付費分科会で同会の鎌田松代理事が、「利用していないサービスの分まで自己負担を支払わなければいけないのか? 区分支給限度基準額の変更もなく、サービスの利用回数を減らさざるを得なくなる」・「事業所の支援と利用者の負担は別にすべき。通所介護を存続させるために必要なら、国が公費を投入して減収分を補うべきだ」と主張した内容に沿ったものであり、感染対策にかかる経費等については補正予算の予備費を使い、公費で補填するよう求める内容となっている。
同分科会で厚労省は、「特例算定については、感染リスクを下げる観点から平時より多くの手間、時間、衛生用品などを使っている現場を十分に評価するため」だとし、「ご納得を頂いた方に限り特例を適用できるルールにした」と説明したが、納得を得られなかったようである。
この問題を複雑にしているのは、この特例算定は、「感染対策費用の補填」が主ではないというところにあるのだ。この本質がわかっていないから議論がかみあっていない。
感染対策としての衛生材料費だけならば、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(介護分)の(1) 介護サービス事業所・施設等における感染症対策支援事業 で補填できるわけである。
それに加えて特例算定を可能としているのは、この特例算定分は、通所介護事業者の自主的な休業や利用者減の収益減を補填するという意味合いが強いことになる。よって補助対象実態が数値にできにくいものなので経費計上が難しく、介護報酬を上位算定させて補填するという苦肉の策をとった結果である。
次期介護報酬改定が来春4月に迫っているが、コロナ禍が収まる見込みがない中で、報酬・基準上の特例措置のいくつかが、そこにも反映される期待が関係者の間に高まる中で、財政健全化の旗を降ろせない事情もあり、基本サービス費の引き上げは避けたいのが国の本音である。
そのような事情から言えば、一定の要件をクリアした場合に、既存の基本報酬の上位区分を算定する方式は、基本サービス費を上げなくて済むという意味でも、一定の条件下だけでしか報酬が上がらないという意味でも、国にとって都合がよい方法で、次の報酬改定に取り込みたい方法であると言える。だからそれを通所サービスにねじ込んでいるわけである。
しかしそれは利用者負担を伴う点が最大のネックで、今回の要望書に書かれているような利用者の不満の声が挙がるのは当然といえば当然である。また厚労省が、「ご納得を頂いた方に限り特例を適用できるルールにした」と説明している点は、だからこそ負担する人としない人に分かれることで不公平感がぬぐえないという批判と、負担増を納得させるような事業者による強制に近い恣意的誘導が疑われたりするわけである。
そうであればいっそのこと報酬区分の上位算定は良しとして、上位算定した部分と実際にサービス提供された区分の差額は区分支給限度額管理に含めず、利用者負担は実際にサービスを利用した区分に対してのみとすれば、利用者負担は増えず不満もなくなると思うのである。なぜそうしないのか大いに疑問である。
それにしても認知症の人と家族の会の鎌田松代理事の意見の一部に(25日の介護給付費分科会)、多くの利用者やケアマネジャーが特例算定に不満を持っているかのような部分があるが、それは事実と異なると言っておきたい。
表の掲示板の「通所サービス費の2区分上位報酬算定等の特例算定の是非議論は大歓迎」というスレッド議論にも書かれているが、きちんと説明責任を果たしているケースでは、利用者や担当ケアマネも十分理解を示して、積極的に負担増の同意をしてくれているのである。少なくともそうした合意の上で、この特例算定を行なった事業所が批判を受けることがあってはならない。
通所サービス事業所は、この特例算定を決して安易に算定しているわけではなく、思い悩みながら、しかし事業経営が危うくなることも利用者のデメリットであることを鑑み、利用者に真摯に説明責任を果たしたうえで、上位区分の算定に踏み切っているのである。
リンクを貼りつけたスレッドにコメントを寄せている方々は、決して利用者目線を忘れていないことが理解できると思う。そのことだけは間違って捉えてほしくない。
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