僕の最新著作本「看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」は、張り付いたリンク先から購入できるが、そのリンク先には在庫数が表示されている。
その数字がほぼ毎日変化しているということは、どこのどなたかはわからないものの、毎日誰かがこのサイトから僕の本を購入してくれているという意味である。本当にありがたいことである。
講演会場でもこの本の売れ行きは良くて、とても驚いている。なぜならこの本は、「看取り介護」をテーマにしているだけに、購入者層は過去の僕の出版本よりも狭くなるのではないかと予測していたからだ。そんな予測が出版社や著者にとっては良い方向に外れている。それだけ様々なステージで、看取り介護の実践が求められているという意味ではないのだろうか。
この本では、僕が今まで実践してきた看取り介護のケースを紹介するだけではなく、看取り介護指針や、終末期の身体状況の変化を説明するパンフレット、デスカンファレンスのための一連書式など、実務書類も多々掲載しているので、看取り介護の実践書としても利用できる。さらにそこで紹介しているケースを読むと、命と向き合う介護の現場の使命と責任という意識も持つことができ思う。何より看取り介護を通じて、介護そのもののあり様を考えることができる実践書となっているので、ぜひ一度手に取って読んでいただきたい。
我が国では国民の8割以上が医療機関で亡くなっているという現状があるものの、医療機関以外で死亡する人の割合が少しづつではあるが増えている。自宅で亡くなる人の割合も、0.数ポイントという割合で増え続けており、それに伴い当然のことながら医療機関で亡くなる人の割合が少しだけ低下しているのがここ数年の傾向である。
それは在宅療養支援診療所が医療保険に位置付けられて以来、在宅ターミナルケアの専門医が増えていることによって、自宅等の住まいで亡くなることができる人が増えているという意味である。その中には、一旦医療機関に入院したとしても、そこで入院し続けたまま亡くなるのではなく、回復不能と診断された後に、自宅に戻って人生の最終ステージを過ごす人も含まれている。
医療機関でターミナルケアを専門とした病棟として、「ホスピス緩和ケア病棟」があるが、そこは末期がんの方しか入院できないのだから、こうした変化はとてもありがたいことで、終末期の選択肢が増えていることを意味している。そのため在宅ターミナルケア専門医の増加によって、末期がんの方であっても、あえて緩和ケア病棟に入院せず、自宅で亡くなるというケースも増えている。
このことに関連して、「生きるを支える」という記事の中で、福岡市で在宅ターミナルケア専門医として活躍している、強化型在宅支援診療所・まつおクリニックの松尾 勝一院長の話を紹介している。
松尾Drは、「医療機関で行う終末期医療・緩和ケアについて、在宅で行うことができないものはないが、在宅で行うことができることで、医療機関で行うことができないことは結構多い」と言い、その理由として、「畳が敷かれ、仏壇があり、家族がいる」と述べておられた。
勿論、緩和ケア病棟にも畳があるところもあるし、仏壇を持ちこむこともできる。さらに家族がそこで一緒に付き添って最期の時間を過ごすこともできるだろう。しかしその仏壇や畳や壁の一つ一つの存在に、過去の暮らしとの連続性があって、それを見て思い出が浮かんでくるかどうかということはまた別の問題である。
家族が単に看取り介護の場に居るのではなく、馴染みのある空間に家族と共に過ごすことで、過去の様々な思い出が浮かんできて、最期の時間を過ごす際の安らぎにつながっていくということが、人生の最終ステージを過ごす際には重要な要素になるのである。
だから松尾先生は、ターミナルケアを実践する場、終末期を過ごす場所として、自宅に優るものはないと言っておられる。
人生会議:ACPという考え方が普及する過程では、終末期を迎えた人の、本当の気持ち・思い・希望に寄り添った場所で過ごす方法が追及されるのだから、こうして自宅で最期の時間を過ごす人も増えるだろう。(参照:人生会議の可能性)
そしてリビングウイルの支援者としての介護支援専門員等の役割もいっそう重要となるだろう。その過程では、数カ月〜半年程度の期間を終末期支援の期間とし、自宅で過ごす方が通所介護に通って心身活性化を図るというケースも増えていくのではないかと考える。
看取り介護の対象者が、訪問系サービスのみならず、通所系のサービスも利用することによって
、様々な居所で終末期を過ごすことができるのだ。サ高住が最期の居所となっている方は、その場で訪問系サービスを利用しながら、週の何回かは通所介護に通って、馴染みのある人々との交流機会を途切れさせずに終末期を過ごす計画も普通に考えられるようになるだろう。
終末期を自宅で過ごす方にも入浴支援は重要であるが、それが一律訪問入浴ということにはならない。社会的関係を途絶させず、寂しい終末期にならない方法と入浴支援の方法をセットで考えて、通所介護で他者と交流して心身を活性化できる機会を持ちながら、入浴支援を受けるという計画だってありだと思う。
よって通所介護の従業員の方々も、終末期の方々の身体状況の変化の特徴や、終末期支援として関わる際に持つべき知識等について勉強しておくことは非常に重要となるのである。通所介護の職員だから、看取り介護には関わらないだろうという考え方は完全に否定されなければならない。
これからの社会では、すべての介護関係者が、他の領域の専門家と連携しながら、終末期を含めた高齢者の暮らしを護るという意識が必要だ。それが介護のプロとしての意識につながり、そうした意識を持つ専門家が存在することが、本当の意味での地域包括ケアシステムの基盤となるのである。
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