介護保険制度の改正や介護報酬改定は、この制度の持続可能性を高めるために行われている。そのため財源に限りがある中での改正・改定に際しては、給付抑制や国民負担の増加などが求められてくる。

そうした痛みを国民や関係者に求めるためには、本来制度を設計する政治家や官僚も痛みを受けなければならないはずだが、この国の政治家や官僚は、自分たちの痛みは大嫌いである。

だから一方的に国民に痛みを求めることになるので、その痛みはできるだけ静かに気づかぬうちに負ってもらおうとすることになる。それがソフトランディングの意味であり、いずれ介護保険制度の1割自己負担を失くして、2割負担をスタンダードにするというレールが敷かれていることを隠しながら、次の改正では2割負担と3割負担の対象者を静かに増やして、1割負担の対象者も知らないうちに減っているという状態を創ることにしている。

そんな痛みだけでは国民は納得しないので、時には甘い、「」を与えるのも常套手段である。飴を与える代わりに痛みはしっかり受け止めてほしいというように、飴と鞭の政策を随所にちりばめるわけである。

10/9の介護保険部会でケアマネジャーの処遇改善が突然のように浮上した理由も飴の政策の一つだ。

これが単純に介護支援専門員の待遇改善だけを目的としたものであると考えている関係者がいるとしたら、それはずいぶん能天気な話である。

勿論その背景要因の一つとしては、2年連続で介護支援専門員の資格取得試験の受講者が大幅に減っていることが挙げられる。加えて特定加算により、介護職員の待遇が大幅に改善した後には、介護支援専門員の年収を上回る介護職員も数多く生まれることが予測され、そのことで一層、介護支援専門員の成り手がなくなる可能性も無きにしも非ずという状況があることを否定しない。

しかし国は長期的にみれば、介護支援専門員の数は充足していて、足りない状態にはならないと踏んでいる。それは居宅介護支援の対象者を長期的には減らしていく政策を見込んでいるからだ。(参照:国の隠された思惑とはケアマネの政策的削減(前編) ・ (後編)

だからこそケアマネの処遇改善を行う一番の理由は、別にあるということだ。それは居宅介護支援費の利用者自己負担導入の人質としての意味の方が大きいということである。

財務省の強い意向を受けて、次の報酬改定(2021年4月〜)の居宅介護支援費は、利用者自己負担を導入するというのが既定路線になりつつある。しかし8月29日に開催された「第80回社会保障審議会介護保険部会」では、日経連の委員がそれに賛成したものの、それ以外の委員からは、利用者負担の増で必要なサービスが使えなくなることや、有料化することで利用者の要望が高まり、業務範囲を超えた過度な相談が増えるといった懸念の声が挙がり、反対意見が多数派を占めた。

このため国は、委員会の流れを自己負担導入に変えなければならなくなった。そこでケアマネジャーの待遇を改善するという飴を与えたうえで、ケアマネジメントを有料化することを実現する方向に舵を切ったというのが本当のところだ。つまりケアマネの処遇改善はケアマネジメントの利用者自己負担導入の人質なのである。

8/29の介護保険部会で自己負担導入に反対の意見を述べた日本介護支援専門員協会の代表委員は、この人質を取られた中で、なおかつ反対意見を述べ続けることができるかどうかが問われている。今後に注目してほしい。

それにしてもこの流れを読むと、居宅介護支援費に導入される自己負担は定額負担ではなく定率負担となるという意味であることも垣間見える。近い将来は2割負担を原則とするという流れの中にケアマネジメントの有料化も置かれていくからである。

しかし2021年の介護報酬改定は介護の単独改定である。2019年のように診療報酬のダブル改定の中で、薬価の引き下げという恩恵にあずかれる状態ではない中で介護報酬の改定が行われるのだ。そうであればケアマネジャーの処遇改善の財源はどこからひねり出すのだろう?

そう考えるとケアマネジャーの処遇改善のために、介護報酬の中から削られる報酬が必ず出てくることに気が付くはずだ。それがどのサービス種別の、どの報酬をターゲットにするのかは今後の検討課題になるだろうが、だからこそケアマネ専用の処遇改善加算が新設されるとは限らないのではないかと考えざるを得ない。

例えば現行の介護職員処遇改善加算の対象に介護支援専門員を入れるだけに終わるかもしれない。あるいは特定加算のaグループもしくはbグループの対象に介護支援専門員も加えてよいという方法だってあり得る。この場合は介護支援専門員の待遇が改善される分、介護職員の給与は現行より下がることになりかねない。

また施設のケアマネジャーは特定加算のcグループで待遇改善が図られている人が多いことから、処遇改善の対象は居宅介護支援事業所のケアマネジャーに限定される可能性もある。この場合は処遇改善加算という形ではなく、特定事業所加算の上乗せという形も考えられる。場合によっては居宅介護支援費の基本サービス費を上げるので、それで処遇改善を図ってくださいという形で、お茶を濁される可能性だってなくはない。

どちらにしても今後、この処遇改善がどういう形になるのか、その財源はどこからひねり出されるのかを注目する必要があるし、これによって居宅介護支援費の自己負担化はさらに避けられない状況になっているという理解が必要である。

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