1月末に予定されていた、消費税アップ分の介護報酬改定の諮問・答申がなぜか突然先送りされ、いつ答申されるのかという時期さえ示されていない。
(※6日16:00更新情報:平成31年2月13日(水)17:00〜19:00に第168回社会保障審議会介護給付費分科会が開催され、議題1として2019年度介護報酬改定に係る諮問についてが行われることになった。)

統計不正の疑いで批判の矢面に立っている厚労省にとっては、介護報酬の改定など構っている場合ではないと言ったところなのだろうか。改定時期が4月ではなく、10月だから急ぐ必要もないということかもしれないが、介護事業関係者にとっては、答申時期がいつになって、各サービス種別ごとの加算率がどうなるのかというやきもきが消えない状態で、焦燥感が漂っていることだろう。

僕は来週、神戸で行われる兵庫県老施協の施設長研修での講演が予定がある。そこでは当然時期的にも新処遇改善加算の情報は欠かせないと思い、ずっと答申を待っていた。

その答申内容を確認してから確定情報に基づいて講演スライドを仕上げようと考えていたが、近日中にそれが行われる気配もなく、配布資料作りのためのデータ送信期限となってしまい、答申を待たずに新処遇改善加算についての内容も含めた講演スライドを作成して昨日送信した。

ただ新処遇改善加算については、サービス種別ごとの加算率が明らかになっていないほかは、あらかたその内容については理解できた。だから講演のなかで、新処遇改善加算について解説すること自体にはさほど問題は感じていない。

現時点ではっきりと言えることは、この加算によって勤続10年以上の介護福祉士に一律8万円賃金アップされるとうことにはならないということが明らかになったということである。

月給ベースで8万円賃金がアップされる人は皆無ではないだろう。この加算の算定要件には、賃上げ後に「月8万円の賃上げとなる人・あるいは賃上げ後に年収が440万円を超える人を一人以上確保しなければならない」というルールがあるのだから、どちらかの要件に該当する職員が、最低一人はいるはずで、後者でなく前者該当の事業者も少なくないはずだからである。

しかし職場ベースでみれば、リーダーの役割を担う経験ある職員のうち、一人だけが8万円アップして、ほかの多くの経験ある介護福祉士は、その額に届かない事業者が多くなるのが確実な状況である。

できるだけ多くの職員に広く加算の恩恵を反映しようとすれば、経験のある介護福祉士の平均賃上げ額をできるだけ削ったうえで、削った分を他の職員の加算原資にするしかない。経験ある介護福祉士2:その他の介護職員1:その他の職種0.5の配分割合のルールの中で、最も効率的な配分額を視野に入れて、経験ある介護福祉士の支給ベースを抑える事業者も多くなるだろう。

新処遇改善加算の算定については、算定事業所に経験ある介護福祉士が何人いるかということは一切関係なく、サービス種別ごとに決められた2段階の加算率により計算された額が算定できる。高い方の加算率は、質の高い人材の確保・育成に努めていたり、職場環境の改善に力を入れていたりする事業所が高い区分の加算を算定できるようになっており、サービス提供体制強化加算等の取得状況を加味して設定される。

例えば50床の特養の場合、勤続10年以上の介護福祉士が一人しかいない施設でも、10人以上いる施設でも、算定できる加算額は同じということになる。そしてその配分は各事業者の裁量と判断によって、一定のルールの中で自由に決めてよいのである。ただし加算した額すべてを、職員の給与改善に回さねばならないのは、現行の処遇改善加算と同様で、加算額を上回る改善額の報告義務も課せられるだろう。

例示した特養のケースでは、前者は主任クラスの経験ある職員一人に月額ベースで8万円の給与改善を行い、それ以外の算定費用を、他の介護福祉士や他の職種に広く薄く回すという選択肢がある。この時多職種にもその費用を渡して薄く広くするのか、あくまで介護職員のみに回して、介護職員の給与をできるだけ高くするのかは事業者の裁量権の範囲だ。

問題は後者の場合である。先に示したように、この加算の算定要件は、賃上げ後に「月8万円の賃上げとなる人・あるいは賃上げ後に年収が440万円を超える人を一人以上確保しなければならない」というルールがある。逆に言えば、この条件が一人でもクリアされておればよいのであるから、新加算算定事業所においては、経験のある介護福祉士のうち、主任などの役職についている1名をピックアップして、その人だけ月額8万円アップさせ、そのほかの経験ある介護福祉士の平均改善額はそれよりかなり低いベースにとどめて、他の介護福祉士や他職種に広く配分するということも可能なのである。

よって後者の事業所では、10人以上いる経験ある介護福祉士のうち、8万円上がるのは一人だけで、その他の介護福祉士は、算定費用の中の配分方法を決める中で、事業所の裁量で支給される額が上下されるため、事業所間でかなりの格差が生ずるだろう。

440万円要件で算定する事業者なら、リーダー格の介護福祉士が改善後に年収440万円を超えるために必要な月額ベースの改善額が、8万円よりかなり低い額で良いという可能性もあるので、月額ベースで8万円の給与改善者がゼロというケースも想定される。そうした事業者ではリーダー以上の給与アップを行わない可能性が高く、その昇給額はかなり低くなり、その分を薄く広く他の職種の職員まで回すことになるかもしれない。

この加算を期待している皆さんにとって肝に銘じておきたいことは、「自動的に自分に入ってくるお金は一銭もない」ということである。極端な話、気に入らない職員であれば、どんなに経験年数が長い有資格者であっても、事業者の裁量で昇給ゼロにすることもできるのだ。

1月28日には、衆参両院の本会議で安倍晋三首相が施政方針演説を行ったが、その中で新処遇改善加算にふれ、「リーダー級職員の方々に月額最大8万円の処遇改善を行う」と述べ、経験ある介護福祉士全員が8万円給与改善されることではないという含みを持たせた。この発言は「8万円相当の給与増を行えるような処遇改善を実現することで、他産業との賃金格差をなくす」としていた昨年の通常国会時からトーンダウンした発言であることは間違いなく、どうやらこの加算は上げられたアドバルーンほど大きなものではなくなったようである。

要するに他産業に比較して給与が低いというイメージを改善するために、せめてリーダー格の役職のある介護職員の給与額を、年収440万円程度にしようというのが、この加算の最大目的に転嫁されたようである。

国からすれば、それでも給料を上げるには上げるんだし、そのための財源をきちんと手渡しているのだから文句を言われる筋合いはないと言ったところだろう。

しかし・・・しかし…そもそも論でいうと、この能力に関係しない経験年数を前面に押し出しての新加算は、処遇改善のためには、キャリアパスが大事だという今まで構築した論理が、いい加減な取り繕いに過ぎなかったという結論に達する恐れさえあり、何か大きな禍根を残したような気がしてならないのは僕だけだろうか。

どちらにしても事業経営者は、この加算の配分を巡って職員から恨みを買わないように(笑)、慎重に冷静に最も受け入れられる配分方法を考えていかねばならない。ここは心身をすり減らして、悩まねばならないところである。

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