厚労省は昨年、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」について、パブリックコメントで愛称を募集し、2018年11/30に「人生会議」に決定した。

その際に選定委員を務めた一人が、お笑い芸人の小籔千豊さんであった。その小籔さんをモデルにして、「人生会議」の普及を目指して作成されたポスターが11/25に公開された。そのポスターが下記画像である。

BBXlJrGこんな風に小籔さんが患者の姿でベッドに横たわり、鼻腔栄養を受けて顔をしかめている。そして「俺の人生ここで終わり?」・「大事なこと誰にも伝えてなかったわ」などの言葉が並び、「こうなる前に、みんな『人生会議』しとこ」と呼び掛けている。

しかしこのポスターが公開されて以来、インターネットに批判の書き込みが続出しているそうだ。その批判は、「患者の不安を煽る」とか、「これでは死に方会議だ」という内容であるとのことである。そのため厚労省は、このポスターの自治体への発送や、ホームページへのPR動画の掲載も取りやめることを決めたそうである。

このポスターに対する批判が、「死を連想させるから悪い」ということではならば、その批判は当たらない。なぜなら人生会議とは、まさに終末期に備えたものであり、「死」を意識して初めて人生介護の必要性も理解できるからだ。よって死を連想させるのは一向にかまわないことである。

しかしポスターに対する批判の矛先はそこではないと思う。

このポスターの目的が、「人生会議」の本来の目的を伝え、その普及を図るものだと考えた場合、僕もこのポスターは良くないと思う。これでは鼻腔栄養をはじめとした経管栄養等が不適切という誤解を与えかねないからだ。
※小藪さんの鼻につけられているのは酸素カニューレだろうが、その説明がないので、鼻腔栄養と勘違いしてしまう人もいるという意味

勿論そうではないとポスター制作者は反論するだろう。なぜならポスターには大事なことを何にも伝えていなかったことで、「命の危機が迫った時、想いは正しく伝わらない」と書かれているように、延命処置そのものが悪者ではなく、本人の意思確認がされないまま、延命処置によって、本人の望まない悲惨な生き方を強いられる人がいることを示唆していると読み取れるからである。

しかしそう読み取れるのは、ごく一部の人にしか過ぎないと思う。このポスターを見た多くの人が、延命治療そのものや、経管栄養すべてが悪者と誤解を受けかねないのが問題だと思う。

批判に反論する意見の中には、「いざというときに話し合わないでいると厄介なことになるよね、という啓蒙用のポスターが、なぜ患者団体からのクレームに晒されるのか理解ができません。」というものがあるが、話し合わないと厄介になるということが伝わらずに、とにもかくにもチューブにつながれた姿が悲惨で、あってはならないのだという誤解が広まる恐れがあるという意味だ。

確かに鼻腔栄養などの経管栄養で延命されている人の中には、意思疎通がほとんどできず、気管切開されて定時に気管チューブからの各痰吸引が必要な人も多い。その人たちの多くが、各痰吸引の度に体を震わせてもがき苦しんでいる。その姿はまるで苦しむために生かされているかのようだ。

その苦しみから逃れようとして、経管チューブを引き抜こうとする人は、手足を縛られて身動きできない状態で生き続けなければならない。そんなふうに寿命が来たのに死なせてもらえない、「悲惨な生き方」が存在するのも事実だ。

だからと言って経管栄養のすべてが、「悪」・「不必要」と考えるのは間違った考え方である。経管栄養とは医療技術の一つに過ぎず、経管栄養によって延命したいという希望もあって当然である。経管栄養による栄養管理を実施し、回復を願い治療を続けることはあって当然であり、対象者が経管栄養を行うかどうかを選択した後は、その判断が良かったのか、悪かったのかさえ審判する必要はない。

ましてや酸素吸入が否定されては、終末期の安楽さえ保障できなくなってしまう。その誤解が怖いのである。

大事なことは、あくまで対象者の意思や判断が尊重されることであり、その意志判断には、延命処置を施してほしいという選択、経管栄養を選択するという判断があっても良いのである。

だからこそ延命のために何をするのかしないのかは、治療にあたる医師が、本人の意思を無視して決めるべき問題でもないし、ましてや施設関係者などのサービス提供者が決める問題ではないことをしっかりと意識し、できるだけ事前の本人の意思確認が望まれるのである。そのために必要な過程が、「人生会議」であり、人生会議が普及することは、自分の死について語ることをタブー視させない社会につながり、リビングウイルの実現につながるわけである。

その目的に沿って考えると、このポスターはあまりに稚拙すぎると言え、「人生会議」の意味も誤解させる恐れがあるから問題なのである。よってこのポスターは、永遠にお蔵入りしてしまって当然だろうと思うのである。

だからと言って、モデルとなった小籔さんには何の責任も落ち度もないことは言うまでもない。そのあたりの誤解はしないでいただきたいと思う。

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