介護保険サービスを利用している人の家族が、自分の身内がサービス利用している際に、職員からどのような対応を受けているのかを知りたいと思うことはごく当然のことである。

しかしそのことを知ろうとしても、その術(すべ)を持たない人が多かった。例えば身内と職員の対応場面を隠し撮りして確かめたいと思っても、そんな技術も知識もない人が多かったのがつい最近までの状況と言えたであろう。

しかしこれだけスマホやタブレットが普及して、動画が簡単に撮影できるようになった今日、様々な場面を撮影するという行為自体、簡単にできるようになっている。しかも様々な場面や自分以外の被写体を撮影するという心理的バリアもかなり低くなっている。

ホームセンターでは興信調査用の隠し撮りカメラが簡単に購入できるが、そのような特別な機器を購入しなくとも、日常的に所持している機器を使って簡単に隠し撮り動画が撮影できる時代になっているのである。

そのために介護施設に入所している認知症の人の家族が、自分の親が介護職員と1対1の場面で、どのような対応がされているのかを確かめようとして、居室に小型デジカメやスマホを隠してセットし、隠し撮りを行うことなど、そんなに難しいことではなくなっているのである。

家族が隠し撮りをしなくとも、介護職員の不適切対応が撮影される場面も増えている。

例えばつい最近も宮崎市の有料老人ホームで、夜勤中の20代の男性介護職員が90代の女性入所者に対し馬乗りになり暴言を吐くなどの虐待行為を、同じく夜勤をしていた同僚がスマホで撮影し、翌日にツイッターにその画像を挙げたことで問題が発覚している。家族が隠し撮りしなくとも、異変に気が付いた誰かがその行為を撮影し、簡単にネット配信できる時代なのである。

このことは介護の闇が、闇のまま終わらずに、白日の下にさらされるという意味では悪いことではない。虐待や不適切対応があるとすれば、そのことは白日の下にさらされ、世間の糾弾を受けて、行為に及んだ当事者は裁かれなければならないからだ。

しかし介護事業経営者は、このことにもっと危機感を持たねばならない。職員の利用者に対するタメ口をはじめとしたマナーの悪さ・マナーの無さに危機感を抱いていない経営者や管理職は、そのことによって事業経営が危うくなる危険性を認識しているのだろうか。

タメ口はしばしば荒い言葉遣いと見まごう場面をつくり出す。顧客に対する言葉遣いに配慮のない会話は、第3者から見れば異様に映ることも多い。なかには若い職員が高齢者を罵倒していると感じる場面もみられる。そのような場面が切り取られてネット上に動画配信されたときに、「あれは親しみやすい言葉として使っているだけで、関係性ができているから問題ない」という言い訳が世間に通用すると思っているのだろうか。

先日、道内千歳市の老健施設で心を殺されたNさんのケースを紹介したが(参照:マナー意識のない対人援助は誰かの心を殺すかもしれない)、排泄介助を頼んでいる利用者に向かって、お金を払わないと介助できないような言葉をかけている動画がネット配信されたとき、あれはジョークだという言い訳で世間が許してくれるだろうか。そもそもこのケースは、不適切な言葉をかけられた利用者自身が被害感情を訴えているのだから、その場面が切り取られてネット配信された場合には、当該施設に対して世間の糾弾の声が寄せられ、事業経営の危機にさえつながりかねない。

だからこそタメ口が親しみやすい言葉だという誤解を失くし、関係性ができておれば利用者に対して言葉遣いを丁寧にする必要ないなどという素人考えを捨て去らねばならない。「介護サービスの割れ窓理論」は、介護事業を続けていくためにも必要不可欠なセーフティネットなのである。

つまり介護事業経営者や管理職は、「隠し撮りされないように」注意をするのではないのである。そんなことに注意しても技術進歩は日進月歩であり、一般の人であっても隠し撮りしようと思えば、様々な技術や知識が普通に備わってくる世の中になってきているので、それを防ぐことは不可能なのである。

そうであるからこそ、すべての従業員がいつ隠し撮りされても良いように、人から後ろ指さされるような行為を決して取らないように自覚できる職員教育を徹底すべきである。(参照:心の中に自らを写すカメラを持っていよう

サービスマナー教育は、そのために必要不可欠な基礎教育である。日常の教育プログラムにサービスマナー教育を取り入れていない事業者の経営者や管理職は、近い将来マスメディアの前で、「お詫び」の記者会見を開くことになるかもしれない。そして介護事業から退場しなければならないかもしれない。

そんな自分の姿を一度想像してほしい。そしてそうならないように何をすべきかを、当事者意識を持って考えてほしい。

この記事を読んだ経営者や管理職の方々には、今一度自分の事業職員の対応場面は問題ないかと、今日一日事業者内を歩いて回って、一つ一つの場面を切り取って映像化してみてほしい。その場面が世間に誤解を与えるような映像にならないかと考えてみてほしい。

場合によっては実際に動画を撮影し、職員と一緒にその動画を観て、それが問題ない姿となっているかを確認してはいかがだろうか。

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