新型コロナウイルスの感染予防対策は、時として様々な迷走を生んでいる。

例えば某地域では次のようなケースがあった。

住宅型有料老人ホームで生活している要支援者の方に、面会に訪れた家族が玄関先で面会を止められたというのだ。この利用者には外部からヘルパー支援が入っており、担当のケアマネジャーも施設内で面接しているのに、いきなり家族だけが面会を断られたわけである。しかも面会制限は事前連絡なしだ。

その利用者の方は90歳を超えた女性で、重度の心不全を持病に持っており、無理できないためにヘルパー支援で足りない部分や、ヘルパーの支援対象となっていない部分を、家族が替わって行うことで日常生活が成り立っているそうである。それなのにその大切な家族支援を拒否されているのだ。

ヘルパーとケアマネが入れるのに、実質日常支援を行う家族が施設に入れない理由は、前者は仕事できているので、何かあれば事業所が責任を取ってくれるが、家族の場合は、責任を取る主体がないからだという・・・。こう書いても意味が全く分からない人が多いだろう。そんなふうに筋が通らない理由で面会拒否されたそうである。

憤慨した家族が施設長に講義を申し出たところ、翌日から家族支援を受けている家族は、細心の注意を払い面会できる様になったということである。

面会制限自体は、この時期だから仕方がないだろうが、「施設を強制収容所に化す工夫のない面会制限」という記事でも指摘した通り、制限には一定の配慮と工夫が伴わねばならない。ましてや事前連絡なしで、玄関口で一方的に入館を禁ずるのは配慮不足と言われても仕方がない。外部ヘルパーの訪問を許して、ヘルパーでは足りない支援を行う家族の訪室を許さないことの根拠も乏しい。

こうした状況が起きる問題の本質とは、感染予防という名のもとに、施設側の責任を誰かに転嫁するような根拠のない対策が取られているということだろう。まったく情けない話である。

ここで一つ考えておかねばならないことがある。面会を禁止にした場合、それではということで、家族が居住系施設に入所利用している方を、気分転換のために外出に連れ出したいと申し出た場合、それを拒否できるかという問題である。

勿論、不要不急の外出はなるべく控えるようにお願いしている最中であるから、人混みが想定される場所に利用者を連れ出さないようにお願いすることはできるだろう。しかしそれはあくまで要請レベルにとどまるし、外出そのものを禁ずることは出来ない。

そもそも職員は施設以外の場所から通ってきており、その際には満員電車に揺られる中、周囲の人たちと濃厚接触しているわけであるし、自由に外出しているわけでもある。利用者だけを外出禁止にするわけにはいかないのである。

家族から利用者を気分転換のために、外食に連れ出したいと求められたら、それを認めるしかない。その際にできれば感染予防の観点から、お店で外食するのではなく、家で食事してくれませんかと頼むのがせいぜいだろう。

施設側の依頼や要請に対して、家族がどう応えるのかは日ごろからのコミュニケーションと関係性がベースになって決まってくる問題だろう。感染予防に関して施設側、家族側双方がベターな選択をするためには、施設と家族の信頼関係が大切だという一言に尽きるのである。

面会に来た家族を玄関口でいきなり面会禁止を宣言するような施設が、家族との信頼関係を築くことができるかを考えてほしい。大変な時期をそれぞれの立場の人が、様々な対策を取って乗り切らないとならないのであるから、お互いがそれぞれの立場を慮るということが何よりも大切だということを忘れてはならないのである。

そもそも面会を制限している今だからこそ、居住系施設の責任で利用者の外出機会は確保してほしい。

面会制限と外出制限はセットではないのだ。面会を制限する分、安全な外出支援に力を入れるべきである。

東京都の小池知事は3/27の定例記者会見で、「来年も桜はきっと咲きます。お花見はまた来年も咲きますので、楽しみにとっておいて、ここはみんなで難局を乗り越えることでご協力をいただきたい。」と語ったが、介護施設の高齢者の事情は異なる。

特養だと1年間で最低1割、多い年で3割程度の人が死亡しているのだ。今年の桜がこの世で最期に見ることができる桜なのかもしれないのだ。そういう人たちから、今年の桜を見る機会を奪ってはならない。弁当を持参してお花見を行うのは適切ではないが、桜を見る機会を創ること自体は行ってよいことだと思う。

面会制限をしているならなおさら、気分転換が必要だ。桜の周りで飲み食いするお花見は自粛するのは当然だが、例えばドライブがてらに車内から桜を眺めても感染リスクが高まることはないだろう。面会制限をしている施設であっても、利用者を少人数のグループに分けて、桜がみられる時期と場所を選んで、ドライブがてらに車内からでも桜を愛でる機会を創ろうと努力するのが、今この時期だからこそ求められることではないのだろうか。

知恵と愛のない感染予防対策ほど、人の権利を侵害するものはないことを自覚して、利用者の方々の健康と暮らしを同時に護る介護サービスを実現することを願ってやまない。
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