老後の生活設計に欠かせない年金問題について、金融審議会がまとめた報告書を、政権与党は承認せずに撤回するという、「安倍内閣年金問題」が起こったことは記憶に新しい。
この時に承認されなかった報告内容とは、「老後に年金収入以外に2000万円の資金が必要」というもので、「老後の生活は年金収入だけでは成り立たない」ということを示した正直な報告書だったように思う。
だからこそ年金を受給する年齢になる前に、できるだけ貯金をしておこうと考える人が多くなることは当然だと思う。かく言う僕自身も高齢者と呼ばれる年齢に近づいているので、収入が少なくとも無駄なお金を使わずに、できるだけ貯金を殖やしたいと考えている。
つまり高齢者になればなるほど預貯金とは、生活防衛の意味合いが強くなるし、必要不可欠なものなのである。
ところで、その高齢者の大切な預貯金を狙い撃ちした変更が、介護保険制度改正議論の中で行われようとしている。それは介護施設の食費・居住費に対する補足給付(特定入所者介護サービス費)の見直しである。
介護保険施設の食費と居住費は、保険外費用で全額利用者負担とされているが、所得の低い方については、「居住費」や「食費」の負担額を所得に応じて減額し、減額した不足分を「特定入所者介護サービス費(補足給付)」として施設側に支給されることになっている。
補足給付の支給対象となっているのは、利用者負担第3段階までの利用者とされているが、2015年8月以降は、一定額超の預貯金等(単身では1000万円超、夫婦世帯では2000万円超)がある場合には対象外とされているところである。
次の介護保険制度改正にむけて、政府は補足給付の預貯金の現行要件を見直して、約500万円までの間で資産要件を引き下げる検討に入っているのである。具体的な額等については、次の介護給付費分科会に提案される予定であるとのことなので、どこまでその額が引き下げられるのか注目したいところだ。
まさかいきなり現在の額の半額となる500万円までその基準は下げられないだろうとは思うが、どちらにしても乱暴な変更ではないかと思う。
なぜなら前述したように、高齢者の預貯金は暮らしの破綻を防ぐための命綱であり、それは最低2000万円が必要であることを、国の審議会が示しているのである。その金額の半分に満たない預金があるからと言って、そのために補足給付を支給しないということになれば、第3段階以下の方々は、その預金を切り崩して支払いをしなければならなくなる。
預金が一定額以下になれば、補足給付は再支給されると言っても、それらの人々は実質、補足給付の支給基準以下の預金しかできなくなるという意味だ。
しかしそれらの人は、市町村民税が非課税の所得の低い人たちである。受給年金額が低い人たちが現役時代に、生活費を削って貯めた預貯金を根こそぎ持っていくようなものだ。しかも預金が一定額以下になった後の、その人たちの暮らしが成り立つかどうかは一顧だにされていないのだ。その先には、「生活破綻」という文字しか見えなくなるのではないだろうか。
僕はこのブログで9月に「2020年制度改正に向けた動きについて」という記事を書いて、その中で補足給付の見直しにも触れているが、そこでは預貯金の額を見直すのではなく、預貯金以外の資産として、土地や建物の資産勘案がされるのではないかと予想していた。
それは政府に承認されなかったとはいえ、金融審議会の報告書は正論だったので、預貯金の大切さを考えると、その基準を引き下げるのには無理があると思ったからであるが、そんなことは今回の改正議論では全く無視されたわけである。
土地や建物などの資産勘案については、その価値がいくらかという資産調査が難しいという点がネックとなったのだろう。だから預金の基準額の引き下げという方向にシフトされたのだと思う。
それにしても所得の低い人が預貯金をたくさん抱えるのはけしからんとでも言うのだろうか。所得の低い人は、生活水準が低レベルで我慢しろとでもいうのだろうか。
社会保障とは本来、「社会の財」の再分配機能があるはずなのに、介護保険制度改革はその機能をどんどん失う方向で行われている。
どちらにしても血も涙もない改革と言わざるを得ない。
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