新人職員を教育する過程で、必要な援助過程としてOJTやスーパービジョン(以下SVと略)、コンサルティング等がある。

この中で専門職が成長動機を持った時に、その動機付けを支持し、専門職として一段高いレベルに引き上げることに有効に作用するのがSVである。しかし日本の介護事業者におけるSVは体系化がされておらず、その過程が存在しない職場が多い。それが介護支援専門員のバーンアウトにもつながっている。そこで今日は介護支援専門員を育てるためのSVについて考えてみたい。

そのためにはまず初めに、OJTとSVの違いを明確にしておく必要がある。

OJTとは、On-the-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の略称で、実際の職場で実務を通して学ぶ訓練のことである。そしてOJTは、ほとんどの職場で新人教育として行われていると思われている。しかし本来のOJTとは意図的・計画的・継続的なものである。

職場全体でOJTに対するそのような理解がなく、トレーニングすべき側の先輩職員にOJTツールが与えられていない状態で、伝え教えるべき知識や技術の根拠も説明できない状態で、単純に作業労働の手順を教えるやり方というのはOJTとは言えない。

自分の仕事ぶりを見せて仕事を覚えさせるのは職人技の世界であり、介護事業者の教育方法としては不適切である。きちんとOJTツールを作って、それに沿って計画的に介護知識と技術を伝えていかねばならない。そのことがサービスの品質の基盤になっていく。

つまり多くの職場においては、作業指導しか行われていないのが実態で、専門技術の指導の基本となる教育課程が存在していないのである。そのような職場においては、良い人材は偶然でしか育たない。よってこの部分からの改善が急がれているといって過言ではない。

ただし介護支援専門員を含めたソーシャルワーカー等の専門職は、OJTだけでは育成できないことにも留意が必要だ。

専門職は単に仕事の手順を教わるだけではなく、スキルアップの動機づけを与えながら自己成長を促す過程が必要不可欠なのである。特に自らのスキルを疑いながら成長しようとする過程が必要で、その時に必要とされる教育課程がSVであり、SVが機能してこそ成長動機を持つ人の背を押すことができて、専門職が一段高いステージに登ることができるのである。

しかしそのSVが存在しない介護事業者の方が多いのが実態である。そのことが日本の介護事業者で介護支援専門員を含めたソーシャルワーカーが育ち難くさせている大きな要因でもある。

介護支援専門員という職種は存在していても、その職種に対して社会が要請する能力に応えられる十分なスキルを持った存在がいない職場では、このSVが存在していないか、機能していない場合がほとんどだ。

ではSVとは何だろうか?

SVとは、「熟練した専門職員が、初級職員等に行う職務能力を向上させるために行う支援」のことである。

社会福祉援助を必要とする人は、それぞれ様々な生活史を持ち、能力や個性も異なる。そうした人が抱える生活課題も多種多様で、生活課題に結び付く原因も生活環境も様々である。だからこそ支援する側が専門的な勉強とトレーニングを積み重ねても、解決困難な事柄がたくさん出てくる。経験を積むだけでは課題解決には限界が生ずるのである。

だからこそ自分より熟練した同じ専門職により、アドバイスや支援を受けられることが重要であり、SVが求められてくるわけである。よってSVにおける指導者(上司・先輩)には経験だけではなく、経験を糧にした熟練の知識と技術を持つことが求められるのである。そうした指導者にSVを受けたいと思う人が、適切にその過程を踏むことが出来る職場が、安定的に専門職を育てることが出来るわけである。

つまりOJTとSVの違いとは、OJTが職場の求める業務を追行できる職員を育てるために行う過程であり、職員がOJTを求めているか否かにかかわらず実施されるプログラムであるのに対して、SVは、上司が部下に対して行う場合であっても、上司(スーパーバイザー:以下SVRと略)が、部下(スーパーバイジー:以下SVEと略)の求めに応じて行うもので、SVを求めるSVEがいない限り成立しない過程である。

またOJTは即戦力の育成を目的として、即実践が前提であり、期間を定めて行うのが普通であるが、SVはSVEの学習速度に合わせて進められ、SVRはそれに寄り添うことが求められ、急がず期間も定められないのが普通である。そういう意味では、SVにおけるSVRとは、「教える」・「導く」人ではなく、SVEに焦点を当て、「丁寧に聞き」・「語りを促す」役割を持つ人と言える。

どちらにしてもSVは、単に仕事ができる人を育てる過程ではなく、より良い仕事を目指す動機づけを持つ人を成長させる過程なのである。

そしてSVRには、SVEが目指す以上の仕事の熟練が求められるだけではなく、SVEが指導を受けたいと思えるような人間的魅力も備えていないとならない。なぜならSVは、職場が命令して受けされるものではなく、SVEが望んで受けるものであり、指導者も職場が決めるのではなく、SVE自らが選ぶというのが基本だからである。

介護支援専門員に対するSVであれば、何よりも介護保険法における介護支援専門員の位置づけを知る人でなければSVRにはなれないし、居宅介護支援におけるケアマネジメントにしても、施設ケアマネジメントにしても、法令・運営基準をしっかり把握していないとSVはできない。

ソーシャルワークとは何ぞやという知識があっても、介護支援専門員の業務の大部分は、制度の中で動くことになるのであるから、制度のルールが把握できていない状態で、SVRの役割は果たせないのである。

ソーシャルワークの原理原則とは関係しない、ケアプラン作成上の担当者会議の法令ルールにおいて、居宅サービスと施設サービスにおいては、異なったルールがあるということなど、細かなルールを知っておかねば本当の意味でのSVはできないものと考えている。

よって昨日までSVができるSVRであっても、明日もその状態でいられる保証はないということだ。毎日変化する社会のニーズや、定期・不定期に更新される法令ルールにも対応しておく気構えとスキルがないと、SVRの役割は果たせない。そういう意味では、情報や知識を常に吸収するエネルギーを持った人しか、SVRの役割は果たせないといえるのである。

ちなみにコンサルテーションとは、独立して職務を遂行できる能力がある専門家が、ある特定の専門領域の秘術や知識について、助言を得る必要があるときに、その領域の専門家に相談し、助言を受ける過程を言う。

つまりコンサルテーションを受ける両者に、上司と部下のような上下関係が存在するものではなく、任意な対等の関係の上で行われる。つまり両者はパートナーの関係であり、SVのように評価の責任を負うものではない。そして一般的にはSVが同一職種間で行われるのに対し、コンサルティングは他職種との間で行われることが多い。(※例外はある。同一職種間でも得意分野が異なればコンサルティングは成立するからだ。)

どちらにしてもSVを有効にするSVRとは、専門知識と技術を持ち、それを生かした熟練の仕事ができる人であり、かつ指導者として人間的魅力にあふれたスキルを持った人が、それにふさわしいと言えよう。

知識や技術や実績があっても、部下を感情的に怒る上司は、その役割を担う存在にはなり得ないといえるのではないだろうか。

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