新処遇改善加算の職場での配分をシミュレーションしてみたより続く)
この加算は加算対象職員である「業界経験年10年の介護福祉士」が何人いるかによって加算算定総額が異なってくると考えられる。(※計算式としては、各サービス種別に応じた加算率に対象人数を掛けて算定することになる案が有力と思われるが、確定するのは1月であることを了承願いたい。なお加算要件は「サービス種類ごとの加算率は、それぞれのサービス種類ごとの勤続 10 年以上の介護福祉士の数に応じて設定することが適当である。 」とされているため、サービス種別ごとに人数ごとに区切って設定されるのかもしれず、×対象人員ではない可能性もある。

よって昨日の記事で単純化して計算した24万円という金額も、加算対象の介護福祉士の数が増えれば総額がそれに応じて増えていくと想定される。(※実際には加算率によって一人に対し加算される金額は8万円より上下すると思われる。

この場合でも、加算額すべてを加算対象職員のみに支払うとすれば、それはそれで何の問題も生じないし、配分される金額も8万円で個人差はできないわけである。(※繰り返しになるが、実際には掛け率により8万円にはならない場合があるが、この数字はあくまで説明が分かりやすいように単純化した数字で、実際の金額は来年1月に各サービスごとの加算率が出されて明らかになる。

しかしこの加算を、経験年数が10年に満たない介護福祉士や、介護福祉士の資格を持たない介護職員などに拡大して配布しようとすれば、全体に配分する金額は、加算額総額がいくらになるかによって大きく異なってくるので、加算対象職員の数が多い事業者=事業規模の大きな事業者のほうが、より多くの職員に、より高い金額を配分しやすい構造になっている。そのことは昨日の記事でのシミュレーションにより明らかであろう。

しかし大規模事業者には、より多くの加算対象以外の職員もいるわけで、配分対象をあまりに広げすぎると、加算対象職員が数多くいたとしても、配分金額が小規模事業者より低くなるという逆転現象が生ずる可能性があり、単純に大規模事業者の方が恵まれているという構造でもない。

例えば介護職員が100人以上いて、その7割近くが加算対象職員であったとしても、加算対象になっていない3割の介護職員のほか、他職種にも配分しようとした場合、看護師や介護支援専門員以外にも、栄養士やセラピスト、事務専任職員や運転手、営繕職員など様々な職種の職員が多数に支給することになり、支給計算式の分母がかなり大きくなってしまう。

そうなると満額支給される職員以外の職員の、この加算で給与改善される額が低額となって、改善実感が得られないという事態が予測される。このため大規模事業者であっても、配分職種は全職種にはならず、加算対象以外の介護職員のほかのその他の職種は、介護支援専門員などに絞られ、事務職員まで配分される可能性は低いのではないかと思われる。ましてや運転手や営繕職員などに配分されることは期待薄だろう。栄養士も除外する事業者が多いのではないだろうか。

さらに昨日の記事コメントに書かれている方のように、「加算対象者に満額支給するということを売りにして、経験年数の長い介護福祉士を集める」と考える事業経営者も当然出てくるだろう。

職種による不公平感が生じないように、できるだけ多くの職員に配分するという事業者と、加算対象者に絞って給与改善するという事業者のどちらに、求められる人材が張り付くのかを、事業経営者は今から考えて、経営戦略の中でその方針を決定せねばならない。

ところでこの加算を介護職員以外の職種にまで広げて配布しようとしている事業者の方は、算定要件の中で注意しておきたいことがある。それは、この加算を配分できる「その他の職種」については、改善後の年収 440 万円を超えない場合に改善を可能とすることとされるルールがあるということだ。

つまり現行で平均年収が440万円を支給されている職種、および改善後に440万円を超える職種については、この加算を配分することができないのである。

すると特養等の介護施設の看護職員は、平均年収が440万円を超えている場合が多いので、配分対象外となる可能性が高いと言えるわけである。

それと一番悩ましいのは医療法人が経営母体の介護事業者である。それらの介護事業者は、医療機関に併設されているか、併設されていない場合も人事管理は医療機関と一体となっている場合がほとんどである。

この時問題になることは、新処遇改善加算は介護報酬加算であって、診療報酬に同じ加算が新設されることにはなっていないことである。

そんな中で、人事管理を母体である医療法人と一体的に行っている介護施設では、経験10年の介護福祉士が月額給与8万円増える中で、業務命令で同じ法人内の医療機関に配置されている同じ経験年数の介護福祉士は給与が増えないことになる。それでは医療機関で働く意欲はなくなるだろう。そうした医療法人では、介護事業者に配置転換を求める介護福祉士が続出するかもしれない。

さらに前述したように介護施設の中であっても、介護職員の給与が増えても、看護職員にはその配分がされない可能性が高い。そのような制限のある配布条件の中で、職種間の不公平感は広がる可能性もある。

どちらにしても加算要件に合致した事業者において、この加算を算定しないという判断はあり得ないが、その配分をどうするかについて、事業者ごとに大きく判断が分かれることが予測される。

加算対象職員に全額支給する事業者では、他の職員の不満が噴出するだろうし、配分の幅を広げる事業者においては、支給対象職員の不満が高まるだろう。どちらが良いとか、どちらが有利だとか判断できる何ものもないのが現状だ。その答えのない判断が事業経営者に迫られてくるわけである。

その結果、今所属している事業所より高い給与を支払ってくれる事業者を求めて、人材の流動化が加速される可能性が高くなることだけは確実に言えることだろう。

このことは介護事業経営者にとって、非常に悩ましい問題であるが、その解決方法はたった一つしかない。

それは現時点から、ここで取り上げた問題について、すべての職員に丁寧にわかりやすく説明して、職場全体で議論し、その配分をどうすべきかを事業者の総意で決定するように導いていくことである。

そしてこの加算の配分が最終的にどのような形になろうとも、それは事業者や事業経営者の収益とは全く関係なく、あくまで職員の給与等の待遇改善の目的として全額が使われるということを理解していただくことだろう。

それでも不満は解消できないかもしれないが、よりましな方法としてはそれしかない。

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