生物は食物を摂取することによって生体を維持している。

人間にとって食事とは体を成長させ、機能を保ち、エネルギーを得るために必要不可欠なものである。そして食事によってこの3つの要素をすべて全うできる状態のことを、「栄養状態が良好に保たれている」という。

そういう意味で、栄養が重要なことは今更言うまでもないことだ。それを否定してはならない。

しかし多くの人は、食事をすることに関して、栄養状態を維持するという動機づけを持っているわけではないし、食事をしないと栄養状態が低下するという危機感を持ちながら生きているわけでもない。

健康な人の大部分は、食事は楽しみのために摂っているのであり、お腹がすくから食事をするのである。しかしそのことは極めて重要なことである。

毎日3度3度の食事が苦行であるなら、人はあっという間に、「生きる動機づけ」を失ってしまうだろう。

食事とは人の最大の愉しみだから、毎日食べ続けることが出来て、その結果栄養状態が保たれるのである。

勿論、飽食の時代であることにより、贅沢過ぎる食事や食習慣は、しばしば人の健康を蝕むこともあり、食事の面からの生活習慣の改善ということも課題となってくる場合もある。しかし食べ過ぎを防ぎながら、偏りのない美味しい食事をとり続けていけるとしたら、人はある程度の期間まで健康で幸せに暮らし続けることが出来るのである。

だから一番大事なことは、食事の愉しみを失わないことである。

様々な病気の終末期は、体が自然と食事を受け付けなくなる。それはもう体が死の準備をして、死に馴染んでいく過程といえるかもしれない。そうであるからこそ、食事の愉しみを感じられる期間を大切にすべきである。

だからこそ人の暮らしに深く介入しなければならない介護を職業にする関係者は、栄養士や調理師ではなくとも、様々な立場で向かい合う人たちの、『食の愉しみ』を失わせない対応を考えていく必要がある。

食事摂取介助が必要な人に対する、その方法論を、栄養が摂れるだけの方法論にしてほしくない。食の愉しみを奪わない方法論、食べられる喜びを感じることができる方法論を常に意識してほしい。

自分が食事介助をいている人に対して、美味しく食事を食べてもらうという意識を失ってしまったときに、食事は単なるエネルギー補給の物体に変わるだけではなく、餌としか言えないものに変わってしまうかもしれない。そんな餌を摂取させられ続ければ、苦しくなるだけの結果に終わることは極めて当然のことであり、そこで人は生きる意欲を失ってしまうかもしれない。生きる意味をなくしてしまうかもしれないのだ。

そうしないように栄養の前に、おいしく見た目も美しい食事提供に心がけてほしい。食の愉しみを刺激し食欲がわく食事作りを忘れないでほしい。

介護保険制度になって、その大切な食事提供が、かつてよりおざなりになってはいないか。自立支援が大事だからと言って、食事摂取能力に低下がある人に対しても、適切な食事摂取支援がされないで自力摂取を強い、その結果、その人にとって食事摂取そのものが苦行になってはいないか。

間違ってはならないのは、食事摂取という行為は、日常を護る行為であって、決して医学的・治療的リハビリテーション機会ではないということだ。食事摂取するという行為を、リハビリに置き換えてしまっては、人の尊厳や権利が奪われかねないという理解が必要だ。

自立が大事と言っても、30分以上かけて食事を摂ってるのは問題である。唾液にはアミラーゼという消化酵素が含まれており、例えばお粥は食べているうちにビシャビシャになる。すると窒息の恐れが増す。なぜなら窒息しないでスムースに嚥下できる食形態とは、指でつぶせる柔らかさが必要だからだ。

お茶碗一杯と、副食三品程度の食事を30分かけても完食できない時、その際に食膳として出されているものはアミラーゼによってビシャビシャになってしまう。そうならなくともそれはもはや食の愉しみを味わうことができるものではない。

お粥は唾液が混ざらないように器を小皿に小分けしよう。食事は適切な時間で食べられるように支援しよう。それは自立支援を阻害しない。

リハビリ機会など別な機会はいつでも取れるのだ。毎日の日常を訓練にするな。

そんなふうに、人が生きる上で大切なことは何かという答えを常に求める、介護人(かいごびと)であってほしい。

※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。


masaの最新刊看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。
TSUTAYAのサイトからは、お店受け取りで送料無料で購入できます。
キャラアニのサイトからも送料無料になります。
医学書専門メテオMBCからも送料無料で取り寄せ可能です。
アマゾンでも送料無料で取り寄せられます。