12日に開かれた社会保障審議会・介護給付費分科会では、来年10月の消費税率の引き上げとあわせた介護報酬の改定(増税分の引き上げ)に関連して、老施協や老健協の代表委員などから、食費と居住費の標準費用の引き上げを要望する声が挙がった。

食費と居住費については、平成17年10月から保険外費用とされ、原則的には利用者が自己負担する費用である。しかし低所得者の方などが負担できない事態が発生しないように、費用負担段階3段階までの利用者に対しては、特定入所者介護サービス費(補足給付)が支給され、利用者は負担段階に応じた費用負担軽減が受けられることになっている。

この際に第3段階の人までが補足給付を受けることができる条件として、食費や居住費の費用設定額が標準費用を超えないこととされているのである。4段階の利用者については、もともと補足給付がないことから、標準費用を超えて費用設定して全額自己負担としている施設も多いが、3段階までの人の設定費用をそれと同じくすると、補足給付もないために費用負担ができずに施設入所が継続できない人も出てしまうわけで、ほとんどの施設は第3段階までの費用設定を標準費用と同額で行っているわけである。

しかし今、実際に食費や居住費にかかっている費用が、標準負担額より上回っているということになっているというのだ。それはすなわち施設が持ち出して負担しているという意味になり、経営を圧迫する要素になっていることになる。この状態を是正してほしいというのが、今回の要望である。

この費用は現在、食費は日額1380円である。居住費はタイプによって異なるが、例えば特養の多床室なら日額840円となっている。施設の建築コストや維持・管理コストなどの上昇で、居住費の標準額も実際より低い額となっているとは思われるが、今日はとりあえずその議論は置いておいて、食費の標準費用額について考えてみたい。

そもそも食費とは何かということを今一度確認すると、それは「食費の設定に当たっては、食材料費及び調理に係る費用に相当する額を基本とすることと」(平成17年10月改定関係Q&A 追補版・【共通】 ガイドライン・特別な食事)とされている。つまり食材料費のほかに調理員の人件費がここに含まれてくるわけである。

一方で標準費用の設定根拠は何かといえば、それは総務省の家計調査が根拠になっている。その食費が1日平均1380円ということで、それが17年以降現在までも変わっていないということなのである。

なるほど近直の総務省の家計調査をもとに作成した世帯人数ごとの平均の食費を見ると、単身世帯(つまり一人暮らし世帯)の平均の食費は42,623円/月となっており、1日当たりは約1400円となっている。単身者はコストパフォーマンスが低いために、世帯人数が増えるとこの額は低下する傾向にあるため、介護施設で集団給食を提供することを考えると、この費用より20円/日安い1380円という標準費用は特に問題ないように見える。

しかし平成17年当時と現在を比較すると、食材料費はさほど大きな価格上昇はないのかもしれないが、調理員の人件費コストはかなり違ってきているのではないだろうか。調理員の人員確保も難しい状況と、食費が自己負担化されたことをきっかけにして、調理部門を外部委託する施設も増えているが、調理受託専門業者も人手不足に陥って、人材・人員確保の費用負担が増えている。それはそのまま介護施設との調理委託契約料金の上昇にもつながっているわけで、実際に食事提供のコストは標準費用を上回っている場合が多い。

特に第3段階までの人が多く入所利用している既存型特養にとって、標準費用額と実際のコストとの差額は、深刻な経営問題になっている。

勿論、食費の標準費用を引き上げることは、補足給付額が増えることで給付費の増加につながり、それは2021年の定時介護報酬改定の足かせにもなりかねないし、第4段階の人にとっては、さらなる自己負担増につながるかもしれない問題で、消費税アップ分の費用負担増加と合わせると決して小さな問題ではないが、施設運営に絶対必要なコストが、事実上施設の持ち出しとされている状況は今後の介護施設経営に大きく影響してくる問題なので、その額が適切なものなのかという是正議論は必要不可欠だろう。

食事は、利用者にとって最大の愉しみであり、なおかつそれは命の源でもあり、健康を保つために必要不可欠なものである。

そうした大切な食事提供の費用が、施設の持ち出しで経営を圧迫するとして、食材などを安かろう悪かろうものにしないとならないとしたら、それは利用者の愉しみを奪い、健康を奪う結果になりかねない。

そのあたりの視点も含めて、適切な標準費用額を今一度考え直してほしものである。

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