地域包括ケアシステムとは、地域住民が心身の状態に応じた住み替えを促進しながら、地域で暮らし続けることができるための体制を言う。

住み替え場所は個々の状態に合わせて、バリアフリーに改築した自宅であったり、サ高住であったり、有料老人ホームであったり、グループホームであったり、特養であっても良いわけである。

つまり地域包括ケアシステムにおいては、介護保険制度上の居宅サービスとか施設サービスとかの枠を超えて、居住系施設という枠組みを含めて、「住まい」と考える必要があり、そのうえでその人に最もふさわしい住まいとはどこかという視点から、「高齢期の生き方」を考えることが求められているのだ。

その住まいのうち、特養やGHや特定施設ならば、住まいに介護がセットで提供されることになるが、自宅やサ高住、住宅型有料老人ホームであれば、介護が必要になった場合、外部のサービスを利用することになる。その際に訪問介護は非常に重要なサービスとなることは言うまでもない。しかしその訪問介護が提供できなくなるのではないかという大問題が生じている。

全国労働組合総連合(全労連)が4月24日に公式サイトで公表した調査結果では、訪問介護を支える介護職員のうち20代は1.0%しかいないと報告されているのである。(参照:介護労働実態調査報告書

その報告書の数値を下記のように図表化してみた。

訪問介護員の年代別分布図:出典は介護労働実態調査報告書
訪問介護員の年代別分布
この調査は1897人の抽出データとのことであるが、訪問介護員の全体の平均年齢は55.5歳である。しかも50歳以上が全体の73.0%を占めており、20代は1.0%という現状は、近い将来訪問介護サービスを提供できなくなる地域が出てくることを表しているように思う。

訪問介護というサービスの難しさは、それぞれ個性の異なる利用者の、「家庭」という最もプライベートな空間に入ってサービスを提供しなければならないことである。その環境に馴染んで、利用者と密室で1対1の関係で向かい合う能力も求められる。

施設サービスならば、OJTを終えた後であっても、同じサービスの現場に先輩職員が複数いて、疑問点を聴いたり見たりして解決できるが、訪問介護の場では、OJT等の研修期間を終えた後は、まさに「ひとり立ち」が求められ、誰にも頼ることのできない難しさがある。また身体介護と生活援助をセットで提供できなければならないために、家事能力のない人には向かないという問題もある。

そのためある程度の経験があり、家事能力も高い、一定の年齢以上の人がこの仕事に就く傾向にあることは事実だが、50代以上の年齢層が7割も占める仕事というのは異常である。これはすでに絶滅危惧職種というしかない。

そうすると近い将来(というか数年後:10年以内)に訪問介護サービスが足りなくて、サービス提供できない地域が出てくる。そのことで地域包括ケアシステムは崩壊するかもしれない。

そうしないために、59時間の新研修を受けることで生活援助に特化したサービス提要ができる新たな資格を創設したり、地域によっては元気高齢者のボランティア機会を増やすなどの施策を取ろうとしていたりするが、これは訪問介護サービスを益々低賃金化させ、訪問介護の職業そのものを底辺化するという側面を持っている。そうなると若い男性は、訪問介護という職業をますます選ばなくなる。

しかも元気高齢者というボランティアに頼らねばならない地域包括ケアシステムとは、その基盤は脆弱そのものであるとしか言いようがない。それはいつ崩壊してもおかしくないという意味だ。

そもそも個人の家庭で、身体介護と家事の両方を提供する職業は、もっとも専門的な職業と考えるべきで、それが絶滅危惧職種になっている原因は、安易な訪問介護費の引き下げによって、将来の不安と相まって、訪問介護では食っていけないと考える労働者の不安が増大しているからに他ならない。

その不安を解消しない限り、訪問介護という職業に就く人はいずれいなくなるだろう。いたとしても、訪問介護に就こうかと思う人の多くは、現役をリタイヤした元気高齢者が占めることになって、重度の要介護者の身体介護ができない訪問介護員が大半になる。

この構造を変えて、訪問介護サービスが安定的に提供されて、地域包括ケアシステムが安定できるためには何をしたら良いのだろう。

本来国民の命と暮らしを護るべき責任と義務は国家そのものにあり、この部分に掛けるべき費用に無駄金や死に金は存在しないはずなのに、財源論が幅を利かせて、介護給付費の増加が悪の権化であるかのような印象操作がされ続けている現状で、この問題を解決できる方策は生まれないと思う。

そうであればこのサービスを失くさないようにする唯一の方策とは、訪問介護サービスを民間営利事業として存続させていくのではなく、市町村の公益事業とし、市町村に実施義務を課すしかないのではないだろうか。

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