介護施設の人材不足に対する解決策の糸口さえ見えない今日、人材は充足しないのだから介護ロボットを活用して人間の労力の省力化を図り、人の労力がいらなくなった分、配置基準を緩和して一度に働く職員の数を減らし、職員を分散配置することで介護人材の絶対数不足に対応しようという考え方が生まれている。

このことは「次期制度改正に向けた財務省の資料を読んで」の中でも少しだけ触れているが、この中で僕は、「介護ロボットの導入で、本当に人の配置を少なく出来るのかという、介護現場の不安など一切無視しないと、人手不足には対応できないとしているわけである。」と論評した。

しかしこの論評は、少し言葉足らずの感があり、意味がわからなくなくもない。読者にその真意が伝わっていないかもしれないと思うので、このことについて詳しく解説したい。

23日に公表された、財政制度分科会(平成31年4月23日開催)資料の中で、このことに触れている部分は85頁である。

介護事業所・施設の経営の効率化について」というタイトルがつけられたこのページでは、「介護施設の設備・運営基準については、長らく変更されておらず、近年の介護ロボットやICT等の普及効果が反映されていない。 」として、「介護ロボット等の設備に応じて設備・運営基準や報酬に差を設けるなど、生産性向上に向けたインセンティブを強化し、底上げを図るべき。」としている。

この提言には、新たなテクノロジのフル活用とセットで人員配置基準を緩和することが念頭にあると言われており、自民党の厚生労働部会が4月18日にまとめた提言の中でも、タブレットやウェアラブル、センサーなどを使って安全性を確保することを前提として、「人員基準を緩和すべき」と打ち出している。さらに根本匠厚労相も「より少ない人手でも回る現場を実現する」と語っており、実用化されているセンサーロボットなどを導入した介護施設などの夜勤配置職員などを定めた人員配置規準の見直しを視野に入れている。

人間の手足に少しでも替わることができる介護ロボットができるのならそれに越したことはないし、そうした介護ロボットをぜひ開発してほしいと思う。そうしたロボットが本当に誕生したならば、人に替わってロボットを導入して、人員配置は少なくしても良いだろう。しかし現実には人に替わる介護ロボットは存在していないし、人の動作を一部援助する装着ロボット等も、使い勝手が悪いために実際の介護の場で実用化しているとは言えない状況がある。

そんな中で見守りセンサーなどは、巡回しなくてもよいスペースや時間を作り出すことができる点では、すでに夜勤を行う介護職員等の業務の一部を省力化することに貢献しているといってよいだろう。

だからといって、そのことで人手を減らせるのかといえば、それは全く別問題である。

見守りセンサーは、見守っている対象者の異常を感知・通報できるだけで、その対応はできないのだという、ごく単純な問題を考えなければならない。

見守りセンサーの活用で、夜勤時間帯の見回り回数が減ったからと言って、即夜勤者の数を減らしてしまえば大変なことが起こる。見守りセンサーが人に替わってカバーできることとは、「見守り」そのものに過ぎず、夜勤者が定期巡回せずにセンサーが常時見守ってくれた結果、何事もない場合はそれでよいのだが、見守りセンサーが反応した場合、そこに駆けつけて対応しなければならないのは夜勤者なのである。

つまり見守り対応を夜勤者に変わってセンサーロボットがしてくれるので、夜勤時間帯の定時巡回の必要がなくなって、その分夜勤労働の省力化は図られるのは事実だが、そこで夜勤配置職員そのものを削ってしまえば、いざセンサー反応があった時の対応に支障を来し、配置職員数を削られた分、配置されている職員の労働負担が増えることになる。

労働負担が一時的に増えるだけならよいが、配置職員数が削られてしまうことで、対応そのものが困難になるケースも出てくるだろう。それは即ち利用者のサービスの質の低下につながるだけではなく、対応が必要な人の命の危険となり得る問題で、それは劣悪な介護環境につながりかねない問題ともいえる。

タブレットやウェアラブルなど、ICTをいくら活用しても同様の問題が生じ、要介護者等に人間と同様に対応できるロボットでない限り、配置人員を減らしたら対応困難になる場面は増え、そこで働いている人間はさらに疲弊していくのである。

そもそもリンクを貼りつけた資料の85頁の表の中で「人員を基準より多く配置する状況が常態化」という記述があるように、現在でも人員配置基準以上の職員配置をしている介護施設が多いのは何故かということを考えてほしい。

従来型特養は看護・介護職員:利用者の配置比率は、配置基準上では3:1とされているが、多くの特養ではそのような配置では業務が回せないために、2:1に近い配置をしている。

配置規準をさらに緩めたところで、業務が回らない以上実際の配置職員を削ることは困難である。

ところが配置規準が下がれば、それを根拠として、何が何でも職員数を削ろうとするブラック経営者が必ず現れる。夜勤業務が回らないなんてことは無視して、緩和された基準人数だけを配置しておればよいだろうと考える施設経営者も出てくるだろう。

そうなるとそこで働く職員は最悪の労働環境の中で最低限の仕事しかしない工夫をするか、バーンアウトするしかなくなる。どちらにしても人員基準緩和は、実際に働く職員に対するメリットは何もない。そのことを歓迎する介護職員は存在しないだろう。

実際には人に替わることができる介護ロボットがない現状であるにもかかわらず、政治家や官僚が、「センサーやタブレットによって人手がいらなくなる」という幻想を抱くことにより緩和される最低配置基準によって、介護労働は益々重労働となり、職員は益々疲弊していくのである。

それが介護人材不足の処方箋であるという考えは大きな間違いなのである。

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