介護保険制度ができる以前、特養が利用者確保に困るということはなかった。

しかし介護保険以後、グループホームが爆発的に増え、特定施設も増加した。それらは介護保険制度上、「居宅サービス」に分類されているものの、事実上はすべて要介護高齢者の暮らしの場である。(参照:グループホームは在宅であるという誤解

よってGHも特定施設も、事業経営上は特養と競合するサービスと考えてよいものだ。

しかもあらたな高齢者の居所としてサ高住が誕生し、全国にたくさん建設されるようになった。そこに外部のサービスを貼りつけることによって要介護高齢者が暮らすことが可能となっており、重介護者の住み替え場所の選択肢の一つとなっている。

こんなふうに要介護高齢者の居所の選択肢が増える中で、特養の入所要件が厳格化され、入所対象者は原則要介護3以上となっている。さらに全国にたくさん建設されたサ高住では、空き部屋が埋まらずに入居料金等のダンピングを行うところも増えており、入所費用が一番安いと言われる特養との価格差が縮まっている。

なおかつ現在心身の状態に合わせた住み替えが必要な人たちは、年金が一番充実した状態で受け取れる人が多く、入所費用がネックになって特養以外には入所できないという人はあまりいなくなっている。都市部の特養に空きがなく、周辺市町村の特養に入所していた人たちの中には、都市部にサ高住ができて空き部屋があるのだから、そこに住み替えるという動きも出てきた。

また地域によっては高齢化のピークは越えてしまい、高齢者人口そのものが減っている地域もある。そこでは施設サービス利用者自体が減っている。

そうした諸々の事情が相まって、特養の待機者が減り、なかには空きベッドが埋まらないという特養もぼちぼち出てきた。相談員が地域を営業回りする光景も普通にみられるようになった。(※当然その影響は、特養の待機者が数多く入所している老健にも及び、老健でベッド稼働率が低下する傾向もみられている。)

そのような事情も相まって、表の掲示板では「営業してますが、稼働率は改善しません。 」というスレッドが立てられ、特養のベッドの稼働率低下で経営に影響が出ているので、どのように顧客確保をしたらよいかという相談がされている。

しかしその施設の考え方はおかしく、稼働率が上がらない理由を検証もせずに、施設名の入ったボールペンとポケットティッシュ、クリアファイルなどを配るという方法で集客しようとしている。

全く馬鹿げたことだ。そんなことで自分や自分の大切な家族の身を預ける場所を決めるとでも思っているのだろうか。

特養が地域住民から選んでもらえず、空きベッドが生じている一番の原因は、「サービスの質が悪いから」であり、特に団塊の世代が特養を敬遠する一番の理由は、「特養に入所したら、週2回しか入浴できないから」なのである。ここの処方がきちんとできなれば集客はままならず、特養だとしても廃業の憂き目にあうのが、これからの時代である。

現にその相談者も、「空床がある原因はショートのリピート率が低いこともあると思います。一度だけ使ってその後は他の施設に流れてしまいます。だから、ショート利用した方は入居申し込みまではいきません。」と書いている。つまりショート利用者が一度サービスを利用して、そのサービスに満足できずに、むしろ懲り懲りして逃げているのである。その最大の理由は何かという検証作業を行わずして、ベッド稼働率のアップなどあり得ない。

これからの時代、施設サービスの顧客の主力も団塊の世代の人々に移ってくる。日本の経済成長を支えたその世代の方は、サービスに付加価値を求めてきた世代でもあり、介護サービスに対しても、単に身体介護をしてくれるというだけでは選択対象とはしてくれないし、サービスを利用した際に、不快な思いをすることを一番嫌う傾向にある。

その方々に選んでもらう施設サービスとは、顧客満足度が高まるサービスである。利用者に不快な思いをさせた際に、「そんなつもりはなかった」という言い訳は一切通用しないのである。だからこそ顧客に不満を与えないように、サービスマナーを確立することは重要なのだ。

これからの施設サービスは、運営基準通りのサービスだけを提供しておればよいという時代ではない。運営基準をきちんと守ったうえで、さらに品質の高いサービスを提供していかないと、特養も顧客から選択されないのである。

質の高いサービスの基盤は、職員が職業人としてきちんとサービスマナーを護った先にしか生まれない。しかし職員すべてが介護サービスとしてのサービスマナーを身に着けた先には、ホスピタリティの精神が生まれる可能性があるのだ。サービスの品質に加え、真のおもてなし精神がある職員がいるという付加価値は、多くの顧客が求めているものであり、顧客確保の事業戦略上は一番の武器となる。

そのために職員のサービスマナー教育は欠かせなくなる。そんなふうに組織改革の必要性に気づき始めた事業経営者・管理者・管理職の人々も多いと思う。その方々にはぜひ覚悟をしてほしい。

職場の組織風土はあっという間に悪化するが、よくなっていくのには時間がかかるのである。しかし時間がかかるからこそ財産になると考えてあきらめないことが大事だ。

経営者や管理職は部下に思いを伝え、丁寧に説明して、厳粛に実行する覚悟が求められる。さらにこうした風土をつくるためには、組織全体で外部の講師を招いた場で、学ぶ機会が得られることが有効な手立てとなる。

言葉遣いや態度を直せない職員に、口を酸っぱくして説得することはあまり意味がない。それより納得のための「学びの機会」をぜひ職場全体で持ってほしいものだ。説得ではなく、納得させるためには、職場の上司以外の第3者から評価を受けたり、話を聴く機会を設けたりすることも必要だ。

そのようなお手伝いが必要な際は、ぜひ気軽にメールで連絡願いたい。実務に即生かすことができるサービスマナー講座を行って、組織改革のお手伝いをします。

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