北海道は、高齢者介護施設で新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した場合に備え、施設事業者の間で介護職員を派遣し合う「助け合い制度」を導入する方針を固めた。

この「助け合い制度」とは、介護事業者間であらかじめ取り決めを交わし、感染などで施設職員が不足する際、必要な人員を直ちに送り込むものだ。

集団感染した施設に派遣された職員は、派遣終了後に2週間の経過観察が必要となるそうであるが、道は派遣元の事業者に対する休業補償のほか、施設内の感染対策の充実、施設職員に対する防護服の着脱方法の研修などの事業費等の関連事業費7.900万円を盛り込んだ、『2020年度一般会計補正予算案』を16日開会予定の定例道議会に提出する。

今回のコロナ禍で、4月〜5月にかけてクラスター感染が発生した札幌の老健施設では、感染症発生米前に介護職員40人・看護職員10人が勤務していたが、職員が感染したり、退職するなどで人員配置できる職員が激減し、看護師は配置ゼロとなり、札幌市から派遣された看護師ら計4人で対応し、介護士も通常の1/3を切る配置数となったそうである。

そのような状況の中で、医師や看護師に関しては広域に連携して派遣し合う仕組みがあるが、介護職員にはそうした制度がなかったために、新制度の導入が不可欠と判断したらしい。

助け合い制度」の具体的内容は、施設事業者による協議体を新たに組織し、事前に各事業者が派遣できる人数などを取りまとめておいたうえで、施設で集団感染が確認された際には、協議体や道が派遣の調整を行うというものである。このような制度の準備を進めている地域はあるが、運用している都府県はまだないらしい。

しかし本当にこのような制度が機能するのだろうか。

感染や退職で施設の介護職員などが不足した場合に備え、感染者が発生していない施設の介護職員を派遣することで、地域で必要な介護サービスを維持して、介護崩壊を防ごうとする狙いがあることは理解できる。そうした制度はあった方が良いことは間違いなく、制度自体にいちゃもんをつけるつもりはない。

しかし事は深刻である。ウイルスや菌という目に見えない敵との戦いであり、自分や家族にもリスクが生ずるという問題であるのだから、制度さえあればよいという問題ではない。人の心をどう動かすのかという問題を抜きにしては語れない問題なのである。

派遣と簡単に言うが、派遣命令は即ち、派遣される人の命の危険と同義語かもしれなくなるのである。派遣した職員が派遣先で感染し、命を落とした際に、派遣元の施設はどれだけ責任を負えるのだろうか。この部分を協定はどう定めるのかという大問題がある。

そもそも介護施設はどこも人手が足りていない。人材不足を通り越して人員不足に陥っている施設の職員を削って、他の施設に派遣する余裕があるのかと考えると、首をひねらざるを得ないという問題もある。

有事であるのだから、多少の人員不足は覚悟して職員を削ると判断したとしても、派遣される職員の人選をどうするのかという重大な問題が出てくる。

自分が働いている場に感染者が出た場合なら、自分の職場と利用者を護るために、頑張って業務を続けようと考える人は多いと思う。しかし自分が働いている場所に感染は発生していないにも関わらず、クラスター感染が発生して、感染者が毎日のように増えている場所に出かけて、自分の感染リスクが高まることを恐れない人がどれだけいるだろう。

自分はそこに派遣して人助けをすると考えても、家族がそのことに反対するケースは多くなるだろう。その反対を押し切ってまで自分の意志を通せるのだろうか。施設はそうした家族の反対の声にどう対応するのだろうか。

ましてや子供がまだ小さいとか、高齢の親と同居している人であれば、感染リスクが少しでもある場所では働きたくないと考えて当然だろう。

現にクラスター感染が発生した施設の職員の中には、自分の家庭に感染リスクを持ち込みたくないとして、通勤用の車中に泊まり込んで仕事に従事している人がたくさんいた。自分の職場での出来事なら、そうした不便も我慢ができたとしても、わざわざ他施設まで、そうした不便がかかることを承知して派遣されることを是とするだろうか・・・。

そのため、そのような場所に派遣されることを断る職員もいて当然だろうし、無理強いすれば退職してしまう人もいて当然いるだろう。

制度ができた際には、介護施設は協議体に参加し事前の取り決めを行って、有事の際の派遣人員等を登録することは施設経営者・管理者レベルでは危機管理上、参加登録は当然だと考えられるものと思える。

しかし参加する前に、職員に対し十分な説明が必要だ。クラスター感染発生時の、人員不足の際の助け合い制度ができたので、そこに参加登録し、いざという場合には職員派遣を行うこと。その際の人選はどうするかなど、具体的な説明を行わないと、制度あって実態なしということになりかねない。

いやそうした説明を行ったところで、この制度が機能するとは限らない。実際に自分の施設から職員を派遣しなければならない状態になった時に、それに応ずる職員がいないという状態も大いに考えられると思う。

だからこそ、こうした制度に頼る前に、感染症に対する知識をしっかり備え置く研修機会を定期的に持つことと、感染予防対策を日ごろから十分に行っていることがさらに重要になってくると思うのである。

マスクのみならず、介護用のゴーグルも通常装備しておくべきである。
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