特養の利用者等に対する診療報酬の扱いを定めた医政局通知、「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」は、基本的に医療機関に向けられた通知である。

よって特養関係者で、この通知の確認を怠っている人がいるが、これは特養の関係者にとっても、「施設サービス」・「短期入所生活介護」両面で重要な対応につながる規定(ルール)が含まれている通知なので、常に最新版の確認が必要だ。

例えば2016年には、特養の所属医師の診療行為の際に長年ネックとなっていた、『特別養護老人ホーム等の職員(看護師、理学療法士等)が行った医療行為については、診療報酬を算定できない。』という規定が改正され、施設医師が勤務していない日でも、施設医師の指示を受けた特養の看護職員が行う看護処置については、診療報酬の算定が可能になったことは、特養にとっても大きなメリットとなって今日に至っている。(参照:この通知改正は、特養関係者が待ち望んだものだ

それ以降にも改正は行われており、かつてこの通知では、「保険医が、配置医師でない場合については〜(中略)入所している患者に対し、みだりに診療してはならない」という規定があったが、2018年度の改正では、「みだりに診療してはならない」という文言は削除されており、配置医師以外が入所している患者を診療してよい条件が書かれているだけの文章に置き換えられている。修正された文章は以下の通りである。
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3 配置医師以外の保険医が、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、指定短期入所生活介護事業所、指定介護予防短期入所生活介護事業所、指定障害者支援施設(生活介護を行う施設に限る。)、療養介護事業所、救護施設、乳児院又は児童心理治療施設(以下「特別養護老人ホーム等」という。)を診療する場合については、次の(1)又は(2)の取扱いとすること。
(1)患者の傷病が配置医師の専門外にわたるものであり、入所者又はその家族等の求め等を踏まえ、入所者の状態に応じた医学的判断による配置医師の求めがある場合に限り、医科点数表第1章第1部の初・再診料、医科点数表区分番号C000の往診料、医科点数表第2章第3部の検査、医科点数表第2章第9部の処置等に係る診療報酬を算定できる。
(2)(1)にかかわらず、入所者又はその家族等の求めや入所者の状態に応じた医学的判断による配置医師の求めが明らかではない場合であっても、緊急の場合であって、特別養護老人ホーム等の管理者の求めに応じて行った診療については、医科点数表第1章第1部の初・再診料、医科点数表区分番号C000の往診料、医科点数表第2章第3部の検査、医科点数表第2章第9部の処置等に係る診療報酬を同様に算定できる。
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みだりに〜」規定があった当時と、配置医師以外の保険医が入所患者に診療を行って診療報酬を算定できる行為自体に変わりはないとに思えるが、表現がソフトになっているため、「配置医師の専門外」・「配置医師の求め」・「緊急の場合」の判断基準がずいぶん広く解釈できるような感があることも事実だ。

だが言葉のソフトさに惑わされて、法令規定を拡大解釈してはならない。

例えば特養関係者の中には、併設ショートスティについて、利用者には別に、「かかりつけ医」がいることが多いのだから、ショート期間中に診療が必要になった場合も、当該利用者の、「かかりつけ医」の診療を求めるべきだと考えている人がいる。ショート利用者の通院支援は行わなくてよいという考え方もここから生まれている。

しかしそれは間違った考え方である。短期入所生活介護の基準省令では、「第百二十一条 一 医師 一人以上」として医師配置義務が規定されている。

つまり短期入所利用者の健康管理について、第一義的に責任を負うべきは、短期入所生活介護事業者であり、配置医師による診療が求められているのである。場合によっては、ショート事業所の職員が、配置医師の所属する医療機関へ受診するショート利用者に同行支援する必要はあるのだ。

そもそも、「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」の改正版でも、短期入所生活介護利用者が、その事業所の医師以外の診療を受けて診療報酬を算定できるのは、「患者の傷病が配置医師の専門外にわたるものであり、入所者又はその家族等の求め等を踏まえ、入所者の状態に応じた医学的判断による配置医師の求めがある場合に限り」認められているほかは、特例として「医学的判断による配置医師の求めが明らかではない場合であっても、緊急の場合であって、特別養護老人ホーム等の管理者の求めに応じて行った診療について」が認められているに過ぎない。

これ以外は、短期入所生活介護事業者の配置医師が診療して、当該医師の所属する医療機関が診療報酬を算定せねばならないのである。

持病を持っている利用者が、日常的に服薬している薬は、ショート期間中に足りなくならないように事前に処方してもらって持参してもらうべきだが、ショート利用中に処方薬が切れた場合の原則も、普段受診している医療機関を受診して処方してもらうのではなく、「かかりつけ医」から診療情報提供を受けて、ショート配置医師が診察・処方するのが法令に則った方法である。

例外的にショート事業所以外の医師による診療を受ける際に、受診対応を家族にお願いする場合は、ショートステイの契約時にそのことを十分説明して、ご家族にお願いしておかねばなりらない。ショートステイだから必然的に、診療が必要になった際の外部受診の支援は、家族対応が当たり前ということではないからである。ここを勘違いしてはならない。

むしろ法令規定を読む限り、ショート期間中に病状変化等があり、ショート配置医師の専門外の病状のために外部医療機関を受診する場合も、施設入所者との対応と同様に、一義的にはショート事業者に受診支援義務があるとさえ解釈できるのである。

だからこそ、家族の受診対応支援は慎重かつ丁寧にお願いしないとトラブルになりかねないのである。

例えばショート利用中に、突然に熱発する方については、利用中止が当たり前で、その時点で家族が医療機関に受診させるべきだと考えているとしたら、それも違うということが上記までの説明で理解できると思う。

しかしショート利用者がもともと菌やウイルスを持っていて、それがもとで発熱したならともかく、そうではないケースも多々あるし、施設内感染が疑われるケースも多い。そもそもどちらか判断できないケースの方が多いわけである。

その時に短期入所生活介護事業所の職員が、「ショートステイ」だから外部受診を家族が行うことが当然だという上から目線で対応すると、「そっちが感染させたんだろう」という話になって、損害賠償という話にもなりかねない。

くれぐれもそうした大きな問題に発展しないように、真摯に丁寧な対応が求められるのである。

その点、老健の短期入所療養介護はマルメ報酬で、短期入所利用中に外来診療してしまえば、その分が老健の負担になるので、そういうことがないようにしている施設がほとんどで、短期入所生活介護のような誤解は生じていないことは幸いなことだろう。

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