大きなシンポジウムなどの一部を担当する講師としてご招待を受ける際に、講師控室などで他の講師の方々とご一緒することがある。それらの方々は様々な立場の方々であるが、パネルディスカッションのパネラーなどを仰せつかって、他のパネラーの方々と打ち合わせをする際には、かなり突っ込んだ話をすることになる。

そんな場面では僕は、自分よりずっと社会的地位のある方に対して、歯に衣着せぬ意見を投げかけていることがあるかもしれない。大変申し訳なく思うが、言うべきことを言っておかないと後で後悔することになるので、どうしても本音が出てしまう。

ところでそうした場面では、医師の方々とご一緒することも多いが、その中には特養に対する偏見をお持ちの方が少なくない。

先日もあるシンポジウムの打ち合わせ会場で、「特養に入所している人は可哀そうだね」と言われた。理由を聞くと、「老健に入っている人は、きちんとセラピストがリハビリを行って、目的持って意欲的に生活できるけど、特養の場合、利用者は何の目的もなく、することもなくて意欲を失って過ごしている。」というのである。

全国にたくさんある特養の中には、そんな特養が全くないとは言いきれないが、多くの特養がそうだと思っているとしたら、そては間違った認識であるし、偏見である。

その偏見の元になっているものとは、「特養には医療の専門職の介入度合いが少ない」ということではないのかと思えてくる。医療知識のない施設長が管理している場所で、高齢者の暮らしが支えられるのかという上から目線をひしひしと感じてしまうのである。

しかし在宅復帰が目的で、そのための機能が一番重視される老健と、看取り介護を最終ステージする暮らしの場である終生施設としての役割が樹脂される特養とを同じ土俵で論じても始まらないと思う。

高齢者に様々なニーズがあるように、介護施設にも様々なニーズに対応した、いろいろな目的の施設があってしかるべきで、老健の機能を求める人は老健を利用すればよいし、特養の機能を求める人は特養を求めればよいだけの話で、老健の存在価値が特養の存在価値より高いなんて言うことにはならないわけである。

そもそも、「リハビリを行って、目的持って意欲的に生活できる」と言うけれど、それは暮らしの一場面を切り取って評価しているに過ぎない。老健で暮らしている人は、確かに週2回以上のリハビリを行い、個別リハビリも行っている人が多いが、リハビリテーションを行っていない時間帯に、ほとんど部屋に閉じこもってベッドの上で過ごしている人も多い。セラピストが関わるわずかな時間だけを取り上げて評価してもしょうがない。

暮らしの質とは総合的な問題で、例えば多くの特養では、セラピストの配置がなくとも生活リハビリと称して様々な活動を行っている。部屋への引きこもり対策として、豊富な趣味や娯楽メニューが存在している点は、老健と比べ物にならない。

僕が1年だけ勉強のために務めた北海道千歳市の老健は、週2回しか利用者を入浴させていない生活を、「当然」と考え、小学生のように高齢者を、「遠足」に連れ出すのが心身活性化メニューだとしていた。職員は日常的に利用者に、「タメ口」で接しており、被保護者でお小遣いに困っている人に対し、トイレ介助を行う際に、「高いよ」という笑えないジョークで、利用者の心をズタズタに殺していた。

しかし僕がトップを務めてた特養は、希望すれば毎日入浴でき、夜間入浴も可能だった。外出機械は集団ではなく、個別のニーズに沿って持たれており、日常の買い物や居酒屋での食事などへも連れ出すことができていた。利用者への日常会話も、「丁寧語」が基本とされて、「わかりました」ではなく、「かしこまりました」と言える職員がそこには居た。

その部分を取り上げて比較すると、どちらの利用者の幸福度が高くなるのかは言うまでもないことだ。

要するに、比べるべきは事業種類ではなく、個別のサービスの質だということだ。医者が経営し、医者の価値観でしか評価されない場所に、本当に生活の質は存在するのかという観点も大事になる。

一般論として老健の利用者が特養の利用者より幸福だとする価値観は、端から見れば世間知らずの知性のかけらも感じ取れない価値観である。

そんな人も大きなセミナーの演者の一人として壇上に登り、医療や介護について語っているのだから、受講する方々にはくれぐれも、本物と偽物を見分けてほしいと思うのである。

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