僕の顧問先である福岡市博多区の、「ワーコン」が入っているビルの通りを挟んで隣には、「福岡県福岡東総合庁舎」がある。

このビルの4階には介護関連ベンチャーの、「株式会社ウェルモ」がオフィスを構えているが、そこは福岡市の協力でケアプラン作成支援AIの実証実験を行っていたそうである。(参照:介護関連ベンチャーのウェルモが、福岡市の協力でケアプラン作成支援AIの実証実験を開始

要するに同社では、ケアプランの作成支援ソフトの開発に取り組んでいるという訳である。

AIを導入したケアプラン自動作成ソフトに関して、否定的・批判的な介護支援専門員の方もいる。その理由はケアプランを画一的なものにして個別ニーズを見落とす元凶になりかねないなどというものだ。

しかし僕はAIを利用してケアプラン作成を支援するソフト開発の取り組みには大いに賛成する立場であり、一日も早くそうしたソフトを実用化してほしいと願っている。

そのことは4年も前に、「人工知能の活用によるケアプラン作成について」という記事を書いて、AIによるケアプラン作成ソフトを大いに利用すべきだと主張しているし、今年1月にも、「AIによるケアプラン作成を否定する人は、何を恐れているのだろうか。」という記事を書き、介護支援専門員の仕事を手助けしてくれ、業務を効率化してくれるのだから、そのことを否定する必要がないと主張していることでも証明済みだ。

ということで先日、機会がありウェルモさんを訪ねて、現在開発中のケアプラン作成ソフトの概要について説明を受けてきた。

厚労省の調査によると介護支援専門員の4割以上が、「自分の能力や資質に不安がある」と回答している。ウェルモさんが開発に取り組んでいるソフトは、こうしたケアマネジャーの悩みを解消するためにも役立つ可能性があるものだ。

介護支援専門員が持つべき知識を考えると、介護保険法全てを網羅して法令解釈ができているのは当然で、各事業の運営規定なども頭に入れておかねばならないし、介護保険制度以外の様々な社会資源に関する知識も必要になる。

このように身に着けるべき知識は、膨大な量と質であるにもかかわらず、利用者宅やサービス事業所を毎日のように訪問しなければならないのに加え、アセスメントを行いながらケアプランを作成し、かつそのモニタリングも行わなければならない。さらに毎月の給付管理や請求業務までこなさねばならない介護支援専門員の仕事は、あまりに忙しすぎるといえると思う。

そのため知識が必要なのに学ぶ時間が取れない、学ぶ機会に恵まれないという人も多い。さらに居宅介護支援事業所という事業所が大きな法人の一部門ではあっても、そこに配置されている介護支援専門員の人数は決して多くない。その中で介護支援専門員同士でしか情報交換ができず、教え合える機会が極端に少なかったりする。そもそも一人配置の居宅介護支援事業所では、ケアマネの仕事を誰からも学べないという悩みを抱えている人も多い。

だからこそ自らの能力や資質に自信が持てなくなる人が増え、その中にはバーンアウトしてしまう人もいるという訳である。

その問題の解消のためには、業務の省力化が不可欠で、自動化できる部分は自動化して、そこにエネルギーと時間を使わなくてよくなった分を、他の事業者との情報交換機会に回したり、研修受講機会を増やしたりしなければならない。そういう形で自らの能力と資質への不安が解消できるとしたら、その方向を目指さない手はない。

そういう意味で、AIソフトによるケアプラン作成支援は、介護支援専門員にとって求められるものであり、これを否定してはならないのだ。

ウェルモもその考え方に基づいてソフト開発に取り組んでいる企業だ。同社はケアプラン作成のソフトをはじめとして一連のシステムを、「ケアプランアシスタント(CPA)」と呼んでいるが、それはケアマネジャーに「代わる」AIではなく、ケアマネジャーを「支える」AIであるとしている。

ケアプランの自動作成というと、一定のアセスメント情報を入力すると、1表から3表が自動的に例示されるイメージを持っている人がいると思うが、実際にはそうではない。

基本的にAIが作成するのは2表であり、アセスメント情報を入力すると、2表の左端の、「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」に記入すべき、「候補文」が幾つか示される。そこから課題を選択することもできるし、自分で文章を打ち込むこともできるようになる。

