1983年に封切りされた映画、「家族ゲーム」(森田芳光監督作品)は、故・松田優作扮する三流大学の7年生という風変わりな家庭教師が、高校受験生を鍛え上げる様をコミカルに描いた傑作で、この年のキネマ旬報ベスト・テン第57回、日本映画ベストワンなどを受賞している。

この作品を見ると、やはり松田優作という役者はすごいと思うし、まだこれからという時期に夭折したことは、返す返すも残念でならない。(関連参照:若者よ。君たちは松田優作を知っていますか?

この映画は当時として画期的な演出が随所に取り入れられていた。例えば音楽なしの誇張された効果音もその一つであるが、僕にとって最も印象に残っているシーンは、家族が向かい合わせではなく、テーブルに横一列に並び食事をする演出である。下記画像がその場面である。
家族ゲーム
当時としてはコミカルにも感じたこのような食事風景であるが、もしかしたら私たちのこれからの食事風景は、このような形が当たり前になるかもしれない。

というのも、先日開催された政府の新型コロナウイルスの専門家会議において、今後、国民が実践すべき「新しい生活様式」として提言する内容が話し合われたが、その内容は以下のようなものである。
・人との間隔を極力2メートルあける
・手洗いや換気を小まめに行う
・毎朝、家族で体温を測定する
・公園はすいている時間を選ぶ
・食事では横並びに座る
・帰省や旅行を控えめにする
・誰とどこで会ったかをメモする」


このように、「食事では横並びに座る」と提言されるのである。すると家庭の食事場面よりむしろ、医療・介護における食事提供シーンで、このような方法が推奨されていくようになるのではないだろうか。

介護施設をはじめとした居住系施設(GHやサ高住等)だけではなく、通所サービスにおける食事など、複数の利用者が同時に食事を摂る際に、利用者同士が向かい合わせで食事をするという形は徐々に少なくなり、家族ゲームのような横並びの形で食事を摂ることが当たり前になってくるのかもしれない。

特に通所介護は、利用者の個別の居室があるわけではなく、食堂で一斉に食事をするのが当たり前なのだから、こうした場面は早々と生まれるだろうし、クラスター感染を恐れてとり得る対策を最大限に取ろうとして、もうすでに実施している事業所もあるかもしれない。それは決して悪いことではなく、できるならばそうしたほうが良いだろう。

ところで介護施設ではどうしたらよいだろう。勿論、食事を食堂で一斉に摂るのであれば、通所サービス同様に、向かい合わせのシーンをなくして、横並びに食事できる配置に切り替えるべきだが、そもそ自分の部屋がある施設なら、そこで個々に食事を摂っても良いと思う。

特に現在の居住系施設は、介護保険施設も含めて個室が増えているのだから、それぞれのお部屋で食事を摂るのがスタンダードになって良いように思う。感染リスクを考えると、そうした方法の方が予防効果は高いし、自分の空間で他の人の食事シーンを見ながらではない状態で食事を摂りたいというニーズは、考えられている以上に多いはずだ。そして各居室に配膳するなんて業務は、ルーチンワーク化すればさほど難しくもないし、手間ではない。それが証拠に有料老人ホームの一部は、それが当たり前になっている。

僕自身が介護施設に入所したらと考えると、せめて食事くらいは、自分の好きな場所で、ゆっくりお酒を呑んでテレビでも見ながら摂りたいと思うだろう。

しかし介護施設でそのことがほとんどそのような方法が浸透していない理由は、運営基準そのものに原因がある。

特養の運営基準(平成十一年厚生省令第三十九号)を例に挙げると、次のような規定があるのだ。(これは老健等も同じである)
(食事)
(一般型特養)第十四条2 指定介護老人福祉施設は、入所者が可能な限り離床して、食堂で食事を摂ることを支援しなければならない
(ユニット型特養)第四十四条4 ユニット型指定介護老人福祉施設は、入居者が相互に社会的関係を築くことができるよう、その意思を尊重しつつ、入居者が共同生活室で食事を摂ることを支援しなければならない


↑このように運営基準として、食堂(ユニット型の場合は共同生活室)で食事を摂ることを規定しているので、利用者の部屋に食事を提供する方法は、実地指導で、「不適切だ」と運営指導を受けることになり、「やりたくてもできない」のが現状なのである。

そもそもこのような規定がなぜ存在するのかと言えば、それは役人が食事を、離床機会と考えており、食事も居室で摂るような状態では、引きこもりが助長され自立支援を阻害するという偏見があるからに他ならない。

昭和40年代に、寝たきり老人の問題がクローズアップされ、特養でも離床が最大の目標にされた時期があるため、このような規定が生まれたものと思う。

しかし現在は、離床は食事時間だけに行うという時代ではなくなっているし、居室における食事であっても、ベッド上で食事をするような誤嚥の危険性が高い食事方法を否定するだけで、自分の部屋で離床して、自分のペースで好きなテレビでも見ながら食事を愉しむというライフスタイルが実現できるわけだ。

それは引きこもりにはつながらないし、自立支援を阻害する問題ともまらない。むしろQOLの向上につながる、多様なラーフスタイルを認めるということに他ならない。

よって利用者ニーズの変化に合わせて、食事提供に関する運営規定は変えられるべきであるし、それは感染予防という、新たに必要な対策にも合致することだと言えるわけである。

早急に規定改正を行い、第十四条2と第四十四条4を削除してほしいと思うのである。
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