新型コロナウイルスの感染状況がいったん小康状態になったことを受け、介護施設等の制限対応の緩和が進んでいる。
そのような中で、居宅サービス事業所の受付窓口や介護施設の共用スペースなどをシートで覆って、飛沫感染予防策をとっているケースがみられる。しかしここで注意してほしいことはシートの素材である。不燃性シートを使うなど防火対策をしないと、火災事故のリスクが高まってしまうことをご存じだろうか。
ビニールシートの多くは発火リスクの高い素材で燃えやすくなっており、白熱電球など熱源となる物から距離を取らない場所に張り付けると燃え上がる。そのような失火事故が増えないように十分に対策してほしい。くれぐれもその辺にあるビニールシートを使おうという安易な発想で終わらないようにしてほしい。
十分な感染予防対策をしたうえで、面会制限も徐々に緩和しなければならない。
例えば今僕が住んでいる登別市は、隣の室蘭市と合わせた地域が生活圏域である。この地域における新型コロナウイルスの感染者は、室蘭市が1名・登別市が7名となっていたが、現在は全員回復し経過観察期間も過ぎている。4/28以降の新規感染者もおらず、1月以上新規感染者が出ていないのだから、介護施設等の面会・外出制限は当然緩和されなければならない。
遠方に住む家族のために、ネット回線等を利用したリモート面会のシステムは、今後もずっと続けるべきではあるが、直接会って面会する機会も作っていく必要がある。予防ワクチンができるまでは、従前のように何の対策もない面会は難しいだろうが、感染予防対策を施したうえでの面会は許されなければ人権問題である。
家族が制限なく居室に自由に出入りする面会は難しいだろうが、面会場所を居室から離れた場所に設置して、面会人数と時間を決めたうえで、入り口での検温と健康チェックを行いながら予約制で1組ずつ時間をずらして面会を行うことは、もうしなければならないと考えたほうが良い。
利用者と家族の人間関係を紡いだり、護ったりすることは、対人援助ではとても重要なことなのである。その原点を思い出しながら、今できることを探していかねばならない。
それにしても今回の制限対応において、サービスの品質の差が至る所で明らかになった。制限するという小権力が自分に備わっていると勘違いしている事業経営者や管理者は、何の工夫もせずにできないことのルールだけを勝手に決め、制限による利用者の不便や不都合には、完全に目や耳を閉ざしてしまったケースも見られた。そういう施設の利用者は可哀そうだった。
一方では制限される暮らしの中でも、できるだけ利用者のストレスがないように配慮して、例外対応などの工夫を様々な場面で行っている介護関係者もおられた。
面会制限が2月以上続いたある特養では、緊急事態宣言後に休業した街のカフェを、そっくりそのまま施設内の地域交流スペースで営業させるという取り組みを行って、利用者から大歓迎された。
カフェのオーナーは、介護とは全く関係のない地域住民であるが、そこの常連客であった施設長のアイディアで施設内カフェが実現した。当初はそれに反対する職員も多かったそうである。外部の人間が施設内でカフェを営業するなんてとんでもないという意見が多いなかで、職員が外部から施設に通って利用者と濃厚接触しているのに、それらの職員と同じように感染予防対策を行うカフェオーナーを、施設に入らせない理由はないとして、施設長の英断と責任においてカフェが開設された。
感染予防対策として、カフェのオーナーには施設内カフェの営業期間は、できるだけ不要不急の外出などを避けていただくようにする契約を結び、施設の出入りの際には、健康チェックや手洗いと消毒を徹底するなどの措置がとられた。
そのうえで街中でカフェ営業している際のメニューと、ほぼ同じものを施設内で提供し、施設利用者が自由にそこで飲食できるようにして、ストレス解消に一役買っている。
施設の設備を使い、光熱水費も施設負担なので、料金は街で営業している際の3割〜6割引きの値段である。コーヒーは1杯150円で提供されていた。カフェ利用できるのは利用者に限られ、飲食料金は利用者の自己負担であるが、ランチメニューもあるので、利用者の中にはあらかじめ施設の昼食提供を止めてもらって、その日はカフェでランチを摂る人もいた。
認知症の人で自分でカフェ利用できない人は、家族の承諾を得たうえで、職員の介添えでカフェ利用し、喜ばれている姿も見られた。
感染予防対策中に、感染リスクだけを考える場所では、このような対応は不可能だ。しかしそのような中でも、私たちの職業は対人援助であることを忘れない人によって、こうした工夫と対応が可能になるのだ。対人援助とは、人の暮らしに真正面から向かい合う仕事なのだから、何かを制限するために勝手にルールを創り、それに従わせるだけで良いと考える方が間違っているのだ。
そこでは人に対する細やかな愛情を持つ人の思いが存在している。その人たちの思いが、介護サービスの品質そのものにつながっているのだ。
だからこそ介護という職業は、知識と技術だけがあれば良いわけでは何のである。そこに人間愛というエッセンスが加わらない限り、介護は人を幸せにできないのである。
介護には科学性が必要だと唱える人たちは、果たしてそれだけで、人を幸せにする介護に手が届くだろうか。
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