それを選択もしくは入力したら、それに対し長期目標・短期目標・サービス内容・サービス種別という順で、表の左側から右側の順に、前の項目で選択した文章や内容に応じた候補文が選択できるという仕組みで、2表が完成されることになる。将来的にはプランに沿ってサービス事業所も提案する仕組みを目指しているとのことだ。

つまりこのソフトによる計画作成支援とは、人の手による部分、人の頭による部分が、大きなウエートを占めるもので、AIソフトだけでケアプランが完成されるわけではないということだ。

一部のケアマネジャーが、AIがケアプランを作成するようになれば、ケアマネの仕事が奪われるのではないかと考えているようだが、それは全くの杞憂である。そもそもケアプランが完全自動作成される未来が実現したとしても(実現しないだろうが)、街をロボットが歩いて利用者宅に面接に行く姿が常態化しない限り、ケアマネの仕事は誰にもとって代わることは出来ないのである。

そしてケアプランに関しても、現状で開発されているのは居宅サービス計画書の作成支援ソフトであって、各施設の固有のサービスと結び付けなければならない施設サービス計画書を自動作成するまでの目途まではついていないように見受けられた。

そうであっても居宅サービス計画書の自動作成から一歩目が踏み出されるということには大きな意味があるだろうし、ケアマネ個人個人をみれば様々なメリットがあるだろう。

例えば(情けないことではあるが)ケアマネの中には、文章能力に大きな課題がある人がいるが、そういう人にとっては、「AIが作成して提案される文章を選ぶだけ」でケアプランが作成できる点は、大いにメリットを感ずる可能性がある。それによって文章力が鍛えられるという副次的効果も出てくるかもしれない。

ただ現状では、課題や目標にも首をかしげる内容のものもあるし、サービス内容としても、「それで終わってよいのかよ。」と突っ込みを入れたくなるものもあり、改善余地が大いにあると言ったところだ。ここを一日も早くクリアして、ソフトの実用化を図ってもらいたいと思う。もう一歩だ。

今年の夏の販売を目指してソフト開発は続けられているが、その過程では現役のケアマネジャーがアドバイスやコンサルを行っているのだろうと想像する。そうであればその人たちが本当にケアマネジメントの現状を理解して、助言・指導できているかが課題であると言ってよいだろう。

ケアプランの作成過程について、アセスメントから課題を引き出し、それに沿った目標を適切に設定することで、必要なサービスに結び付くと考えているとしたら、それは理想であって現実ではないと言わざるを得ない。

現行では、利用者がケアマネにプランを依頼する動機づけとして一番大きなものは、「サービスを使いたい」という理由である。

「デイサービスに通いたいの」・「ヘルパーさんに来てもらいたいから」という理由で、居宅介護支援事業所のケアマネジャーに依頼が来るケースが多く、まずサービス利用ありきで、そのサービスを使うために理由付けをして、目標設定し、とりあえず希望するサービスを利用者に結び付ける形で計画が作成されることが多い。

そのうえで信頼関係が構築される過程で、ニーズに合致しないサービスを削り取ったり、新たなサービスを導入したりしながら、より良いサービス計画へと変更・成長させていくプラン作成ができるのが、良いケアマネジャーとされたりするわけだ。

この現状を理解しつつ、利用者の感情や希望を無視した、「良い計画」はあり得ないという面から、AIがそこにどこまで迫ることができるかが課題となるだろう。ここがソフト開発者に求められるもう一押しの現状理解ではないだろうか。

幻想の実態で、良いケアマネ・良いケアプランのイメージを抱いて、そこから一歩も踏み出せないでいるとしたら、AIのケアプラン作成支援は、理想論の押し付けに終わり、現場に根付かないものになりかねない。ここだけが心配なところである。

ちなみに冒頭で紹介した、福岡市の実証実験アンケート(ケアマネ40名に実施)では、CPAにより相談援助の質が上がると思うと答えた人が97.5%。プラン根拠が説明しやすくなりそうだと思う人が87.2%、ケアプランの作成時間が減りそうだと答えた人が82.1%と好感触を得られているとのことだ。前途は明るいと言ったところか。

どちらにしてもAIとケアマネは共存できるだけではなく、AIがケアマネのアシスタントとなり、より良い支援にもつながるし、データの蓄積によりエビデンスが生まれる可能性にもつながっていくだろう。

そういう意味も含めて、がんばれウェルモとエールを送っておきたい。

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