僕が初めて社会人として就職したのは社会福祉法人であり、新設特養の相談員(当時の職名は生活指導員)が最初に拝命した職務だった。

その当時の特養には様々な規則が存在してた。

勿論、今でもそうした規則は存在するのだろうが、当時のそれは融通の全く効かない厳しい制限規則であったと記憶している。起床時間から就寝時間まで規則として押し付け、日課活動も時間割のように定められ、それに従わないことは、「問題行動」であると決めつける職員もいた。家族等の面会時間は制限することが当たり前と考えられていた。

そうした規則は、「集団生活」なのだから当然必要であると言われた。

しかし、「集団論」の立場から言えば、特養の暮らしは、「強いられた共同生活」という概念にしかならず、集団生活には該当しない。よってそのことを理由にした制限は無効であり、規則が必要だとしてもそれは、共同生活の中でお互いの暮らしに不便をかけずに、それぞれの権利を侵害しないよう配慮するために、緩やかな規範を定めおくという意味にとどめなければならない。

そう考えた僕の若い頃とは、様々な制限規則をなくすために、周囲のバリアと闘ってきた日々であったと言えるかもしれない。

仕事の都合で面会時間に訪問できない家族は当然いるのだから、面会時間があっても例外は広く認めるべきだと思った。夜遅くの訪問になったとしても、本人や同室者の迷惑にならない限り、面会は許されてよいのである。

そもそもそういう都合や、利用者にとっての迷惑をアセスメントしていなかった。問題の本質はそこであろうということで、そこから変えなければならなかった。

そうした個別事情を考慮した対応を、すべての生活場面で行おうというところから戦いは始まっていったのである。

就寝時間を超えてテレビを見たい人とは、もともとそうした生活習慣を持っていた人だ。そういう生活習慣を奪うのが特養であるなら、それは社会福祉ではないと思った。

食事提供にしても、せっかく複数メニューを提供できる体制にあるにもかかわらず、それは健康と栄養のためのシステムであると限定的に取り扱われていた。アレルギー等の問題で、お肉メニューが食べられない人には魚メニューを出しているのに、「好き嫌いの」問題であるならば、それは許されないことだった。

しかし人生を70年以上過ごしている方に対し、今更好き嫌いは良くないというのもどうだろう。肉を食べずに長生きしてきた人に、特養に入所したのだから好き嫌いを許さず、肉を食べろと強要するのは虐待と同じではないのか。そもそも肉メニューを提供すれば、食べずに残してしまうのがわかりきった人に対して、それを承知で肉メニューのお膳を出し続けることが、栄養管理として意味があることなのだろうかと思った。

食は人にとって最大の愉しみなのだ。それを苦行に変えてしまっては、栄養管理もくそもない。そう思って、好きなものをおいしく食べられる生活を奪うことは、対人援助として許されることではないだろうと言いながら、栄養士と喧嘩したこともある。そういう主張を理解して、栄養士が考え方を変えたきっかけになったのは、僕の説得ではなく、利用者が生きてきたエピソードそのものであった。(参照:栄養士の役割・食は人生

そういえば2016年4月から、1年間だけ働いた千歳市の老健施設は、その当時でも施設内で利用者が携帯電話を持ち、通話利用することを禁止していた。職員が普通にスマホやタブレットを利用しているのに、さしたる理由もなく利用者には制限を続けているのである。こうした制限が管理だと思っている馬鹿が小権力を持つと、このような不自由を利用者に与え続けることになる。

思えばそうした制限は、すべてバリアである。

そのバリアをつくる要因は、管理者や職員の心の中にある差別意識に他ならない。

そうした人たちが、心の中のバリアフリーを意識しない限り、介護サービスの場からバリアはなくならないのではないだろうか。

暮らしの場にどれだけ制限規則が必要なのだろうか。制限を掛ける不便と、制限のない利便を比較してみてほしい。その制限がないと、そこで人は不幸になったり、不便になったりするのだろうか。

どうか自分や誰かに、規則という名の制限を創り出す権利や権限があるのかどうかを、今一度見つめ直してほしいと思う。厳しさより、優しさでもって対人援助に関わってほしい。

少なくとも制限規則が、そこで暮らす人の幸福感や笑顔を奪っているとしたら、それは恥ずべきルールでしかないと言えるであろう。

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