職員が入所者に対し、繰り返し暴言や暴力などの虐待を行っていたことが明らかになった島根県松江市にある地域密着型特養「わこう荘」に対し、市が4/8に行政処分を行ったことが公表された。

虐待の具体的内容とは、2019年夏頃から同年12月末にかけて、介護福祉士の資格を持つ男性職員(30代)が入所者の女性(70代)に対し「くせえ」・「ばか」・「殺すぞ」などと暴言を浴びせ、顔に肘うちするなどの暴力を行ったというもの。この職員は他の入所男性(70代)にも同様の対応をしていたことが分かっている。

事件が発覚したきっかけは、虐待を行っていた職員の同僚が施設に対し「部屋から叩く音がする」と報告したこと。それを受けた施設は昨年12月21日に入所女性の部屋にICレコーダーを設置し、画像で動かぬ証拠をつかんだ。

虐待を認めた職員は施設側の聞き取りに対して、「夜勤が続いてイライラしていた」と虐待理由を述べていたとの報道もある。

施設側から市に連絡があったのは12月26日で、市は虐待の内容や速やかに連絡しなかった責任は重いとして施設の指定取り消しも検討したが、ほかの入所者がいることに配慮し、5月1日から3ヶ月間、新規利用者の受け入れ停止に加え介護報酬の請求上限を7割までとする行政処分を行った。

虐待の当事者となった男性職員は2020年2月6日付で懲戒解雇されている。

こうした報道に接すると、職員採用は本当に難しいとあらためて思う。面接段階で虐待をしそうな人物を完璧に見分けることはなかなか困難である。誰しも、「利用者のために良い介護をしたい」と応募動機を述べる中で、介護職の経験がなくても素質がありそうに見える人は決して少なくない。そしてその期待を裏切る人も少なくはないのが現状だ。

だからこそ採用段階での選別とともに、試用期間をきちんと定めて、その期間で適性判断を行うという2段階の選別システムを厳正に確立することを、このブログでは何度も指摘している。

本ケースの施設は地域密着型特養という、定員が29人以下の小規模事業所なのだから、上司や同僚が、日常介護業務の中で当該職員の仕事ぶりを確認するのはそう難しいことではなかったと思える。そうであるにもかかわらず、本件発覚の経緯である、「人をたたく音」に気づく前に、加害者が日常的に利用者を罵倒する声などを何故もっと早く感じ取ることは出来なかったかなどの検証作業が必要だろうと思う。

ところで市の処分に関連して感じたことがある。「速やかに連絡しなかった責任は重い」とされているが、施設がICレコーダーを設置したのが12/21。その時すぐに行為が発覚したとしても、施設側が本人に事情聴取をして、市への報告内容をまとめるのに相応の時間は要して当然だと思う。しかるにその報告がレコーダ設置から5日後の12/26にされたことを、「速やかではあらず」と糾弾されているのは、とても厳しい姿勢だなと思った。

処分内容についてであるが、新規利用者の受け入れはこの時期、コロナウイルスの感染予防対応で、処分を受けなくとも難しいと思うのであまり影響はないと思う。しかし減算処分はかなり厳しい。地域密着型特養はもともと運営費用がかなり厳しいサービス種別であり、常に満床で給付費上限を算定し、併設事業も稼働率が高くなって初めて経営が成り立つような事業だ。

母体に広域型特養などがあって、その施設のサテライト施設として運営され、母体と一体でないと、なかなか人件費がひねり出せないようなサービス種別なのである。

それが3月の間、給付費が7割算定しかできない状態はかなり厳しく辛いものになる。この間の運営費用は間違いなく赤字である。経営母体には広域型施設はなく、大きな規模の法人ではないと読み取れ、法人全体としてかなり厳しい経営を強いられるのではないだろうか。

しかしこうした処分を恐れて事実を隠蔽しても、この情報社会において虐待事実を隠し通すことは困難である。むしろ隠蔽が発覚した場合の、より重い処分を考えると、事実の自主的報告は当然と言ってよいだろう。そういう意味で本件の厳しい処分を知って、今後事実を隠そうとする事業者があってはならないことを改めて訴えておきたい。

それにしても本件の加害者のような、とんでもない職員がたった一人でも存在すれば、このように事業経営自体を揺るがすことになりかねないということは、介護事業経営者にとって大きな危機感を与える問題ではないだろうか。

新型コロナウイルスの影響で職を失った人が、今、介護事業者に就職を求めて募集に応募するケースが増えているそうである。しかしそのことに舞い上がって、闇雲に職員採用しないように心せねばならない。今のような状況だからこそ、人材をきちんと選んで育てるという意識がより強く求められるのではないかと思う。

そうであるからこそ介護事業者における、選び・見極め・育てるという三位一体システムの確立を急いでほしいのである。
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