2月19日に発出された、介護保険最新情報vol.699は、タイトルが「がん患者に係る要介護認定等の申請に当たっての特定疾病の記載等について」とされている。

その内容とは、「がん等における緩和ケアの更なる推進に関する検討会及びがん対策推進協議会等 」の議論において、65 歳未満のがん患者が要介護認定の申請をする際には、「末期がん」 を特定疾病として記載する必要があり、記入しづらく利用が進まないとの指摘があることから、要介護認定等の申請をするに当たっての特定疾病の名称の記入に係る取扱い等について次のような取り扱いとすると通知している。

1. 特定疾病の名称の記入について特定疾病の名称の記入に当たっては、「がん(医師が一般に認められている医学 的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)」、「末期がん」又は「がん末期」等の記載に限らず、単に「がん」と記載されたもので申請を受理して差し支えありません。

2. 特定疾病の確認について 申請書に「がん」とだけ記載した方に特定疾病に該当するかを確認する場合であっても、「末期がん」等の表現ではなく、介護保険サービスを利用し得る状態である ことを主治医に確認したかどうかに留めるなど、申請者の心情に配慮した対応をお 願いします。なお、特定疾病に該当するかについては、介護認定審査会における審査及び判定に基づき判断するものであり、必ずしも、要介護認定等の申請を受理する時点において、特定疾病に該当するかどうかを申請者に確認する必要はありません。


この変更は末期がんで介護保険サービスを利用できるようになる2号被保険者の心情に配慮したもので、一定の評価を与えてよいだろう。

早期発見で治う可能性が高まってきた「がん治療」においては、がんの告知が当たり前になっているが、同時に治療不可能な「末期がん」の場合も、その病名と余命診断の結果を告知することが当然であると考えられつつある。

しかし告知される患者が、すべてそのことを冷静に受け止められるとは限らないし、ポジティブに捉えられるとも限らない。それは個人の置かれた環境・年齢・死生観等に左右され、告知することが良いことなのか、正しいかどうかという判断基準はどこにもない。それはあくまで個人レベルで判断すべき問題である。

そのことについては、僕の最新刊「看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」でも問題提起しているし、このブログの中でも何度か問題点を指摘しているので、「末期癌が特定疾病に追加されたことで生じる問題。」・「告知について〜死期を告げることの是非論」・「リビングウイルの視点・告知と余命宣告を考える」等を参照いただきたい。

今回のルール変更によって、上記で紹介した問題がすべて解消するということではない。そもそも65歳未満の2号被保険者の方であれば、自分が65歳に達する前に介護申請ができ、介護保険サービスが使えるためには、特定疾病に該当する必要があるということは知っている人がほとんどだろう。そして自分がどの特定疾病に該当するかも知ってしまうだろう。

その時に申請書の文言が、「末期がん」ではなく、「がん」としかされていないとしても、特定疾病の条件そのものが、「末期がん」である限りそれは動かせない事実だし、そのことを申請者自身が知ってしまう確率はかなり高いだろうと思える。よって記載ルールが変わったとしても、心情的な負担はそう変わらないかもしれない。

今回のルール変更で変わるものがあるとすれば、自分が末期がんで余命いくばくもないと理解している人に対し、介護認定の申請窓口という場所で、配慮のない言葉で心を傷つけ、身体死の前に心が殺される人がいなくなるように配慮するという意味しかないのかもしれない。自分の命の期限が短いと知っている人も、その事実を受け止めているとしても、心には常に揺れが生じ、ちょっとした言葉で、心に深い傷を負う場合がある。「あなた本当に治らない末期のがんで、もうすぐ死が近いのですか」という言葉の確認は、そうした心の揺れを増幅させ、深い傷跡に変えてしまう恐れがあるからだ。

このように終末期を過ごす人たちの心情に少しでも配慮しようとする取り組みは否定されるべきではないし、こうした配慮の積み重ねこそが、終末期と判定された人たちの心に寄り添う小さな一歩に結びついていくのではないかと思う。

どんなに医療や介護の知識があろうとも、がんに関する専門知識を持っていようとも、自分が終末期と診断されて、限られた時間を過ごす人の気持ちをすべて理解することは不可能だ。同じ気持ちになることはできない。

そうであるからこそ、自らの命の期限を区切られてしまった人・その事実を知ってしまった人の心情を慮って、少しでも心の負担を減らそうとすることは大事なことである。そうした配慮こそが、最期の瞬間まで傍らに寄り添うことができる関係性の基盤になってくるものだろうと思える。だからこうしたルール変更は、実質的に意味がないと切り捨ててはならず、そうした配慮を積み重ねた先に、逝く人の尊厳を守る結果が生まれてくるものだと信じなければならない。

それにしてもこの通知では、「要介護認定等の申請を受理する時点において、特定疾病に該当するかどうかを申請者に確認する必要はありません。」と、具体的な行為を指摘して、それが必要ない行為だとしている点が気にかかることである。

実際に申請窓口で、末期がんであるかどうか患者本人に、申請の必要絶対条件として確認のために行われている事実があるとすれば、ルールがどうあろうと、行政職員の人間性が問われる問題ではないかと思ってしまう。

このことが事実そういったことがあるという意味ではなく、検討会などの杞憂の結果、示された文言であってほしいと思う。

そうではないとしたら、あまりに人に優しさがない社会だと幻滅せざるを得ないからだ。配慮に欠ける行為が、ルールを守るという理屈で行われているとしたら、それは権力や行政の暴力でしかなく、哀しいくらい民度の低い国で生きている証拠でもあるということになってしまうからである。

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