介護保険制度が施行された2000年から3年間は、「介護バブル」と言われるほど報酬単価は高く設定されていた。
その理由の一つとして、制度あってサービスなしという状況を生まないために、民間営利企業などをたくさんこの制度事業に参入させようという意図があったからである。そのため民間営利企業が参入できる居宅サービスは報酬単価が高く設定される傾向にあった。(※ただし単体経営で収益を出すモデルではない居宅介護支援事業を除いての話である。)
そうした事情もあって、通所介護の報酬単価も今よりずっと高く設定されていた。その単価は1時間単位で見た場合、特養の報酬単価より高いものであった。
通所介護の事業者数も今より少なかったことから、立ち上げれば顧客確保に困らないのが通所介護であった。さらに夜勤のない事業ということで、就職希望者も多く、人材確保も比較的容易であった。
だから多くの新規事業者が立ち上がった。特に小規模な通所介護事業であれば、立ち上げの資金も少なくて済み、立ち上げれば職員も利用者も苦労することなく確保できた。そこではサービスの質は問題とされず、他の事業者との差別化を図る必要もなく、利用者が確保でき収益が出たのである。
高い報酬単価であったからこそ、フランチャイズ展開も可能な事業であった。経営や介護の知識に欠けている経営者であっても、事業立ち上げノウハウや経営ノウハウを教えてもらうためにフランチャイズ加盟して、経営や運営はおんぶに抱っこしている状態で、毎月フランチャイズ料を支払っても、なおかつ利用者確保には困らず、営業収益は上がっていったわけである。
お泊りデイというアイディアも、夜間の保険外宿泊料を収益と考えて生まれたのではなく、利用者に宿泊してもらうことで、宿泊する日、宿泊している日、宿泊して帰る日のすべての日に、保険給付額が高い通所介護を受けてもらい収益が上がることを見越して誕生したサービスである。
しかし今の通所介護事業を巡る状況は、その当時と全く異なっている。
報酬単価は特養の1時間当たりの単価より低くなっているし、事業者数は当時と比べ物にならないほど増えているために、顧客確保に苦労して、顧客が集まらずに営業ができなくなる事業者も増えている。事業者数の増加と業界全体の人材・人員不足の常態化は、通所介護の人材確保にも影響し、人員確保に苦労する事業者も多くなり、人件費支出も増えている。
そんな中で10年前の栄光を忘れられずに、その時と同じ営業戦略で、再び自分の立ち上げた事業が右肩上がりに復活するなどという、根拠のない希望を抱いている経営者に待っているのは、挫折という二文字しかないだろう。
フランチャイズ料金を支払ってなおかつ収益が上がる事業ではないから、経営支援を誰かに受けないとならない経営者には、この事業は続けられなくなっている。
顧客確保のためには、他事業者とのサービスの差別化を図らねばならない。そもそも顧客層は昭和生まれで、戦後生まれの人に移りつつあるのだから、いつまでも明治・大正生まれの人をターゲットにしていた当時のサービスメニューでは、顧客からそっぽを向かれるのは当たり前である。
今どき風船バレーがリハビリメニューの中心であるという事業者もないだろうが、携帯電話を普通に使いこなす世代の、心身活性化メニューとは何ぞやという視点が必要だ。
小学校唱歌を唄わせている事業者は倒産して無くなっているのだろうが、カラオケが中心サービスである事業者の命脈も短いだろう。
そもそも顧客意識に欠けるサービスマナーのない職員に頼り切った経営では、もう持たない。
親しみやすさを表現するために、ため口で話しかけなければならないという必然性はないという、至極当たり前のことに気が付いて、サービスマナーを基盤としたホスピタリティ意識を持った職員を配置し、サービスの質を高めていかないと、他事業者に飲み込まれて営業困難な事業者にとして葬り去られていくだけの結果にしかならない。
この部分では、「何とかならない」のである。
地域密着型事業所として単独で、10年後に生き残っていくことができるようなこともない。地域密着型から一日も早く都道府県指定の事業者に事業拡大できるように顧客を確保していかないと、生き残りの道はないのである。
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