2021年度の介護報酬改定に向けた重要なデータとなる、「介護事業経営実態調査」は、今後行われる予定で、この秋にもその結果が示されることになっている。

それに先駆ける形で厚労省は、昨年12/27の介護給付費分科会において、2018年度の介護事業経営概況調査の結果として、「介護サービス別収支差率・給与費割合」を公表している。
(下記図参照)
2018年度介護サービス別収支差率・給与費割合
今更言うまでもないが、2018年4月には介護報酬の改定が行われており、その改定率は+0.54%であった。そうであるにもかかわらず、そのアップ分は収支に反映されず、収支差率((収入額―費用額)/収入額)は全サービス平均で3.1%となり、報酬改定前の17年度より0.8ポイント悪化している。

おそらく報酬がアップされた分は、人件費の高騰に飲み込まれたという形だろう。特に人集めが厳しい状況にある都市部では、人員確保を派遣会社に頼らざるを得ない状況が生まれており、紹介手数料も年々アップする傾向にある。派遣職員に直接支払う給与分に加えて、手数料が上乗せされて支出されている状況は、収支率に大きく影響していると思われる。

基本サービス費がアップされた居宅介護支援費は、人件費率が前年度より下がってはいるが、相変わらず全サービスの中で一番その比率が高い状況に変わりはない。しかも全サービスを通じて唯一平均収支差率がマイナスである状況は変わっていない。

国は居宅介護支援事業所の規模について、配置ケアマネ3以上をスタンダードとする方向にシフトしようとしており、特定事業所加算を算定することによって、事業経営が成り立つモデルを想定しているため、小規模の事業所を含めた平均収支差率が0.1%にとどまっていることは報酬改定の成果とみており想定内だろう。

しかし収入に占める給与費の割合が0.3%下がっているという一面は、もともと全事業所平均で赤字事業所だったこともあり、報酬アップ分が赤字補填に回され、ケアマネの給与改善には結びついていないという側面があるということで、今後のケアマネの処遇改善が課題となることを表しているともいえる。

収支差率が最も高かったのは定期巡回・随時対応型訪問介護看護の8.7%で、前年度+2.4ポイントとなっている。これは事業所数がまだ少ないサービスであることが影響していると思われる。初めから採算が取れないようなニーズの少ない地域には、このサービス自体が存在していない。24時間巡回ニーズの高い地域で、収益が見込まれる地域にだけしか存在しないサービスなので、必然的に収益も高くなってくるのだろう。

夜間対応型訪問介護と看護小規模多機能居宅介護の収益率の高さも同じ理由によるものだ。

改定前よりダウン幅が大きくなったのは通所リハと通所介護であるが、通所リハについてはサービス区分が2時間単位から1時間単位に変更された影響が大きいと思える。2時間刻みの単位の短いほうのサービス提供時間であった通所リハは、当然報酬減となっているわけで、そうした事業所が多かったことが影響しているのではないかと思われる。

しかし通所介護は2015年の改定ですでにサービス区分は1時間単位になっているのでその影響はない。そうであれば今回の収益率の悪化の原因は別のところにあり、収益率の高かった大規模事業所の報酬が削られ、その分小規模事業所の報酬が引き上げられたことが、スケールメリットの働きが縮小される結果につながり、全体の収支率悪化につながっていると思われる。

その中で認知症対応型通所介護は、小規模事業所の優遇措置の影響と、加算を算定できるメリットが反映されて収支率がアップしている。認知症の人が増える中で、地域包括ケアシステムを機能させることによって、それらの人を地域で支えるためには、認知症対応型通所介護は今後も重要となるサービスなので、その収益が上がる報酬算定構造は、国が目指すところでもある。

介護施設は人件費高騰の影響を受けて軒並み収支率が悪化傾向にあるが、特養だけは前年比+0.1%になっている。その理由は新規加算をはじめとした報酬改定の影響というより、調査対象となった施設の個別の事情(人が集まらない分人件費コストがかからなくなった施設がたまたま混じっていたとか)による誤差の範囲だろう。

それにしてもかつて収支差率が10%を超え、内部留保が問題となった特養の収支差率が1.8%というのは恐ろしいことだ。この状況では人件費率の高い歴史のある特養については、単年度赤字の施設がたくさん存在していることになるという意味でもある。繰越金が潤沢であることに胡坐をかいて、経営戦略を練り直せない施設経営がトップに立っている特養は、そろそろ経営破綻が現実味を帯びてくる。

経営センスがなくて、運営しかできない施設長はそろそろ退場の時期である。

そうしないと介護報酬の適正化の名のもとに、従業員を乗せたままの特養という船団が、荒波に飲み込まれて全員が溺死せざるを得なくなるのである。

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