新型コロナウイルス禍の緊急事態宣言解除が見送られた北海道では、昨日新たに6人の感染が確認され、2人が亡くなっている。
新規感染者のうち4名と死亡者のうち1名については、クラスター感染が発生している、札幌市の老健、「茨戸アカシアハイツ」の利用者である。
その数字を含めると昨日時点で同施設の感染者は合計81名(入所者の感染は62人)・死亡者は合計9名となった。
同施設の入所定員は100名だから、入所者の感染者はすでに6割を超えているわけである。しかも最初に感染者が報告された4/26〜昨日までのわずか20日に満たない間に、死亡者は1割に達しようとしている。また同施設の職員17名の感染も報告されている。これらはいずれもすごい数字である。
(※5/16追記:15日にさらに死者が1人増えて、死亡者割合は20日間で1割となった。)
しかしこの感染拡大について、札幌市の対応に大いに疑問を感じてしまう。
前述したように札幌市に同施設から最初の感染者が報告されたのは4月26日であった。その際に市は、「入所者は適切な介護を必要としている。入所者が感染しても無症状や軽症であれば、可能な限り施設内で生活環境を整えてほしい」と文書で伝え、感染した入所者を原則、病院には移さずに施設内にとどめて療養するよう求めている。
このため5/12までに病院に移されたのは、12日に入院した1人のみで、8名が同施設内で新型コロナウイルス感染症により死亡している。(※うち1名は最初の検査で陰性で、容体が急変して死亡後に感染が確認された。)
施設では感染者を2階に集めて隔離していたが、1階にいた入所者や職員からも感染が確認されるようになっていた。その状況が12日にNHKの道内ニュースで、『入所者の家族からは、感染した人を病院に移すことが治療や感染拡大を抑える上でも必要ではという声が複数寄せられていて、この対応のままでよいのか疑問の声が上がっています。』と大きく報道された。
これを受け札幌市保健所の山口亮感染症担当部長は12日の記者会見で、「重症の感染者を受け入れられる病床の確保に努めているのは事実だ。ただ入所者については、それぞれの事情に応じて入院の時期を待ってもらっている」と説明したが、批判的なニュースの論調が影響したのか、昨日は同施設から5名が医療機関に入院できたそうである。
つまるところ老健という介護施設に感染者をとどめたままの対応が間違いだったのではないだろうかという疑問が生ずる。
適切な医療対応が行われない状況で、感染が拡大することはクルーズ船の例で示されれていたところであり、なぜ札幌市は感染者を介護施設である老健にとどめたままにしたのだろう。
老健は医師が常勤配置されていると言ってもたった1名である。しかもそこは医療機関ではなく介護施設であるために、老健が診療報酬を算定することは出来ない。しかも老健の医療サービスについては介護報酬の包括報酬(いわゆるマルメ報酬)とされており、例外はあるものの治療にかかった費用は老健の持ち出しとされてる。つまり治療で薬剤等を使えば使うほどその持ち出しは多くなるため、提供できる医療にはおのずと限界が生ずるのである。
そもそも新型コロナウイルス感染症については、高齢者は重篤化しやすいのがわかっており、症状がなくとも、軽症であっても油断できない。急激な症状悪化は常に予測しなければならないが、老健という介護施設が医療機関と同様に即座に対応できるわけがない。
それにしてもこれだけ多くの感染者がとどまっている状態で、対応する職員の備えはあったのだろうか。マスクで鼻と口を護るだけではなく、ゴーグルで目を護る対応がきちんと行われているだろうか。少なくとも感染者を老健で引き続き対応しなければならないことが決まった後は、ゴーグルは通常装備とされなければならない。
感染が2階から1階へとフロアを超えて広がっている状態を考えると、飛沫感染だけではなく、エアロゾル感染が起こっている可能性が高いが、その対策としてきちんと空間除菌も行っていただろうか。
それらが行われない状態で職員を対応させていたのなら、それはなりふり構わない特攻介護と批判されても仕方ないし、職員が可哀そうだ。
もし感染予防の対策に少しでも不備があるとすれば、そこから職員が逃げ出そうとするのは当然で、そうした状況で退職者が出たとしても、敵前逃亡などという批判はできないと思う。果たしてこの施設では退職者は出ていないのだろうか。
放送されたNHKのニュースの中で、取材に応えている医療大学の塚本容子教授は、「高齢者にとっては住み慣れた施設から病院に行くということはかなりのストレスになり、認知症などの持病が悪化するケースもある」と呑気な解説をしているが、そんな場合ではないだろう。
そもそも老健は生活施設ではなく、リハビリを行って在宅復帰を支援する中間施設である。もともと別の場所に移ることを前提にしている施設の利用者について、こうした論評が通用するのかは甚だ疑問である。
結果的にこの老健では昨日までに9名もの人が、コロナウイルス感染症が原因で亡くなっている。この状況では、ターミナルケアも十分受けられない状態で亡くなっていることが予測される。
しかも症状に対応した十分な医療が提供されているとも思えない。つまるところ感染が明らかになりながら、医療機関に入院することなく、そのまま症状が悪化して亡くなった人についていえば、それはある意味、「見捨てられて死んだ人」と同じではないのか。
医療崩壊を招かないように、介護施設の高齢者は入院の優先順位を低くするということになれば、それはまさに、「命の選択」でしかなくなる。それが許される社会は恐ろしい社会であることを、私たちは今一度肝に銘じなければならない。
自分にあう理想の介護事業者をお探しの方はこちらで無料登録ください。非公開求人もたくさんあります。
※4/4〜新しいブログ「masaの徒然草」を始めました。こちらもご覧ください。
※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。
北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。
・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。
・masaの最新刊「看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。