来年10月の消費税引き上げに併せて創設する新たな処遇改善加算については、介護事業者の人手不足の解消が目的とされており、介護職員のうちキャリアを重ねた人材を優遇し、その将来を描きやすくしてこの分野に関心を持つ人を増やしたり、離職する人を減らしたりする狙いがある。

そのため勤続10年以上の介護福祉士の給与を月額8万円改善することをベースに予算措置や支給方法が議論されているところだ。

この際に、「経験・技能のある介護職員」の範囲については事業者に一定の裁量を与え、基本は勤続10年以上の介護福祉士とするが、それは同一法人の経験に限定せず「介護業界勤続年数が10年」の介護福祉士も対象として扱えるようにする予定である。さらに介護福祉士の資格はないが有能なベテランも含めるなど、より柔軟な運用を認めることも検討していくとしている。

また新加算の支給対象は、現行の処遇改善加算III以上の加算対象事業者が条件とされる可能性が高く、他職種への配分も一部条件付きで認めていくことも検討されている。(※他職種への支給割合の制限などが検討される。)しかしこの場合でも、介護職員が配置されていない訪問看護事業所や居宅介護支援事業所などは加算対象にならないことになる。

ということは介護施設のケアマネジャーは、法人の考え方ひとつで、「新処遇改善加算」のおこぼれにあずかることができるかもしれない。しかし居宅介護支援事業所のケアアンネジャーは、そのおこぼれにさえあずかれず、1銭ももらえないというのが現時点での方向性である。

このことに関連して、介護業界の労働組合「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)」が11/16に記者会見を開いた。

その会見では、来年10月の消費税引き上げの際に新設される「新処遇改善加算」について「介護従事者全体の処遇を改善すべき」と主張し、特にこの加算が居宅介護支援事業所を対象外としていることについて、「ケアマネと介護職員の賃金は近接してきた。これが新加算で逆転することになれば、ケアマネを目指す人はさらに少なくなる」・「ケアマネジャーには介護福祉士の資格を持っていて経験を積んでいる人が多い。そういう人たちを蚊帳の外に置いていいのか」と指摘している。

NCCUのこの主張・提言はまさに正論であり、拍手喝さいを送りたいと考えている関係者は多いだろう。組合員にとってはまさに現場の声を代表して発言してくれている内容であり、組合員の期待に十分応える活動を行っているという証拠でもある。

僕もこうした意見を堂々と主張することには大いに拍手を送りたいという気持ちはある。

しかしこの主張が極まてまじめに行われているだけに、痛々しさも感じざるを得ない。それはなぜか・・・。

そもそも政府や厚労省が、介護支援専門員を対象外にして介護職員の給与を引き上げることで、介護支援専門員より介護職員の給与ベースが高くなることや、そのことで介護支援専門員のなり手が減ることを考えていないわけがないからである。

そのことを織り込んだうえで、なおかつ介護職員を中心にした給与引き上げ策とし介護支援専門員は他の職種として介護職員と区分しているのは、介護職員の確保を最優先にして、介護支援専門員の確保は二の次で良いと考えているからに他ならない。

むしろ国は介護支援専門員の資格を得るための条件となる、「実務経験」について、範囲を広げすぎたことを、ここにきて後悔している向きがある。

2000年の制度施行前に、介護支援専門員の資格を得ることができる実務について議論された当初は、介護福祉士も介護職員も、その実務に入っていなかった。しかしそれでは必要とされる介護支援専門員の数の確保が難しいとして、介護職まで実務範囲を広げたという経緯がある。

しかしそのことによって、介護の現場で体力的な負担を感じるようになった介護職員が、基本的に夜勤をしなくてもよく、デスクワークが中心となる介護支援専門員の資格を取得して、介護実務から離れてしまったことが、介護職員不足の一因となっているという考え方が生まれてきている。

さらに数の充足が懸念された介護支援専門員については、その数がすでに十分確保されており、むしろ今現在問題となっているのは、介護支援専門員の個人の資質の「格差」であるという問題意識が生まれており、その解決の方策とは、資格取得後の実習等でどうにかなる問題ではなく、受験資格のハードルを上げ、受験問題の難易度も高めることで是正しようという動きがあるのだ。

それが証拠に、今年度の介護支援専門員の実務研修受講試験を受けた人の数が、昨年度より一気に6割強も少なくなり、37.5%にとどまっていることについては、11/6に書いた「介護支援専門員実務研修受講試験の受験者の大幅減について」という記事で指摘しているところだが、そのことが問題であると指摘しているのは、外部の評論家や事業関係者のみで、国がそのことに危機感を感じて対策を検討しているという事実はない。

つまり介護支援専門員の受験者数が減っていることも、権謀術数に長けた国が仕掛けた罠だし、新処遇改善加算でさらの介護支援専門員のなり手が減ったとしても、その見返りに介護職員が増えればよいと考えているのである。よってNCCUの正論で、国がその姿勢を変えることはないのである。

しかしなぜ国は介護支援専門員の数が減っても問題ないと考えているのだろうか。制度の行く末にそのことは負の遺産とならないと考えるその根拠とは何だろうか。

そのことについては、長くなるので明日の記事に続きを書きたい。
国の隠された思惑とはケアマネの政策的削減(後編)に続く。

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