昨年5月に「認知症治療薬開発の悲惨な現状から思うこと」という記事を書いて、認知症の予防薬の開発研究が進展していない現状を指摘したところだ。
その記事の中でリンクを貼っている、「永遠の10年」という記事の中で、アルツハイマー型認知症の原因として有力視されている「アミロイド仮説」について説明し、その仮説に基づく予防薬の開発ができていない現状を指摘しつつ、そもそもその仮説が正しいのかどうなのかという疑問も呈した。
「アミロイド仮説」については下記の説明を読んでほしい。(※リンク記事と重複するが、改めてこの部分を記してみる。)
脳内にはアミロイドβの前駆体である、「アミロイド前駆体蛋白」というものがあるが、これがセレクターゼという酵素によってばらばらにされて、分解排出されていくという過程が繰り返されている訳である。ところがアルツハイマー型認知症になる人の脳内では、この分解排出がうまくなされず、無害であるはずの「アミロイド前駆体蛋白」が、「アミロイドβ蛋白質」に変化する。
この「アミロイドβ蛋白質」は非常に凝集(集合し沈殿することをいう)しやすい特徴を持つため、脳内でどんどん凝集し、沈着(たまって固着すること)してしまう。ここがアルツハイマー型認知症の始まりとなって、この状態は実際に症状が発生する10年以上前から起こっていると考えられている。そしてアミロイドβ蛋白質の沈着から、次に、「タウ蛋白」という物質が細胞質中で線維化(繊維化)し、沈着し、神経が変質して神経細胞死が起こり、認知症の症状が出はじめ、神経細胞の炎症が広がることで、症状が進行悪化すると考えられる。
つまりアルツハイマー型認知症の発生のメカニズムを4段階に分けて考えると下記の段階分けができる。
1.ベーター蛋白質が増える。
2. タウ蛋白が増える。
3.神経細胞死が起きる 。
4.アルツハイマー病が発症する 。
ところで、この予防薬に関して京都大ips細胞研究所の井上治久教授(神経科学)らの研究グループ(以下、井上研究グループと略)が25日国際学術誌電子版に、『アルツハイマー病などの認知症の原因とされる異常化したタンパク質「タウ」の蓄積を抑える点鼻ワクチンを開発した』と発表した。
つまり上記で示した4段階のうち2段階目の異常化したタウ蛋白を取り除く抗体を作るための点鼻ワクチンを、井上研究グループは開発したわけである。
これまでも異常化したタウ蛋白をターゲットにして、それを死滅させる研究は行われていたが、大きな効果が出ていなかった。しかし井上研究グループが開発したワクチンを認知症を発症するマウスに1週間おきに計3回投与して経過観察したところ、脳内でタウに対する抗体が増加したり、異常化したタウの蓄積が大幅に減ったりしたことが確認できたという。また、行動試験ではワクチンの投与により認知機能の改善がみられたともされている。
これが実用化できれば、人類はアルツハイマー型認知症の発症から逃れられるかもしれないわけである。大きな光明と言ってよいのだろうか。
だが過去のワクチン開発研究でも、マウスによる実験で効果がみられたという報告は何度か行われている。アミロイドβ蛋白を攻撃するワクチン研究でも、それが激減しマウスの認知機能が改善したという報告もあったが、すべて実用化される前に何らかの重大な支障が生じて研究も放棄された経緯がある。人に実用実験した段階で、副作用のため治験者の死亡が相次いで実用化できなかった予防薬もある。
つまり現段階で、このワクチンが人類に光明をもたらすものであるかどうかは不明だと言うしかない。少なくとも今すぐに人に実用化されるワクチンができることは考えにくい。
しかしこのワクチンが人に実用化できれば、それは人類にとって計り知れない利益と言えるのだから、井上研究チームの今後の研究の進展には大いに期待したいところである。
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